100年マンションのスペック / 数値で見るマンション性能
日本国内で販売され、ストックされているマンションは、海外の住宅に比べ約37年程度で建て替えられるものが多く、長寿命住宅と呼べないのが現状である。しかし、地球環境問題が叫ばれ、低成長時代にあっては、これまでのようなスクラップ&ビルドが困難となっている。近年になって国内のマンション事業者もロングライフを実現できる長寿命マンションへ開発販売がシフトしてきており、マンション購入者から見ると販売されている多くのマンションの中から賢く選べば、100年マンションも夢ではなくなっている。今回のコラムでは、100年居住を実現できるマンションに求められる必要条件について、具体的に数値化して書いていこうと思う。
100年居住できるマンションの条件を筆者なりにまとめると、構造躯体の耐久性、設備のメンテナンスや更新、ライフスタイルの変化に対応できる可変性、地震に対する耐久性、遮音性、セキュリティになり、概ね下表のスペックになる。
▼100年マンションのスペックモデル
以下、各項目について説明しよう。
1、構造躯体の耐久性
マンションの構造躯体の耐久性に大きな影響を及ぼすのはコンクリート強度、かぶり厚、水セメント比、配筋仕様である。
■コンクリート強度
マンションの寿命を左右するのはコンクリート強度である。コンクリートの強度は、設計基準強度という数値で表され、その単位は1平方ミリメートル当たりどのくらいの圧力をかけて壊れないかを計り、N/mm2(ニュートン)で表示される。例えば30Nとすると重量3,000tを1平方メートル当たりで支えることができる圧縮強度である。日本建築学会が定めた耐久設計基準強度では、18N/mm2で30年、24N/mm2で65年、30N/mm2で100年の間大規模修繕が不要とされている。
▼JASS5鉄筋コンクリート工事計画で定められた計画供用期間の級
ニュートン値が高いほど耐久年数は伸び、長寿命マンションということになる。最近のマンションは24ニュートン程度が多いが、超高層マンションには超高強度コンクリートが使われており、一般に60Nを超える圧縮強度を有する場合を指すことが多い。例えば、川崎市のパークシティ武蔵小杉(59階建)などは、業界初となる圧縮強度が1平方ミリメートル当たり150ニュートンの超高強度コンクリートを1階の柱に使っている。この数値は、高強度とされる60ニュートンの約2倍に当たる。またパークシティ武蔵小杉を施工する竹中工務店は、階数で日本一となる地上59階建て、高さ203.5mの建物1階部分の柱60本のうち8本に150ニュートンのコンクリートを採用した。150ニュートンのコンクリート自体は、数年前に開発され、これを当該マンションで初めて採用した。ザ・コスギ・タワーを施工する大成建設も独自に開発した同強度のコンクリートを使っており、竹中も大成の両社ともすでに200ニュートンまでの超高強度コンクリートの製造技術を確立済みで超高強度コンクリートの開発競争が加速している。
躯体部分に高強度コンクリートを使うことで柱や梁の出が少なくなるので間取りの自由度が高く、リニューアルが容易となり100年マンションが現実のものとなるが、ニュートン値による耐久年数を実証するデータはまだ乏しいのであくまでも参考値にとどまる。
■水セメント比
コンクリートの施工にはセメント、砂、砂利などの骨材と水が使われるが、コンクリートの強度は水の量を少なくすることで高まる。つまり、コンクリート建築の劣化は、ひび割れから発生することが多いが、施工時に水の量を少なくすると建物劣化の原因となるひび割れがしにくくなる。水セメント比は、セメントに加える水の量の割合を表すものでこの数値が高いほどコンクリート強度が低下する。一般に建築用コンクリートでは50~60%程度が多いが、100年マンションでは、主要構造部の水セメント比は50%以下が望ましい。
ひび割れ、コンクリート強度と施工の関係をもう少し説明すると、コンクリートは、時間が経過すると乾燥するし、日差しや、気温変化で収縮するが、収縮からひび割れが起き、その割れ目から水分や二酸化炭素が浸入して内部の鉄筋を錆びさせ、躯体が劣化していく。水セメント比を低めるため、水量を減らすと生コンクリートの流動性が失われ、マンション建設現場で、コンクリートをポンプで圧送して打設しようにも型枠の隅々まで行き渡りにくくなる。このように強度や耐久性をコンクリートに求めると施工性が悪くなるという相反する要求を解決してくれるのが、化学混和剤である。化学混和剤を使うと少ない水量で生コンの流動性を高めてくれるので強度と施工性の両方を高めてくれるわけだ。
