リバースモーゲージの課題と展望

1、リバースモーゲージ

リバースモーゲージ制度については、先に本コラムで紹介したが、その仕組みを簡単に説明すると、リバースモーゲージとは、高齢者が居住する住宅や土地などの不動産を担保として、一括または年金の形で定期的に融資を受け取り、受けた融資は、利用者の死亡、転居、相続などによって契約が終了した時に担保不動産を処分することで元利一括で返済する制度である。

住宅処分の形態で当該不動産を担保とする「担保型」と売買で所有権移転する「権利移転型」に分類される。米国型は、HECMなど「担保型」で、フランスはビアジェに代表される「権利移転型」となっており、日本は、米国型と同様に「担保型」になっている。

この制度は、利用する高齢者にとってメリットが多い。自宅など不動産は持っていても、現金収入が少なく、老人であるための将来不安や病気、不測の事態に対する怯えのため蓄えを崩せない高齢者が、自分が保有している不動産を担保にして、年金のような形で毎月の生活資金を受け、住み慣れた自宅を手放さずに住みながら、老後の生活資金を受け取れる。さらに融資は本人が死亡した時点で担保となっていた自宅を売却して清算するため、生前に自宅を手放すような抵抗感も感じなくてすむ点である。

2、急速に進む高齢化社会

先進諸国の中でも急速な高齢化が進み、1,000兆円規模に膨れ上がった国内の財政赤字という公的債務がもたらす世代間不公平の問題は、生産年齢層に負担を転嫁せざるを得ない高齢者の将来不安をいやでも増幅させる。

将来世代の生産年齢に該当する人口は、これから急激に減少、特に高齢化が進むなか、年金や医療、福祉の給付負担の世代間不均衡が深刻になる。また高齢者の再就職は容易でない。反面、世代間の65歳以上の持ち家率88.9%を超えている。本格的な高齢化社会が到来するいま、老人であるための漠然とした将来不安などのため過剰貯蓄が消費へ流動化しないでいる。日本経済が低迷から抜け出すためには高齢者の消費を拡大する必要に迫られているといえる。UFJ総合研究所による試算では、リバースモーゲージの潜在的市場規模は、00年時点で約178兆円となっており、同制度の整備、普及は日本型高齢化社会の到来を迎え、急務となっている。

3、最近の動向

日本で81年に東京都武蔵野市が導入し、続いて東京都世田谷区、神戸市などの自冶体や信託銀行も導入したが、活用例が極めて少なかった。その理由としては、制度自体の固有のリスクや、家族に家・土地を継承させたいという日本人特有の不動産への思い入れがある。先駆的自冶体により、比較的早い時期から導入され、その後信託銀行など民間も参入したリバースモーゲージであるが、本格的に普及するに至らず、バブルの崩壊で地価が下落したため、制度自体が死に体となり、活用がしばらく低迷した。

高齢化社会到来と年金制度の崩壊危機で再び、近年、脚光を浴びてきた。02年度に、厚生労働省が全国規模でリバースモーゲージを導入すると発表し、03年度以降、厚生労働省が貸付原資の3分の2を補助する形で、全国都道府県が「長期生活支援資金貸付(リバースモーゲージ)制度」を導入して以来、同制度の利用件数は顕著に増加し始め、大手住宅会社なども自社住宅の販促や団塊ジュニアによる新築ブーム終焉後を睨んだ戦略からリバースモーゲージの商品開発が進んでいる。

■長期生活支援資金貸付(リバースモーゲージ)制度

同制度の目的は、貸付要件として対象世帯を市民税非課税程度または均等割程度の低所得世帯としており、生活保護、福祉的色彩が色濃く出ている。そのスキームは、低所得者の高齢者の自宅を担保に生活費を貸し付け、死亡等により自宅を売却などで精算する制度とし、貸付要件は、世帯の構成員が原則65歳以上で、

  • 当該不動産に居住しており、将来にわたりその住居に住み続けることを希望していること
  • 担保不動産が申込人の単独所有若しくは配偶者と共有である
  • 配偶者または親以外の同居人がいないこと
  • 共有の場合、配偶者が連帯債務者となることを了承している
  • 担保不動産に賃借権、抵当権等が設定されていない
  • 推定相続人全員の同意を要す
  • 担保となる不動産の概算評価額が最低1,500万円以上ある(福岡県は、概算評価額が最低1,000万円以上)
  • 貸付限度額
  • 居住用不動産のうち土地の評価額の概ね7割相当額

  • 貸付利率
  • 年3%または銀行長期最優遇貸出金利のいずれか低い利率

  • 貸付月額
  • 1ヶ月あたり30万円以内で個別に設定

  • 貸付期間
  • 貸付元利金(貸付金+利子)が貸付限度額に達するまでの期間

となっている。

■民間型リバースモーゲージ(トヨタホームの事例)

