米系不動産ファンドの日本不動産投資戦略

1、アメリカの海外不動産投資

海外不動産投資を国際的に展開するアメリカであるが、不動産でみると投資対象国基準が高いのは自国、アメリカという結論になる。

  1. 戦後アメリカは、地価上昇が継続している。これは米国の住宅価格が上昇しているからだが、上昇要因として米国の人口は毎年1%程度増え続けており、移民の増加が寄与している。ヒスパニックの持ち家率は90年代に3.4ポイント上昇して45.2%、白人の上昇率より高い
  2. 政治的・経済的な安定度が高い
  3. 税法上の恩典がある。居住者に限らず海外投資家のような非居住者も住居として最低2年以上居住している不動産を売却するときは不動産売却税は夫婦合算で$500,000で無税
  4. ノンリコース・モゲージローンは非遡及性があり、事業に失敗しても投資家個人財産まで追求されることはない。包括的個人保証をとり、再起ができない日本と異なる
  5. 不動産投資対象は、コンドミニアム、タウンハウス、商業用ビルやホテル、オフィスビル、土地など多様である
  6. 情報の透明性が高い。アメリカの代表的不動産インデックスNCREIFは英国のIPDと並び、ファンドマネージャーや個人投資家がベンチマークにする世界の代表的投資指標である

しかし、アメリカは自国の不動産投資に留まらず、モダンポートフォリオ理論により最適なポートフォリオを求めて資産運用ビジネスを世界的に拡大している。まずヨーロッパ、次がアジア、一部はラテンアメリカという投資序列である。投資序列はカントリーリスクやその国の経済や地価のサイクル予測(底値で買うため) などで決まる。

Sun Pop International Corporation代表山本正俊氏によれば、「Prudential Real Estate Investorsでは、投資可能なマーケットをコア、コアプラス、エマージングの3つのカテゴリーに分類しています。コアマーケットとは、グローバルな資本市場とつながっており、長期にわたっててカントリーリスクの低い先進国で、アメリカ、イギリス、ドイツ、そして日本などが該当します。コアプラスマーケットとは、経済発展の程度からコアマーケットよりカントリーリスクの高いものをいい、シンガポール、香港、アイルランド、スペイン、ポルトガルなどが該当します。エマージングマーケットとは、投資可能と考えられるマーケットの中でカントリーリスクの最も高いものをいい、ポーランド、中国、メキシコ、ブラジル、タイなどが該当します。コアマーケットは最もリスクプレミアムが低く、カントリーリスクという点ではおおむねアメリカと同程度だといえます。エマージングマーケットはアメリカに対するリスクプレミアムが最も高く、4%から11%の範囲ですが、平均してだいたい6%程度になります。コアプラスマーケットは上記2つのマーケットの間に位置し、平均で約2%程度になります。日本のカントリーリスクプレミアムは0.70%ですが、その後の信用格付けの低下を考慮すれば、コアプラスマーケット並になってしまったのかもしれません(雑誌 不動産鑑定)」と語る。

いま注目のWTO加盟後の中国は、不動産投資の面から見ると政治体制に加え法律制度の整備、税制、為替、国有銀行の不良債権など不透明性に問題があるという。

2、魅力的な日本市場

■海外投資家の不動産投資形態

(財)日本不動産研究所編「投資不動産の分析と評価」を引用すると、日本に投資している外資系投資専門家は投資形態に3つの特徴がある。

  1. 不動産直接取得による自社ビルとしての利用と自社商品の販売活動を狙うもの(不動産取得型:韓国・欧州系企業投資家)。このタイプはバブル崩壊後の不動産価格下落を反映し、賃料を継続的に支払うより自社ビルとして取得し使用・運用しようとする狙いが大きい
  2. 土地入札参加による取得を通して不動産事業化を狙うもの(不動産開発型:中国以下、香港、シンガポール系企業投資家)。取得した土地は賃貸オフィス、高級マンション等として開発し、日本での分譲・賃貸事業化を狙う。アジア系投資企業の投資は単年度利回りに注目したキャッシュ・オン・キャッシュ(Cash on Cash)の利回り(CC=初年度のキャッシュフロー{純営業収益ー借入金利額}÷自己資本投資額)を基本にして応札に参加する傾向があり、グロス利回りを使用する日本国内企業よりも低利回りで投資できることになる
  3. 不良債権および担保不動産を購入し、金融商品(不動産証券)として商品化等を狙うもの(不動産金融型:米国系企業投資家)

