高圧線下地の評価 前編

1、高圧線下地とは

不動産の調査や評価で現地実査をするとき、一般に上空を見て高圧線の通過を確認することを忘れがちである。対象地の境界や、道路幅員、未登記建物の有無等々の通常視界域の確認に熱中するあまり、上空を仰ぎ見ることをつい失念してしまう。「送電線が上空にあれば地役権登記があるさ」と安易に思い込んでいると痛い目にあう。線下地で地役権登記がなされていないものが数多くあるからだ。本稿でこのように厄介な高圧線下地の評価について言及する。

電気事業者が電気を送電するために架設した電線が架空された土地を「高圧線下地」という。鑑定評価では高圧線下地について架空電線による物理的利用制限、さらには心理的嫌悪感、騒音、電波障害、それらの諸要因の複合的作用による市場性の減退を総合的に勘案・考慮して評価を行う。

電気事業法に基づく「電気設備に関する技術基準を定める省令」は、電圧を以下の3種類に区分している。

  • 低圧
  • 直流にあっては750V以下、交流にあっては600V以下のもの

  • 高圧
  • 直流にあっては750Vを交流にあっては600Vを超え、7,000V以下のもの

  • 特別高圧
  • 7,000Vをこえるもの

鑑定評価で通常、対象とする「高圧線下地」は補償の対象となる「特別高圧架空電線下の土地」となる。

2、送電線の種類

■鉄塔

JEC-127「送電用支持物設計標準」に基づいて「鉄塔」として設計されたものを「鉄塔」と定義する。鉄塔として設計されていないEC-129の「鉄柱」と混同されやすい。鉄塔の形から「三角鉄塔」「四角鉄塔」「矩形鉄塔」「門柱鉄塔」に分けられる。また碍子の取り付け方法から「懸垂型」「耐帳型」と二つに分けられる。鉄塔には線路名、鉄塔番号、建設時点が識別できるように鉄塔番号札を掲示してあるので対象地両方向の鉄塔を鉄塔番号札の情報で特定し、電力会社に電圧、送電線地上高、離隔距離などを問い合わせることになる。

■回線数

国内では2回線(片側に1回線ずつ両側に懸架)が標準であったが、送電線ルートや鉄塔敷地の確保が近年、用地難から難しいので3回線以上の多回線送電線が増加しているが、回線の混蝕や誤認の可能性が高まるので安全性の面からみて多回線は好ましくないとされている。回線数が増えれば鉄塔は大型化し、心理的威圧感は増幅されるので線下地の減価は大きくなる。

3、利用制限の内容

■技術基準に関係した利用制限

電気事業者が、電気設備に関して公共の安全を確保するための「電気設備に関する技術基準を定める省令(以下 技術基準)」は、架空電線の建築制限や建造物との接近等について定めている。電気事業者は技術基準を遵守しなければならないため、線下の土地所有者との間で私法上の契約をして技術基準に適合するように利用制限することになる。制限内容としては特別高圧架空電線と建造物、工作物との接近制限が重要である。

▼技術基準133条:特別高圧架空電線と建造物との接近

  • 使用電圧が35,000V以下のもの
  • 離間距離は3m

  • 使用電圧が35,000Vを超えるもの
  • 離間距離は3mに使用電圧が35,000Vを超える10,000V又はその端数ごとに15cmを加えた値

建造物等の建築制限に関していえば、使用電圧のレベルにより建築等を制限する離隔距離が異なっている。

  • 使用電圧が170,000Vを超える
  • 電線を中心に3m+αを半径とする区域と相互(特別高圧架空電線と建造物)の水平距離(第二次接近状態)を3mとし、3m以内の直下の範囲が建築できない

  • 使用電圧が35,000V~170,000V
  • 3mに使用電圧が35,000Vをこえる10,000Vまたはその端数ごとに15cmを加えた値の範囲は建築できない

  • 使用電圧が35,000V以下
  • 送電線からの離隔距離である直線距離3mの範囲内は建築できない

上記により建設可能な高さを具体的に計算すると、

電圧160,000V、高さ20mの線下地
保安離隔距離=3m+([160,000V-35,000V]/10,000V)×0.15≒4.9m

建設可能な高さ=20-4.9=15.1m

※鉄塔間で気温等による送電線の弛み、強風時の揺れががある場合、その分だけ上記の建設可能高はさらに狭められる。

■電気事業者と線下地所有者との契約

電気事業者は、技術基準を遵守するため土地所有者の建てる建造物等を制限しなければならないので、土地所有者との間で何らかの私法上の契約を結んでいる。通常は、地役権設定による地役権設定登記で第三者対抗力を備えているのであるが、当該登記がなされず送電線架設保持に関する契約(債権契約)のみを交わしているケースもある。例外的に何らの契約も存在しないケースも存在する。