最近、民間型リバースモーゲージが住宅各社により普及へ弾みがついている。例えば、旭化成、トヨタホームによるリバースモーゲージの導入がある。旭化成の事例は、先のコラムで紹介した。04年4月、トヨタホームは、トヨタファイナンスと共同でリバースモーゲージを導入した。60歳以上のトヨタホームの一戸建住宅購入者(愛知県在住)に限定して、公的年金や企業年金を補完する老後の生活資金として、「住宅の資産価値」を担保として定間隔で融資限度額を担保評価に応じて融資し、契約者の死亡など契約が終了した時点で、担保不動産の売却などにより一括返済する制度である。旭化成が住み替え型であるのに比べ、自宅に継続して居住しながら、融資を受ける点が特徴的である。

他の住宅大手4社も住宅金融会社を設立し、リバースモーゲージ(RM)の商品設計を済ませ、導入準備をしているという。住宅各社の狙いは、販売促進と、リフォーム、点検をRM利用の条件とすることにより、住宅新築後の長期的ビジネスモデルの構築にあると思われる。

■民間型リバースモーゲージ(中央三井信託銀行株式会社と三井住友海上火災保険株式会社の事例)

中央三井信託銀行株式会社と三井住友海上火災保険株式会社は、持家を担保にして高齢者に老後資金を融資する「リバースモーゲージ」の取扱開始に向け、保険を活用した新たな仕組みを開発した。以下同社のニュースリリースより引用する。

銀行と保険会社の提携によるこうした「リバースモーゲージ」の仕組みは日本で初めてであり、商品設計にあたっては、利用者は80歳まで毎年一定額の融資を受け、以降は三井住友海上きらめき生命保険株式会社(三井住友海上火災保険の100%子会社)の終身年金に切替えることも可能なスキームを構築した。これにより利用者は、生涯に亘って安定した収入を確保することが可能となる。

  • 借入資格
  • 利用時年齢満65歳以上の単身者または配偶者のみと同居の方(配偶者同居のケースは夫婦ともに65歳以上)、3大都市圏に自宅として一戸建住宅を所有する者

  • 貸付方法
  • 年1回の当座貸越方式1回あたりの貸出金額は100万円以上

  • 資金使途
  • 自由(事業性資金は除く)

  • 融資期間
  • 最長15年間(80歳到達時まで)、80歳以降は終身年金に切替え(任意加入)

  • 保証
  • 原則保証人不要

  • 返済方法
  • 原則自宅の売却金による返済

  • 返済期限
  • 原則借人の死亡時まで

以上、RMの整備は、社会的関心の深さを反映して急展開しているが、その本格的普及には、多くの課題が内在することを見逃せない。各課題につき検証し、今後の本格的な普及展開に何が求められるのかにつき述べてみたい。

4、課題

全国都道府県が「長期生活支援資金貸付(リバースモーゲージ)制度」を導入するまでは、物件価額が比較的高価でなければ融資の対象とならず、一般庶民が利用するにはハードルが高かったが、同制度の導入で概算評価額が概ね最低1,000万円以上となったため、導入事例が増加している。しかしながら、リバースモーゲージの商品固有のリスクとして指摘されている①長寿化②不動産価格低下③金利上昇②については依然として内在する固有リスクとして未解決である。

長寿化は、利用者が存命中に借り入れ残高が不動産評価額達してしまい、融資がストップするリスクがあり、不動産価格の低下は、契約期間中に担保割れを引き起こし、金利上昇で利息込みの借入元利金が増加し、不動産価格が低下しなくても同じく担保割れを起こす。担保割れリスクヘッジのため、結果として融資金額は担保掛目で縮小されたり、期間途中で融資ストップされたりするため、利用者がリスクテイクしている現状であるが、本制度の本格的普及のためには、貸し手の融資への懸念を解消し、利用者が終身に亘り安心して活用できる制度にしなければならない。

5、今後の展望

上記の商品リスクを解決し、同制度の本格的な普及を図るためにいくつかの提案がされている。そのなかから公的保険制度の整備、高齢者住宅を流動化するための中古住宅市場整備、貸付債権の証券化について考察する。

■公的保険制度の整備

公的保険で、融資総額が不動産の資産価値を超える場合、超過分を保険でカバーできれば、不動産価格低下や金利上昇リスクを解消できる。米国のケースは、日本に公的保険制度を導入する際の参考になると思われる。米国のリバースモーゲージには3種類の商品がある。