本稿では3の不動産金融型:米国系企業投資家を対象とする。

■不良債権と米系不動産投資ファンドの動向

98年4月、大蔵省は、「早期是正措置」が導入し、これまでの護送船団行政に決別した。金融機関に対する細かい裁量行政のかわりに金融機関を潰さないという行政の大転換を行った。「早期是正措置」の導入により、金融機関に対する行政に、自己資本比率という客観的な基準が用いられることになり、これが低い場合、速やかに段階的な是正措置が発動され、最悪の場合は破綻処理がなされることとなった。

そこで銀行は早期是正措置が発動される98年4月の前に自己資本比率を上げるため、貸し出し抑制や回収などに加え、不良債権の売却による回収を慌てて行った。それが銀行による97年春以降の不良債権のバルクセールである。主として米国の投資銀行やヘッジファンドがこれらの不良債権を、極端な場合には銀行の簿価の10%以下の安値で買い取っていた。

国内の投資家に叩き売りすると国税庁が安すぎるか売却価格の妥当性を査定し、妥当性を欠くと認定すると贈与税の対象になりかねない。売却した銀行の無税償却になるのかという問題も含め、大蔵省の統一見解もできてなく、税務署の担当者でバラツキがあった。外資の場合、国税庁も事実上、黙認しているケースが多く、相手国の会計基準で処理することが認められているらしい。余談だが、モルガン・スタンレーグループの不動産ファンドによる巨額の租税回避問題は、外国の企業も不動産ファンドも、本来、日本で上げた収益は、法人税を払わなければならない。にもかかわらず、この不動産ファンドは、課税権の及ばないオランダの関連のペーパー会社にそっくり収益を分配金として支払っていたとされ、東京国税局は、不当な税逃れにあたるとして00年までの2年間に180億円の申告漏れを指摘した。追徴税額は70億円弱になっていると指摘されている。今年、国税庁で開かれた全国国税局調査査察部長会議では、不良債権ビジネスの実態把握や、匿名組合の解明のため海外送金調書の点検強化などの指示がだされているという。
 
97年12月に東京三菱銀行が不良債権を売却したことが、日本におけるまとまった不良債権売却の始まりと言われている。北海道拓殖銀行や山一證券の破綻など、金融界が騒然とするなかで外資系は投げ売りされた物件をタダ同然の値段で買い集めた。買い手として登場したのは米穀物商社最大手カーギルの金融子会社、ローンスター、ゴールドマン・サックスなどだった。アメリカをはじめ外資系投資ファンドなぜ日本をターゲットにしたのだろうか、日本の感覚で言うとバブルが弾け、長期に亘り地価が底なしの下落をしている最中の90年代後半は、銀行の不良債権は一体いくらあるのかその全容は銀行と当局により隠蔽され、日本経済は萎縮するばかりで今もそうだが地価の先安感が圧倒的に国内に蔓延、支配していた時期である。

しかしアメリカの投資ファンドの見方は、日本国内の感覚と違っていた。利回りは、最近の数字でも東京は5.2%でシンガポール、フランクフルトに次いで世界で3番目に低いが、日本はカントリーリスクが低く、米国、ヨーロッパと比較すると日本の不動産市場のサイクルは遅れており、アメリカは自国の過去の経験から日本の不動産価格はそろそろ底と読んでいた。日本で今後予想される不動産市場の間接金融から直接金融への移行という構造変化はすでに90年代前半にアメリカの不動産マーケットで起きている。1991~92年のアメリカの不動産市場はバブル崩壊後の日本のように不動産価格の下落が加速していた。

アメリカは、金融技術を導入し、資金調達が活発化し、REITや商業不動産担保証券(CMBS)市場が拡大した。その間、日本は低迷し、経済も地価も底這いを続けていた。不動産市場のサイクルから見たとき、やがて日本が上昇を開始するであろうと予測し、期待したのである。

さらに世界No2の経済規模、不動産市場の規模を有するマーケットの大きさは無視できないし、日本が回復したときに、そこから得られる収益機会は莫大であろうというのが外資系の共通認識である。日本の国内環境として処分に迫られている不動産や不良債権を抱えている企業、金融機関にしてみれば、リスクを取って買える国内投資家が殆ど存在しないため、外資系ファンドと取引をせざるを得ないという状況があった。