地役権設定による場合は、土地所有者に支払う対価は一括払いが原則で、例外的に一部一括払い一部年賦払いもある。債権契約によるときは、対価の支払いは年賦払いとなる。

電力会社が地役権登記を有しない場合でも、送電線地役権の時効取得(民法第283条)を一定要件により取得するという見解もあるが、地役権の時効取得には「表現かつ継続」という外形的形態が必要であり、特別高圧架空電線の存在自体は「表現かつ継続」の要件を充たすと考えられがちだが、この点に関して案件ごとの慎重な検証が必要で、参考までに仙台高裁判決を一部引用する。

仙台高等裁判所は、被控訴人の地役権確認請求及び地役権設定登記手続請求をいずれも棄却した平成13年(ネ)第206号地役権設定登記手続等請求控訴事件における判決の一部を引用。

地役権の時効取得のためには、被控訴人が地役権行使の外形を有していなければならない。被控訴人は、送電線の存在及び電気工作物規程から地役権行使の外形が客観的に認識可能であると主張するが、送電線の線下地所有者が事実上送電線の架設を承諾しているにすぎない場合もあるので送電線及び規程の存在から地役権行使の外形が認められるとはいえない。また、送電線架設のための地役権は、土地所有者の土地利用を著しく制限する強力な権利であるから、線下補償料、使用料などの対価が支払われるのが一般であるところ、本件2の土地については何らの対価も支払われていない。したがって、地役権行使の外形がなく、地役権の時効取得の要件を充たさない。

地役権の場合、地役権設定時における土地所有者に対する対価は一括払いが多く、年賦払いのケースもある。年賦払いのときは期間が最長20年(民法604条)、ほぼ2年毎の改定のケースが多い。

4、高圧線下地の範囲

線下地の範囲は、第2次接近状態に相当する送電線の最外線から3mの範囲とされることが多い。電気事業者との債権契約による賃料は「両側側線の線間幅に左右3mずつの距離を加えた範囲」を対象として算定されている。収用委員会の裁決例では、この範囲について不明確なものが多いがやはり外側線から3mまでのものが比較的多いようである(特殊な画地と鑑定評価)。

5、高圧線下地の鑑定評価

高圧線下地の鑑定評価にあたっては特別高圧架空電線が対象地の上空を通っていることにより発生する減価を中心に検討することになる。減価要因として、

  1. 最有効使用が制限されることによる物理的減価
  2. 景観や心理的圧迫感など嫌悪施設としての減価
  3. 強風時における騒音
  4. 電波障害
  5. 電磁波による健康被害の不安感

がある。

■物理的減価

特別高圧架空電線が対象地の上空を通っており、架空電線の建築制限や建造物との接近等で制約があれば、線下の土地所有者は、そのエリアで最有効使用と判断される建物を対象地上に建築することが困難になるため、当該地の経済価値は減殺されることになる。

民法206条は所有権(土地)は法令の制限内において自由にその所有物を使用、収益及び処分を為す権利であり…」と定めているように土地の所有権は、法令による制限がない限り土地の上下に無限であるが、現実には上下の空間も現実の使用手段が限られているため、限度があると一般に考えられている。

このように土地は、地上の最有効使用建築物の空間的範囲だけでなくさらにその上空、地下の一定部分にも潜在的価値を有している。例えば、上空については通信用施設、広告用施設煙突等の設置による利用があり、地下については特殊物の埋設、窄井による地下水の利用等(以下この種の利用を「その他の利用」という)が考えられる。このような潜在価値部分は、今後の社会的、経済的変化や技術革新で現実の利用可能範囲として徐々に顕在価値に移行していくとも予測される。

技術基準等による架空電線からの離隔距離の保持により、当然に建築制限という物理的減価が発生するわけだが、その減価の程度は対象地の最有効使用がどの程度の阻害を受けるかで判断されることになる。例えば、平屋が多い工場地と中高層マンションが標準的利用形態であるマンション地域では立体的利用の阻害程度は異なる。一般的にこの阻害程度による減価の査定には国土交通省損失補償取扱要領による「土地立体利用率配分表」「建物階層別利用率表」が用いられている。