  1. 連邦政府の住宅都市開発省(HUD)のHECM(低所得者向け)
  2. ホームキーパー(低・中所得者対象)
  3. 民間金融機関のファイナンシャルフリーダム(高額所得者対象)

米国の場合、HECMの利用者が多く、HECMを提供する金融機関は、UFJ総合研究所の調査レポートによると97年の195社から02年で310社に拡大している。その理由は、FHA保険によるところが大きい。これは住宅都市開発省傘下の連邦住宅局による保険で、

  1. 保険料が割安
  2. 融資主体が支払不能になった場合、契約者への支払いを保証する
  3. 契約者に対する融資総額が住宅の資産価値を超えた場合、超過分を融資体に保証する

となっている。また遺族の同意が得られやすいように税制の配慮が求められ、各所得者層に合わせたメニューの多様化も米国に学ぶべき点が多いと思われる。

■中古住宅市場整備

高齢者住宅を流動化するためには、中古住宅市場の規模が拡大し、市場が整備される必要があるが、日本の中古住宅市場の現状は、お寒い限りである。中古住宅の流通量は、米国の年間400万戸に対し、日本は15万戸と市場規模が圧倒的に小さい。国土交通白書によると、98年での日本と米国1,000人当たりの中古住宅流通量は、日本は米国の約20分の1とこれも極端に小さい。

さらに国内の中古住宅流通市場の特性として建替え周期の短さが指摘されている。木造で20~30年で建替えられている。戦前は、木造住宅も躯体が強固なものが多く、かなり長期間使用されていたが、戦後、特に高度成長期は、社会変化が激変するため設備や間取りが陳腐化し居住ニーズにすぐ合わなくなるため短期間で使い捨て状態になつた。欧米の住宅が45年~70年程度の建替え周期を持ち大事に使用されてきたことと対照的である。高齢者の住宅は、一般に経年が進み、老朽化している。住宅に市場価値がないといきおい担保評価は土地価額のみとなってしまう。

しかし市場に変化の兆しがでてきたため、今後、中古住宅の価格査定法が変わり、リバースモーゲージを後押しするかもしれない。まず「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」と住宅性能表示制度の創設である。品確法では10年間の瑕疵担保責任が全ての業者に義務づけられた。構造上の欠陥だけでなく屋根、外壁からの雨漏りも10年間とされたため構造体の欠陥、手抜き工事による住宅の従来の短命化が相当カバーされる。大手住宅メーカーは躯体部分の保証を20年まで対象にしているところもある。

さらに02年、国交大臣が指定した指定住宅性能評価機関が、不動産売買やリフォーム工事の当事者でない第三者機関として、客観的に評価する「中古住宅の検査・評価制度」がスタートした。

これらの施策による建物の長寿命化の進行により、従来の中古住宅の価格査定法も変わり、建物価格を一律に経年減価する従来方式から住宅性能表示制度に近い個別の価格査定が普及すると思われる。住宅メーカーもスクラップ&ビルドから地球環境に優しい住宅再生へ舵を切り、住宅各社ともリフォーム事業を整備、拡大している。100年住宅など高耐久住宅やSI住宅を標榜する時代になってきている。中古住宅市場が整備され、透明性が高い価格付けが行われ、新築住宅の高耐久化が進み、リフォームなど住宅再生化が軌道にのれば、リバースモーゲージの制度環境が飛躍的に整備されるだろう。

■証券化

米国ではリバースモーゲージ債権を政府系の住宅金融機関である米連邦抵当金庫(ファニーメイ)が買い取り、資金調達を支援、信用補完するシステムができており、同制度の普及に大きく寄与している。

モーゲージ証券は米国では国債並みの巨大市場を形成している。住宅ローンの貸し手であるオリジネーターが、住宅ローンを貸し出し、この住宅ローン債権を証券発行体に売却をし、証券発行体は、これをもとにしてモーゲージ証券を発行する。発行された証券は、元利金支払の保証がされるなど信用力や格付が高められた上で、投資家に販売される。モーゲージ証券の大部分は、政府系の機関である連邦政府抵当金庫、連邦住宅抵抗公庫、連邦住宅金融抵当金庫により発行されており、信用格付けの高い債券として米国債券市場における取引高の主要な地位を占めている。

リバースモーゲージが日本で米国並みの証券化市場に成長するには、課題が多い。まず国内ではリバースモーゲージ融資案件が極端に少なく、債権をプールし、証券化するにはロットが小さい。さらに制度の性格上、融資期間が確定しにくいという問題もある。いずれにせよ、リバースモーゲージを急成長させる総合的施策や住宅金融証券化のインフラストラクチャーが急がれる。

■関連記事
  高齢化社会のリバースモーゲージ