例えば、超高強度コンクリートになると水とセメントの混合比をさらに小さくする必要があるので、化学混和剤として高性能AE減水剤などを使い、フェロシリコンや金属シリコンなどを製造するとき発生するシリカフォームと呼ばれる球状の超微粒子をセメントに混合して流動性を高める。使用するセメントも低熱ポルトランドセメントなどが使われている。
一方、圧縮強度が、120N/mm2クラスの超高強度になると、コンクリート内部が密なので火災時の高熱で熱膨張が大きくなり、内部で膨張した気体の逃げ場がなくなって内部圧力が高まるため、コンクリート部材の表層が剥離・飛散する「爆裂現象」が起きやすい。清水建設と竹中工務店が共同開発した「AFR(高耐火)コンクリート」の製造技術を活用すると超高強度コンクリート部材の高い耐火性能を確保できる。
■かぶり厚さ
かぶり厚さとは、鉄筋の上にコンクリートがどれくらいかぶさっているかを示す「厚さ」のことである。コンクリートは表面から中性化が進み、鉄筋まで進むと錆びやすくなり、コンクリートの劣化が起きる。かぶり厚さを確保することで中性化の進行を遅らせ、耐久性を高めることができる。
100年マンションであれば、品質確保促進法の劣化対策等級3適用のかぶり厚が望まれる。当該等級で水セメント比50%以下の場合、直接土に接しない部分の耐力壁、柱、梁で屋内3cm、屋外4cmで、直接土に接する部分の壁、柱、床、梁または基礎の立ち上がり部分で4cm、基礎で6cmとなっている。
■配筋法
外壁が鉄筋コンクリートの場合、壁内部は鉄筋を主筋と帯筋で網目状に組んでいる。その網目状の鉄筋だが1列のシングル配筋より2列のダブル配筋の方が強度が強い。また縦方向の主筋を横方向で巻く帯筋は、バンド型といわれる従来工法では帯筋の端を引っ掛けているだけなので地震ではずれることがあるため、地震対策上、鉄筋の強度を高める方法として、コンクリートの中で鉄筋を継ぎ目なくらせん状にぐるぐる巻にして横方向のせん断力を高めた「スパイラル筋」や帯筋のつなぎ目を溶接する「溶接閉鎖型せん断補強筋」が採用される。これらの配筋法と高強度コンクリートが一体となって地震への強度を高め、構造体の耐久力が増すことになる。
2、設備更新やライフスタイルの可変性(SIマンション)
購入マンションが長寿命であるためにはスケルトン・インフィル住宅(SI)仕様になっていないといけない。マンションが老朽化して建て替えが問題になるのは、躯体の老朽化というより、給排水管などが老朽化して機能劣化し、その更新に高額のコストがかかるため、建物を丸ごと建て替えたほうが経済性に適っているとか、当初の住戸プランとその後のライフスタイルが乖離し、その改善が物理的、経済的に困難であるなどのケースが多いのが実情だ。つまり構造躯体の耐用年数よりもライフスタイルの変化が早かったり、配管など設備部分の耐用年数(約30年)が短かいため、住み手にとってロングライフが実現できないマンションになってしまっている。
SIマンションとは、建物のスケルトン(柱、梁、壁、床などの構造躯体)とインフィル(住戸プラン、内装、設備)を分離した工法で建てるマンションである。SIマンションは、構造躯体(スケルトン)という立方体の頑丈な収容箱に各戸の住戸内空間が収納されて配置されたものと考えると解りやすい。収容箱は、高強度コンクリートで頑丈に作り、収納される専用部分は、設備の更新やライフスタイルの変化に柔軟・簡単に対応できるような可変性を持たせる仕様にすることで長期にわたって住み続けることが可能になる。SIマンションであるための具体的な条件として、高い階高、二重床・2重天井、給排水竪管用パイプスペースの共用部分設置などがある。
■階高、2重床・2重天井
SIマンションは、配線、配管のコンクリートスラブへの打ち込みを避けるため、2重床・2重天井にしてコンクリート床スラブ、フローリング、天井の間にスペースを確保し、電気配線や給排水配管を当該スペース内に横引き管として通し、横引き管を集約する竪管は、専用部分から分離させて共用部に設置することにより、将来の配管類のメンテナンス・更新に柔軟に対応できたり、各住戸の間取りで水廻りレイアウト変更も可能になる。
従来のマンションでは、住戸内の水周りの近くに最上階から1階まで貫通する竪管用のパイプスペースが通っており、上下階の住戸の排水などがそこに集まっているため、排水管などが老朽化し、機能不全になっても、各住戸の区分所有者の承諾を要したり、工事で躯体を毀損するなどで容易に取替えができず、マンション丸ごと建て替えるという方向へ進みがちだった。SIマンションでは共用の配管は、専有部分外の外廊下など共用部に設けられているので、設備のメンテ、更新が簡単にできるというメリツトが大きい。
