耐震強度偽装で官に損害賠償責任を問えるか
姉歯設計による建築確認不正パスの激震はとどまるとこを知らない。関係業界では姉歯設計の関与をシラミツブシに過去から遡及して探しまわっている。運悪く姉歯細菌に感染している事実が世間に分かると、その不動産の価値は激減するため世間に知れ渡る前に耐震強度に問題がないか点検が進められていると思われる。これから全棟検査や任意抽出検査が予定されているが、こうなると第二、第三の姉歯菌が出てきかねない。よく知られている建設業界の手抜き工事の蔓延(程度の差があるが)、今回明らかになった民間検査機関の杜撰な検査の実態からみて十分に可能性がある話なのだ。
震度5にセットされた時限装置を仕掛けられた殺人マンション住民は、いつ襲来するかわからない地震の恐怖とこれから始まるローン地獄(下手すれば自己破産)の不安に苛まれている。住民救済に公的資金、つまりは税金を投入するかについてマスコミ、ネット、職場や家庭でその是非をめぐる論議が盛んだ。このようなエンドユーザーの自己責任論と行政の責任を巡る論争はともかくとして、特定行政庁(地方自冶体)や国などの官と売主瑕疵担保責任を負わされた建築主などとの間では来るべき裁判に備え、水面下で熾烈な法律解釈をめぐる攻防が進んでいる。このタイミングで今年6月24日に最高裁第2小法廷が示した決定、さらに11月30日にだされた横浜地裁判決が関係当事者の裁判の勝敗を大きく左右する鍵になるとして注目されている。例えば建築主の1社の「サン中央ホーム」は、「最高裁決定では、建築確認申請の許可権者はあくまで市であり、市に責任がある」とするチラシをすでに住民に配布している。
注目の最高裁決定の内容はこうだ。「2002年12月、横浜市山手地区のマンションの建設計画に反対する周辺住民が「景観が乱される」として当初は民間の指定検査機関に対し訴訟を起こした。マンション竣工後、管轄の横浜市へ訴訟相手を変更。民間検査機関が行なった確認を市が行なったものと認められるかが争われた裁判で、市は「確認をしたのは検査機関であり、市ではない」と主張したが、最高裁は判決に際して「民間機関による確認の事務は自治体に責任がある」との判断を示した。」つまり、イーホームズなど民間検査機関が下した建築確認の責任は管轄の地方自冶体にあると最高裁が判断したということである。
国交省は事件当初「この問題は民民問題」とコメントしていたが、北側大臣が記者会見で国の責任に一部言及し始め、公的資金投入へ徐々に方針転換したようだが、その舞台裏は、最高裁決定ならびに関連行政法法令を詳しく調べ、この事件は、民事法人である民間の指定検査機関の民事不法行為という「民民問題」に過ぎないという当初の省内の見解から地方公共団体もしくは国を被告とする国家賠償案件に発展する可能性があると警戒を強めた背景があるようだ。
○最高裁決定の要点として(弁護士山口利明事務所リンクの最高裁決定より抜粋)
- 建築基準法は建築主事の確認を受けなければならないと定めており、建築主事による確認事務は、地方公共団体の事務であり、同事務の帰属する行政主体は、当該建築主事が置かれた地方公共団体である。
- 建築基準法では指定確認検査機関の確認を受け、確認済証の交付を受けたときは、当該確認は建築主事の確認と、当該確認済証は建築主事の確認済証とみなす旨定めている(6条の2第1項)
- さらに基準法は指定確認検査機関が確認済証の交付をしたときはその旨を特定行政庁に報告しなければならないと定め、特定行政庁は、この報告を受けた場合において、指定確認検査機関の確認済証の交付を受けた建築物の計画が建築基準関係規定に適合しないと認めるときは、当該建築物の建築主及び当該確認済証を交付した指定確認検査機関にその旨を通知しなければならず、この場合、当該確認済証はその効力を失う旨定めて(同条4項)、特定行政庁に対し、指定確認検査機関の確認を是正する権限を付与している。
つまり建築基準法では、建築確認事務は本来、地方公共団体の事務と定めている。指定確認検査機関は、建築確認事務を特定行政庁の監督下において行っているので、指定確認検査機関による確認に関する事務は、建築主事による確認に関する事務の場合と同様に、地方公共団体の事務に該当し、その事務の帰属する行政主体は、建築確認権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体であると解するのが相当となる。確認権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たるというべきであって、抗告人は、本件確認に係る事務の帰属する公共団体に当たるということができる。
さらに上記最高裁決定に沿う判決が11月30日横浜地裁で示された。判決によると、横浜市港北区の建設中の「地下室マンション」で盛り土で地盤をかさ上げしたため、周辺住民が、国の指定検査機関による建築確認の取り消しを求めた。横浜地裁の河村吉晃裁判長は、建築基準法に違反するとして建築確認を取り消した。住民は、民間検査機関が確認したものでも横浜市に責任があるとして、市に損害賠償を求めていたが、河村裁判長は「検査機関に故意や過失があった場合、確認の権限を持つ横浜市が賠償責任を負う」と賠償責任まで認める判断をした(今回の確認処分については「故意や過失はなかった」として賠償請求は棄却している)。
上記最高裁決定などから建築確認事務は、地方公共団体、民間指定検査機関のどちらがやろうが区別なく「行政行為」となる。「行政行為」となれば国家賠償法第1条 「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」に定める「公権力の行使」にリンクし、「故意または過失」、「違法性」の要件は、偽造レベルの幼稚さや、通常の注意で見破れた杜撰な検査実態からみて立証できる可能性があるため、地方公共団体もしくは国を被告とする国家賠償訴訟が提起されるという見方が出てくる。地方公共団体、国の賠償責任を認める前提として指定確認検査機関、実際に建築確認申請を行っている元請建築設計事務所などの責任が認められることが当然に必要となる。 国家賠償法1条に最高裁判決がどのように適用されるかは今後の行政法領域で検討が重ねられるであろうが、耐震偽造事件がさらに広がりを見せると地方公共団体のなかには財政が逼迫したところも多く、市民への説明に苦慮するだろう。検査機関を指定した国にも責任があるとして国と地方公共団体間で被告の席忌避争いが白熱するかもしれない。
11月22日の読売新聞は下記のように伝えている。
「川崎市の担当者も「あくまで民と民の話。敗訴する可能性もあるが、全面的に争う」とするが、東京都港区の担当者は「最高裁決定を考えれば、区が後始末しなければいけない可能性がある」と戦々恐々としており、「自然災害とは違い、区民の税金を出す財政支援には批判があるだろうが…」と頭を悩ませている。」
■参考URL
https://homepage2.nifty.com/and-/text/8.htm(国家賠償法)
https://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/cat5025301/(弁護士山口利明事務所)
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