不良債権投資から企業再生ビジネスへ

NPL(Non-Performing Loan 不良債権バルクセール)の投資妙味は、バルク、それ自体でポートフォリオを形成しており、リスク分散が出来ている。つまり、売り手は粗悪物件を売りたいがそれでは売れないのでバルクのなかに質が悪い物件と比較的良質の物件が混在させており、これらを買い手は複合的に購入するすることでリスクを分散できる。またシングルの実物資産よりも不良債権のほうが流動性が高いといわれている。これらの担保物権を市場や競売で売却するロットは、通常1件あたり3~5億円以下と言われる。このレベルであれば買い手がつきやすく、エクジット・ストラテジー(出口戦略)が見える。10億を超えると買い手がなかなかつかないと言われる。また当時の国内の不良債権市場の買い手は米系投資ファンドにプレイヤーが限定されており、購入を優位に進められた。

一方、シングルアセット(通常の不動産を個別に買う取引)は、金額が大きい上に、例えばキャッシュフローリスク(空室・賃料減額リスク、予測シナリオの不確実性等)などの個別物件リスクの分散が困難で、未整備な市場とプレイヤーが少ないため、エクジット・ストラテジー(出口戦略)のシナリオが不透明で、NPLに比べ、売り手と買い手の希望価格が大きく乖離しがちであった。買い手はキャッシュフローリスク、リスクプレミアムを乗せた割引率やキャップレートを要求してくるのに対し、売り手サイドは、買い手のリスクプレミアムを充分に考慮したDCF価格では当然、売りたがらない。

これらのファンドの特徴として、

  1. その債権の裏付けとなっている主として担保不動産が生み出すキャッシュフローに注目し、DCFにより現在価値を算定する
  2. 長期投資という考え方はなく、投資期間を設定して、期間内に資金を回収(出口=exit)する。米国のファンドの場合、通常、出口は長くて3年から5年であり、短い場合で半年と言われている
  3. 年率換算で最低20%の投資利回りを目標とする

さらに売主の瑕疵担保責任が認められている日本と違い、米国は原則、買い手責任であるため、特にシングルアセットのデューデリジェンス(法律、経済、物的な詳細調査)は物件のバリューに応じ、慎重に行う。外資系企業では、必要に応じ、各種レポートの第三者レビューが行われることもある。レビューの対象は鑑定評価書、エンジニアリングレポート、マーケットレポート等多様である。レポートを外注し、さらに客観的第三者がレビューを重ねることにより、取引自体のリスク軽減を図る 。

98年3月に銀行に公的資金が投入されると、銀行の不良債権売却のペースも鈍化してきた。更に98年夏にロシアの金融危機が米国で信用収縮を起こしたため、ファンドの中には、日本の不良債権市場から撤退するケースも目立った。

99年になると、サービサー制度が稼動し始め、20社前後が担保付不良債権を買うという体制が出来上がり、外資、国内資本入り乱れての競争環境になったため、外資のビジネスチャンスは相対的に狭められていった。

UBSウォーバーグ証券シニアアナリスト沖野登史彦氏によると、「東京都心の比較的競争力ある商業不動産を担保とするような不良債権のバルクセールというのは、次第に少なくなっていった。金融機関からのバルクセールは既に大手銀行から地銀や第二地銀に移行しており、担保不動産も地方案件や未開発の更地など収益化しにくいものが多くなっていった。そこで一部の投資銀行やリップルウッド、サーベラスに代表される投資ファンドは、不良債権買収のターゲットを、担保不動産の価値というよりも、事業会社そのものの企業価値に着目し、銀行、リース業、流通業の企業買収などに案件のポイントを移していった。一方で一部の投資銀行やダヴィンチに代表される投資ファンドは、不動産そのもの=ハード・アセットを、バルクではなく単品で買収していくようになってきた。即ち海外で年金基金などから資金集めをしてファンドをセットアップし、日本で不動産に投資するやり方である。99年当時の東京の不動産市況はまだ低迷状態からは抜け出してはいなかったものの、これらの米国の投資家が着目したのはイールド・ギャップである。即ち仮に不動産の利回りが5%であったとしても、70%のレバレッジを効かせてデットのコストが2%であれば、エクイティの利回りは12%となる。都心ではAクラスのビルはまず手に入らないので、Bクラスのビルを安く買い、追加の資本投資をしたり管理面に手を加えたりしてキャッシュフローを増加させて価値を上げるのが、彼らの一般的なやり方である。このような不動産投資ファンドの場合には、出口までの期間は不良債権のバルク買いのようなケースよりはもう少し長くて、3年から5年が標準と思われる(雑誌 不動産鑑定)。」