2重床・2重天井にするためには当該スペース分、階高(下の階の床面から上の階の床面までの高さ)は高くなる。例えば階高(3m)=天井高(2.5m)+2重床(15cm)+2重天井(15cm)+床スラブ厚(20cm)となり、通常3mを超える階高となる。超高層マンションの場合は建物を支える梁のサイズが大きくなり、天井高が2.5mでも圧迫感があるので、階高は3.2m程度あることが望まれる。天井高は高いほど居住快適性が高いため、時代とともに高くなる傾向にあるが、一旦設定された階高をリニューアル工事などで高くできないのでマンションを選ぶ際の重要なポイントとなる。
3、床、壁、などの厚さと遮音性
マンション居住で苦情が出やすいのが上下階や隣接住戸間の音の問題である。戸建住宅と違い上下・隣り合わせに住戸が隣接するマンションライフの宿命であり、音を出す側、出される側の精神的苦痛が大きくなるのでロングライフ住宅としてマンションを捉えると遮音性のチェックが欠かせない。
■床の遮音性
音の問題は特に上下階に集中する傾向があるため、床の音環境のチェックが重要になる。床の遮音性は、スラブの厚さと遮音等級でチェックする。
音は空気の振動が伝わるものなので、スラブが厚いほど振動しにくくなり、遮音性が高まる。マンションも当初はスラブ厚120mm程度だったが、床重量衝撃音の低減や小梁をなくして天井を整形になどの要求から、最近のマンションのスラブ厚さは20cm~25cmが主流で、なかには27~30cmのものもある。
マンションの床の遮音性能は、床の衝撃音レベルによりL値等級で表される。L値には子供が飛び跳ねるような重量衝撃音であるLH値とスプーンを落としたときのような小さな固形物落下による軽量衝撃音LL値の2種類がある。いずれも数値が小さいほど遮音性は高くなる。重量衝撃音LH-50、軽量衝撃音LL-45であれば性能基準が最上級の5等級に該当する。
軽量衝撃音は、スラブ厚を高めることでは解消されないが、フローリングの性能で遮音効果が向上するのでLL-45、LL-40 の発泡ウレタン樹脂などの衝撃吸収材を施した遮音等級のフローリングが用いられる。
■壁の遮音性
隣接の住戸との境の壁を戸境壁(界壁)という。戸境壁は鉄筋コンクリートで壁厚が18cm以上、隣接住戸の水周りなどがくる場合は20cm以上必要で、壁厚が大きいほど遮音性は高い。タワーマンションは建物全体を軽量にするためコンクリート以外の石膏ボード、グラスウール、その他からなる乾式壁を採用するケースが多い。
戸境壁の遮音性能はD(透過損失)値で表される。例えば隣接住戸のピアノなど大きな音が90dbで、こちらの住戸に40dbで聞こえると、戸境壁は90-50=40で、50db分の音を遮っているのでD値はD-50となり、D値が大きいほど遮音性能が高い。隣の住戸でピアノなど大きな音を出していて「ほとんど聞こえない」というレベルがD-60、「かすかに聞こえる」レベルでD-55、「小さく聞こえる」レベルでD-50となっている。
住戸内の間仕切り壁は、厚さ12.5mm石膏ボードを上下階のスラブからスラブまで間隙なしに貼ることで遮音性が高まる。特に寝室と水周り間仕切りは石膏ボードを両面張りして内部をグラスウールや遮音シートを充填し、スラブからスラブへ張り込むことで天井裏、床下からの音の周り込みを遮断できる。
■PS内排水管の遮音性
SIマンション仕様になってなく、排水管のパイプスペースが住戸内を通っているときは、排水音に悩まされることになる。排水音を遮音するには排水管にグラスウールや遮音シート、アルミホイルペーパーなどが巻かれるなどの遮音対策がなされているかが購入時のチェックポイントになる。
■サッシの遮音性
駅や線路脇、幹線道路沿いのマンションでは、駅構内の放送、電車の通過音、車の騒音に悩まされることがある。このような外部からの音を遮音するには窓など開口部のサッシの遮音性能で左右されるため、サッシの遮音性能をチェックしなければならない。
サッシの遮音性能はT値で表され、T値が大きいほど遮音性能が高い。T-1~T-4まであり、T-1が標準、T-2が30デシベルの遮音性能、T-4で40デシベルの遮音性能があることになっている。例えばT-4だと外部の騒音レベルが70デシベルでも70-40=30で室内の音は30デシベルに抑えられる。
次回コラムは、100年マンションのセキュリティ、地震対策に言及予定。
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