賃貸住宅の家賃設定法 / 階層別効用比・位置別効用比

筆者のコラム「アパート・マンションの実践的家賃設定法」で、賃貸事例比較法と回帰分析による家賃査定の紹介をしました。今回のコラムでは賃貸事例比較法のなかでも最重要部分なのに、ちょっと解りづらい階層別効用比、位置別効用比を使っての家賃査定について書きます。

賃貸事例比較法を解りやすく言うと、「対象物件の家賃を査定をするのに、例えば事例の家賃は5万円だが、事例より対象物件の方が築年も新しいし、設備も良いので10%ぐらい高く55,000円にはなる。」といったプロセスで査定します。

アパート・マンションの中の1戸のみの家賃査定なら事例のアパ―ト・マンションのなかの1戸と比較して求めれば済みます。しかし1棟全体の全ての住戸について家賃を査定する場合、後述しますが、各階の平面形状の代表となる基準階(中層共同住宅では通常は3階)のなかの1戸について、事例と対象物件について家賃の形成要因を比較して賃料単価を求め、次に各階の階層別効用比率と各階のなかでの位置別効用比率を使って全住戸の家賃を簡単に求めることができます(階層別効用比、位置別効用比以外の設備、間取りなどの家賃形成諸要因が概ね全住戸同一のケース)。

■階層別効用比率

階層別効用比率とは1階を基準(通常100とする)にして各階の経済価値の割合(1Fを100とした場合に2Fが優るので102といった数値)を示した比率です。分譲マンションであれば各階の販売価格÷専有面積で、賃貸マンションであれば各階の実質賃料比率です。権利金がなく、敷金・保証金の運用益を考えなければ各階の月額家賃÷賃貸面積の比率になります。

例えば、分譲マンションでは、エレベーターが設置されている場合、上層階ほど販売価格は高くなります。この理由として、

  1. 上層階ほど景観や眺望が良い
  2. 騒音が少ない
  3. 通風・日照がよい

などが挙げられます。近年になって登場してきた超高層分譲マンションでは、上層階ほど販売価格が高く、上層階に住むことは、一種の社会的ステータスにもなっています。

三菱地所による都心型の高層マンション「銀座タワー」(東京都中央区銀座一丁目)と三井不動産による郊外型の「パークシティ市川B棟」の階層別効用比を見ると下表になります。

資料出展:(社)東京都不動産鑑定士協会作成「首都圏における超高層マンション等の階層別効用比」

都心型では下層階と上層階の階層別効用比の格差が大きく、郊外型では都心型と比べると格差が小さいことが解ります。一般に高地価の立地ほど階層別効用比の格差が拡大する傾向がありますが、高地価のエリアでは、建物の集積度が高く、隣接建物との間隔が十分に取れないため、眺望・景観、日照・通風などが低層階で阻害され、低層階と比較した上層階の効用が高くなるので格差が拡大するからです。

賃貸マンションの階層別効用比ですが、分譲と賃貸では効用比のベースが販売価格か賃料か(元本と果実)という違いがありますが、基本的には効用比についての考え方に違いはありません。下表は賃貸マンション「トゥールジョーヌ駒沢公園」(東京都世田谷区駒沢2)の階層別効用比です。上層階になるほど階層別効用比は大きくなっていますが、9~12階が8階より階層別効用比が小さくなっており、逆転しています。このようなケースの場合、上層階の9~12階より8階の方が眺望・景観等で優るような要因があるからと推測されます。

このように隣接建物や周辺の地勢、景観次第で上層階と下層階の一部で階層別効用比が逆転することもあるので機械的に上層階ほど効用比が高いと思い込まない注意が必要です。

●賃貸マンション「トゥールジョーヌ駒沢公園」階層別効用比

資料出展:(社)東京都不動産鑑定士協会作成「首都圏における超高層マンション等の階層別効用比」

■位置別効用比

同じ階層の住戸でも角部屋は中間部屋に比べ販売価格、賃料ともに高いし、エレベータの近くの住戸は足音や物音等が聞こえれば低人気のため安くなりがちです。このように同じ階層でも住戸の占める位置で経済価値が異なります。同じ階層での位置による経済価値の違いを割合で示した数値を位置別効用比率といいます。

方位で考えると一般に北向きが経済価値が最も低く、北→西→東→南の順で価値増が見られます。方位と角部屋による格差は下表です。左側の数値が方位で右側の数値が角部屋による格差です。なお、下表の数値は、角部屋でも細長い平面形状より正方形に近い方が価値増が大きいとか、隣接建物との間隔、周辺の地勢、住環境、眺望・景観などで個別に変動するので、物件ごとに適正な格差を判断しなければなりません。例えば景観価値が高いもの(著名な富士山や関門架橋とかランドマークとなる施設など)が見えるかで格差がより大きくなったり、方位格差が逆転するケースもあります。


■全住戸の家賃を査定するプロセス

例えば、基準階を3階とすると3階の角部屋でない中間位置の住戸の家賃を賃貸事例比較法と回帰分析を併用して求めます。次に求められた基準階の家賃を各階の階層別効用比を使って各階毎の家賃を計算し、さらに各階の位置別効用比で各階の各住戸の家賃を求めます(階層別効用比、位置別効用比以外の設備、間取りなどの家賃形成諸要因は全住戸同一とします)。

このプロセスを図解したものが下図です。賃貸事例比較法で基準階の中間部屋が例えば、月額賃料単価㎡当たり2,000円と求められると、各階の階層別効用比100~106の比率で各階の賃料単価が計算され、次に各階について「南向き角部屋だから6%高い」といった具合に位置別効用比を使って全室の賃料が査定されます。

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