▼土地立体利用率配分表

※注意

  1. 建築基準法等で定める用途地域の指定のない区域内の土地については、当該地の属する地域の状況等を考慮のうえ、土地の種別のいずれか照応するものによるものとする
  2. 土地の種別のうち、宅地の同一容積率での地下利用率については、原則として当該地の指定用途地域又は用途的地域が商業地域以外の場合等に適用するものとする
  3. 土地の種別のうち、宅地中、当該地の指定用途地域又は用途的地域が商業地域の場合の建物等利用率については、当該地の属する地域の状況等を考慮して、上表の率を基礎に加算することができるものとする
  4. 土地の種別のうち、農地・林地についての地上利用率と地下利用率との配分は、宅地見込地を参考として、それぞれ適正に配分するものとする

▼阻害率の計算例

住宅地域で地域の標準的使用などからみて最有効使用が5階建の集合住宅が考えられる場合、対象地上の高圧線により3階以上が建築不可となる場合の阻害率を求める。

1~5階の階層別効用比は「建物階層別利用率表」から100とする。


建物利用に対する阻害率
=β×阻害率
=0.7×(100+100+100)/(500)
=0.42
地下利用に対する阻害率
=0(考慮しない)
その他利用に対する阻害率(上下配分割合1:1)
=0.1×1/(1+1)=0.05
画地に対する阻害率=0.42+0.05=0.47

■主として心理的な面による減価(減価要因のうち2~5)

景観や送電線通過による心理的圧迫感、騒音、電磁波等の影響による減価は、人間のメンタル面に大きく依拠するため、物理的減価のような定量的分析は困難である。この減価率を根拠付けていくには、多くの線下地の取引事例の蓄積と送電線の各種要因の属性データがデータベース化されて分析され、その属性と減価との相関が統計的手法などで解析されるなどが必要とされる。

近年、送電線や鉄塔付近の電磁波の人体への影響が取り上げられることが多い。その因果関係については、現在、証明されてはいないみたいだが、現実問題としてこの面の不安感が市場性の減退要因となっているため、さらなる実証的な研究成果が待たれる。

以上より、送電線下地の減価要因をまとめると、

  • 使用電圧
  • 170,000V以上は、建造物の築造が不能となり、170,000V未満は、離隔距離を確保すれば線下地に建物の建築は可能となるなど170,000Vを境に土地利用制限が大きく異なる

  • 回線数
  • 多回線送電線が増加しているが、回線の混蝕や誤認の可能性が高まるので安全性の面からみて多回線は好ましくないとされている。回線数が増えれば鉄塔は大型化し、心理的威圧感は増幅されるので線下地の減価は大きくなる

  • 契約内容
  • 地役権登記がなされ、対価が一括払いされているときは、契約上、土地所有者は弱い。債権契約で対価が年賦払いのときは、使用料の多寡や更新期間等の調査が必要になる

  • 高圧送電線の地上高
  • 170,000V以下の場合、送電線の地上高が高いと離隔距離の保持が容易になるため、物理的に建築物の可能高は大きくなる

  • 地域の標準的使用(特に建物階層)
  • 対象地にどれくらいの高さ、階数の建物が建つかは、地域の標準的使用の状況や対象地の個別要因で決まるので、この観点から立体利用阻害の程度判定に影響する。また地域が居住を目的とする住宅地域の場合と、工場地などの場合では心理的嫌悪感のレベルは異なるため減価程度が違う。土地価格は、将来の収益性や快適性の予測を反映するため、対象地に想定する最有効使用建物の階層についても現状分析にとどまらず将来の地域要因変動による最有効階層の変化も考慮しなければならない

  • 送電線の画地の通過位置
  • 送電線の位置が画地の中心部付近を通る場合と、端部を通る場合では、当該画地の利用阻害は異なる。中心部付近に架線されているときは利用阻害が大きく減価も大きいが、端部の場合は利用阻害が比較的小さく、減価も小さい

  • 画地の規模・形状
  • 画地規模が大きいと建物配置で線下を避ける設計が可能であり、線下地を庭などに利用することができる。ある程度の規模があっても形状によっては建物配置が線下を回避することが困難な場合がある

■次回記事
  高圧線下地の評価 後編