土地境界確定について
不動産に関連する業務上、慎重な取り扱いを要求されるのが境界に争いがある土地である。現行法制が不充分なためその取扱いに慎重にならざるを得ないことが多い。ある土地に境界紛争があったり、境界確定訴訟が継続中であっても、第三者は登記簿等によってそれを知ることができないから、売主はその事実を隠して土地を売ってしまい、買主が不測の損害を被るおそれがある。過去に確認された境界について、現在の隣接地所有者が同意せず、当時の測量図や境界確定書等の書面は残されてなく、立会の際の口頭確認のみで境界標の設置もない場合、裁判所に境界確定訴訟を起こして確定判決をもらわなければならないが現状で境界確定訴訟と登記手続の連携がされていないため種々の問題点が指摘されている。
1、土地の境界
境界は、法的には「個々の土地を区画する公法上の区分線」と定義づけられる。人為的な区画によって大地は区分され、個別の土地として物件の対象となっている。人為的に区画された土地の範囲を画する線が境界である。土地は法律によって区分され、その一筆毎に地番が付けられている。ここで土地の隣接関係が生じる。この隣接土地どうしの地番と地番の境(地番界)を示すものを筆界と呼ぶ。いわば公法上の境界で登記に反映され筆界は隣接土地所有者どうしの合意があったとしても勝手に変更することはできない。筆界は創設された時点から客観的に定まっている。
土地境界については、上記の公法上の土地境界と私法上の土地境界とを分けて考える必要がある。公法上の制度として登記が定める土地境界を「公法上の土地境界」と呼び、所有権などのいわば私権対象としての土地の境界を「私法上の土地境界」と呼ぶ。「私法上の土地境界」は、言い換えると土地の持ち主の所有権の範囲を示す所有権界と定義される。これは地番界にとらわれずその土地の所有者の所有している範囲を言う。公法上の土地の境界と私法上の土地の境界とが一致していることが通常であるが、一筆の土地の一部について所有権を処分したり、取得時効が成立することが認められるため両者は現実には一致するとは限らない。また隣地の所有者間で境界の協定が出来ても、それで本来の境界が確定されてしまうわけではない。
2、土地境界が不明な場合
土地購入の際の契約書添付の測量図などや重要事項説明書によってかなり明確になる。境界判断資料としては、公図その他の図面、各隣接地の売買契約書や公図、実測図、分筆図面等、境界標識(境界石、境界杭)の状況などである。当事者にその時の資料等がないときは、法務局の公図を見る。公図は、面積や、距離が必ずしも正確ではないが、土地の形、道路との位置関係、隣地との相対位置を把握する参考となる。もし地積測量図があれば有効な証明資料となる。区役所や市役所の建築課・都市計画課等が保管する道路地図、道路指定図面は、作成の目的が道路の確定などであるため直接の根拠にはならないが、それらの図面を基礎にして、隣接土地所有者の道路確定の際の立会人の説明、立会事実などが判明する可能性がある。
境界確認に際しては、当該地の現在の利用関係と過去の経緯が重要と言える。当該地の境界に関する紛争の有無、合意はあったかなどの事実確認も必要である。現地検分では工作物、建物状況把握をする。特に塀は重要で、もし塀の所有権に問題があるとしても、塀が境界と言う推定がある程度はされる。また家の建築の際、隣家に侵入していれば、その際、何らかの紛争なり承諾が存在すると推定されるため、現状優先という見解から家の外壁、雨だれの落ち方、雨どいの形状など隣地との相対位置で検分する必要がある。それでも隣地との境界が不明確な場合、まず隣人と良く協議をつくすことが先決である。
またこれらの資料収集や現況調査には専門的知識と測量技術が要求されるので土地家屋調査士に調査依頼するのが良いと思われる。境界当事者の協議の結果、境界線の協議が成立したときは、後日の紛争を防止するためにも、土地家屋調査士に依頼して、境界標識(不動標識)を設置し、その内容を土地家屋調査士立会のもと、境界確認書として文書にしておく(但し、所有者間で境界の協定が出来ても、それで本来の境界が確定されてしまうわけではない)。もし、協議が調わない場合には、裁判所に調停を申し立てるか、最終的には境界確定訴訟を起こして解決することになる。