01年の対米テロを契機に米系ファンドは慎重姿勢を強めた。世界経済が日本を牽引するというグローバルな景気回復シナリオが崩れ、日本が不良債権問題を本当に克服できるかについて冷静に見守っている状況はあるが、米系不動産投資ファンドの日本進出は弱まったとは言われるものの、依然として続いている。。世界有数の総合不動産サービス会社、米ジョーンズラングラサールなども日本での事業拡大に積極的である。

日本経済産業新聞に来日したスチュアート・スコット氏会長の対日戦略の内容が掲載されていた。要約すると、「JLLのの日本市場開拓は85年に日本に拠点を構えた。当時の国内不動産の価格水準を考えると、海外から日本への投資は現実的でなかった。しかし地価下落により3~4年前から日本に対する海外投資家の関心は急速に高まってきた。JLLも当初数人だったスタッフを70人超に増強している。日本の不動産の所有意識が資産デフレ進行で、資産効率が悪い不動産を積極的に手放す動きがでてきた。今が底値かどうかは後にならないと解らないが一部の外資系ファンドのように短期間での利益確定を迫られる場合は、底値時期を特定する必要があるが、JLLの場合、中長期的視点で考えている。投資時期が底値の前後であっても別に構わない。今は底値とは言わないが、今後の値上がりが期待できるいい投資時期と考えている。」

02年になっていままで不動産狙いが主だった不良債権ビジネスが、大きく転換し始めた。外資系ファンド、国内資本のサービサー、RCCと入り乱れて新しい不良債権ビジネスが生まれている。それは、企業、あるいはその一部である事業の再生・再建である。

これまでの再生ビジネスは外資により不良債権ビジネスの一環として行われてきた。これは、プライベート・エクイティ・ファンドと呼ばれ、機関投資家や資産家から集めた資金で企業を買収し、再建して企業価値を高め、転売や株式上場によって利益を得る。日本で有名なのは99年に日本長期信用銀行を、01年に日本コロンビアやシーガイヤを買収したリップルウッドや日本債券信用銀行を買収したサーベラス、東京相和銀行や目黒雅叙園を買収、今年春には新たに約5,300億円の企業再生ファンドつくり、全国にゴルフ場、ホテルを展開する不動産会社「地産」の支援企業に決定したローンスターがある。

昨年からこれら外資の独壇場だった再生ビジネスにRCC、今年発足した産業再生機構をはじめ、国内の再生ファンなどが盛んに参入し始めた。不良債権ビジネスは新たなステージに入っている。

■今後の米系不動産投資ファンドの動向

「出口=exit」の時期がきている投資ファンドが多いが、外資系ファンドの買収・再建がどの程度の成果を上げたかは回収が終わってみないと解らない。例えばサーベラスは長崎屋の再建から撤退。旧日本長期信用銀行や宮崎のリゾート施設シーガイアを買収したリップルウッド・ホールディングスも、大手自動車金型メーカーのオギハラ(群馬県)買収には失敗したといったケースも聞かれる。

97年をピークにその後は日本国内の不動産取得は伸びていない。国内も不良債権市場は、RCC、産業再生機構に加え、サービサー各社、日本国内の不良債権がらみの主要な不動産ファンド、不動産投資事業を手がけるダビンチ、パシフィック、レーサムリサーチ、クリードなど新興企業も参入し、整備が進んでおり、外資が「ニッチプレイヤー」として活躍できた90年代後半の市場環境は外資にとって厳しいものに変化している。外資がもたらしたグローバルスタンダードの投資基準や証券化はこの国に根付いてきており、さらに都心の利便性・収益性で魅力がある物件も減少しており、全般的にみて外資の不動産投資は減少していくと見られる。

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