■境界確定訴訟
1、境界確定訴訟の対象としての境界
私法上の境界は境界確定訴訟の対象にになり得ず、現在の判例・通説は、公法上の境界こそが境界確定訴訟の対象となる境界であると解している。現行法上、土地は所在の市区町村・地番・地目・地積などを表示することによって特定され(不動産登記法78条)、登記所は政令の定めるところにより地番地区を定め、土地一筆ごとに地番を付することとされている(不動産登記法79条)。これが境界確定訴訟の対象とされている公法上の土地の境界である。
2、公図
●公図の歴史的経緯
公図は明治中期に行われた地租改正事業により作成された改租図を基に作成された地押調査図が主となっている。第二次世界大戦後の昭和25年、税制改革により、土地建物に対する税(固定資産税)が地方税とされるに及んで、台帳事務は登記所が所轄することとなり、台帳は地籍簿・家屋籍簿と定義された帳簿として主として登記所で機能するに至り、市町村には台帳の副本が備えられ、課税台帳作成の基礎とされた。昭和35年の不動産登記法の一部改正により、台帳と登記簿の一元化が図られ、現行法上は登記簿が唯一の地籍簿とされるに至った。土地台帳制度は同年に廃止されたので、その付属地図である公図を備え付ける法的根拠はなくなったが、公図の代りに備え付けることになった「法17条地図」の作成作業はその進行具合よりみて、完了時期が予測できない状況にあった。そこで、登記実務においては、法17条地図が完備されるまで、公図を便宜的・暫定的に従来どおり扱ってきた。
法務局の実情は、旧土地台帳付属地図の再製、国土調査による地籍図の修正、地図混乱地域における基準点設置、モデル作業としての法17条地図の作成など作業量が膨大なため地図混乱地域など問題のある部分を局所的に対処していた。平成元年民事局長通知でこれらの地図整備事業を体系的に整備し将来の地図のコンピュータ処理も導入する方針を策定した。コンピュータ処理導入には、国家基準点に基く座標値によつて各筆界点を表示する数値地図を備え付けるとし、この座標値をコンピュータで管理する構想である。平成5年不動産登記法の改正により、当面の処理として法17条地図が備え付けられるまでの間、これに代えて法17条地図に準ずる書面を法務局に備え付けることが明記された。これにより、公図は、特に粗雑もの以外は原則として地図に準ずる書面として認知されるに至った。
●公図の機能
公図は現地と登記簿を関連させ土地の位置・形状を知ることができる大まかなる公的図面であるから、土地登記簿とあいまって、その土地を特定する機能を有する。しかし、一般的に公図は、現地復元能力を有しないため証明力は高くない。また、現行不動産登記法上の法的効力があるとはいえ、その証明力(土地を現地に指示する証明力)は、結局地図としての精度によるものであるから、事実上のもの(証明力)にすぎず、境界を確定する形成的効力や公示力を有しているものではない。従って、公図の境界が不明であるときは、境界確定訴訟を提起し、その公図が間違っているかどうかを訴訟の中で判断されることになる。
3、境界確定訴訟の性質
境界確定訴訟の性質については学説を大別すると以下の3説になる。
- 確認訴訟説
- 形成訴訟説
- 形式的形成訴訟説(現在の通説)
土地の境界線というものは、客観的には必ずどこかに存在するものであり、この客観的存在たる境界を裁判によって発見、確認するのが境界確定訴訟であるとする。
境界確定訴訟の本質を慣習法によって形成原因が定められている民事訴訟法上の純粋の形成訴訟であるとし、土地の境界が不明な場合に裁判によってその境界を創設、形成するものであり、所有権の存否の確認とは関係がないとする。
境界確定訴訟を隣接する両地番の土地の公法上の境界が不明な場合に、これを新たに定める形成訴訟ととらえ、所有権とは切り離して考えるべきであるとする点においては形成訴訟と同じであるが、形成原因(形成要因)は存在せず、法律的主張としての請求がないから、共有物分割の訴え(民法258条)や父を定める訴え(民法773条)と同じように、本質的には非訴事件であり、形式的に訴訟の形態をとるにすぎないとする。
●判例
大審院大正12年6月2日判決が、境界確定訴訟においては、裁判所は当事者の主張する境界線に拘束されることなく、その真実なりと認めるところに境界線を定めるべきであるとして、形成訴訟説ないし形式的形成訴訟説の立場に立つことを明らかにした。最高裁判所になってからも、一般に、最高裁判所は、形成訴訟説ないし形式的形成訴訟説に拠っていると理解されている。
4、境界確定の判断基準
- 占有状況は重視される(民法186条1項)
- 公図その他の地図
- 境界標
- 境界確定協議の結果(官民境界確定訴訟)
- 紛争地、関係地につき面積を実測し、公簿面積と比較する(ただし、公簿面積は実測面積と一致しないことが多い)
- 山林の境界の場合、尾根、崖、谷などの自然地形
- 道路・山道・水路
- 林相・樹齢
5、現行制度の問題点
登記実務家向けの「月刊登記研究」では、現行制度の問題点を究明している。以下「月刊登記研究」に基き述べる。
境界確定訴訟については、現行の法令には根拠となる規定がない。よって境界確定訴訟については、手続きや判決の効力が明確でないという問題点があるとされている。又、形式的形成訴訟であるという説によれば、境界確定訴訟は、公法上の境界(筆界)を定めるものであり、実質的には非訟事件であるといわれている。
筆界は分・合筆等の登記官の処分によって形成されて確定しているはずのものなのに、筆界に争いがある場合には、裁判所が筆界を決めることができるというのは論理的に整合性がない。土地の筆界は、公法上の境界としての性質を有しているので、所有権界とは異なり、私人間の合意や時効取得によって移動することはあり得ない。現行の制度では、筆界と所有権界が明確に峻別されていることから、境界確定訴訟と所有権確認訴訟が併存しており、それらを統一的に解決する制度がないことが問題である。
所有権界について和解をしても、本来の筆界が確定されていなければ、和解内容に沿った土地の一部の分筆及び所有権移転の登記をすることができない。仮に境界確定訴訟の判決の内容が、登記官の実地調査等の結果によると不合理なものであっても、登記官からは、判決の是正を求める制度がなく、境界確定訴訟と登記手続の連携がされていないのが問題となっており、境界確定訴訟の判決が出されたとしても、その結果を登記しなければならないとはされていない。今の境界確定訴訟では、判決がされても裁判所から登記所にその判決が送付されるという仕組にはなっていないし、判決に基づいて当事者が地図訂正等の申出をすることができるとか、しなければならないとかの明文の規定がないため、判決の内容を登記に確実に反映できるようにはなっていない。現行の境界確定訴訟には登記官や土地家屋調査士などの、境界に関して専門的知識を有する者の審理への関与が十分でないことも問題となっている。
今、法務省で裁判外の境界紛争解決制度について研究をしており、境界確定訴訟は、判決確定までに相当長期間要し又、隣人同士で争うこととなるため、隣人関係を壊したくない等の理由により、あまり利用されておらず、その機能を十分に発揮されていないということが、不動産取引の活性化を妨げる一因となっているという認識が理由となっている。
現在検討されている新たな制度としては、境界紛争解決機関として、例えば、各法務局・地方法務局ごとに、地図や地域の実情に詳しい境界問題の専門家により構成される委員会を設置し、その委員会は当事者からの境界確定の申立て等に基づき審理を行った上、法務局長等に対して意見を具申し、法務局長等は委員会の意見に基づき、境界を確定する処分を行う。登記官は、この処分を受け、その内容に沿った所要の登記手続を行う。法務局長等の処分には行政処分性を認めることにより、処分に不服がある当事者は、裁判所に取消訴訟を提起してその処分について争うことができるということになる。このようなイメージを基に現在も問題点について研究が続けられている。
■関連記事
不動産売買と土地境界確認