解りやすいDCF法の話し その1

1、収益還元法DCF法とは

DCF法は決して難しくありません。本コラムで不動産投資に欠かせない収益還元法、DCF法を活用できるようになられることを願って連載で書いて見ます。

平成15年「不動産鑑定評価基準」の改正により、DCF法は、「直接還元法」と並ぶ収益還元法の重要な手法として位置づけられましたが、実際は日本国内でこの手法は90年代後半の不良債権の担保不動産の評価や、その後、急速な不動産の証券化の進行で主要な不動産価値の評価手法として盛んに活用されていたというのが実情です。

DCF法の歴史について簡単に話しますと、1970年に米国でDCF法モデルがラクトリフとシュワップの共同論文により紹介され、当時は、実用化されることはなかったのですが、80年にマンハッタンのパンナムビルが売買されるにあたり、DCF法が適用されたのを契機に米国の投資家や評価人の間で認知されました。90年代に入り、米国経済も上昇基調となり、コンピュータの普及と相俟って、DCF専用ソフト(「アーガス」、「プロジェクト」など)が投資家や鑑定人の間で投資ツールとして共有され、米国の国際的不動産投資戦略に威力を振るいました。DCFとデューデリジェンス(物件の経済的、物的、法的詳細調査)は、日本の不動産投資市場に少なからぬカルチャーショックを与えました。DCF法は、いまや米国だけでなく国際的な不動産価格査定のグローバルスタンダードとしての位置を不動にしました。やや遅きに失した感がありますが、日本でも不動産価格評価の拠り所である「不動産鑑定評価基準」で正式に認知されました。

DCF法は連続する複数の期間に発生する純収益および復帰価格をその発生時期に応じて現在価格に割引、それぞれを合計する方法です。

  1. 連年のキャッシュフローの正確な変動予測
  2. 将来の復帰価格の的確な予測
  3. 割引率、最終還元利回りの精緻な適用

が可能でなければ、恣意的でアカウンタビリティに欠ける不動産評価になってしまう危険性を孕んでいます。的を得たDCF礼賛の批判もあります。しかし、急速にこの手法の研究は進み、ファイナンス理論や統計解析を併用した試み、さらには恣意性を排することができる投資インデックスや賃料、利回りなどのデータベースの構築に向けた評価環境が整備されてきています。

しかし、評価実務でいえば意外に面倒なのが、継続賃料、新規賃料の変動率の本質的相違や店舗・事務所、住宅の用途別の賃料変動率の相違です。1棟のビルに店舗、事務所、住宅が並存している場合があり、さらに空室や入れ替えで継続、新規賃料とモードが切り替わります。さらに面倒なのはこれらのイベントに対応して一時金残高の変動、権利金、更新料が新規、継続の各賃料の組み合わせで連動する点です。話が難しくなりましたが、ご心配なくこの辺のロジックとパラメータ処理はDCFソフトの出番となります。

2、DCF法の基本式

簡単に言うとDCF法(Discounted Cash Flow法)は、不動産の保有期間(数年間)に得られる純収益を現在価値に割引計算したものと、保有期間終了時の不動産の売却によって得られると予想される価格(売却予測価格)を現在価値に割り戻したものを合計することにより、不動産の収益価格を求める手法です。

と言っても解りにくいと思いますので、身近な例を挙げて見ます。ワンルームマンション投資の場合、中古で仮に1,000万円の物件があったとします。月額家賃5万円、年額60万円、経費控除後45万円、10年後に売却するとします。ネットで4.5%の利回り、10年物国債より高利回りです。そこで前段の「不動産の保有期間(数年間)に得られる純収益を現在価値に割引計算したものの合計」とは年45万円の純収益の10年分で後段の「保有期間終了時の不動産の売却によって得られると予想される価格(売却予測価格)を現在価値に割り戻したものしたものを合計」は10年後売却して手にしたCASHと想像がつくと思います。

売却価格は次の購入者が得るのは売却翌年以降のキャッシュフローですから(n+1)年目つまり10+1=11年目の純収益を最終還元利回りで除して、売却費用(手数料など)を控除して求めます(この辺は専門的ですから利回りの話しを次回するときに解説します)。

大筋ではその通りですが、1年後~10年後に入金が予定されている45万円は、今もらう45万円と価値が違います。今もらう45万円は確実ですが、10年かけてもらう各年の45万円は不確実です。賃借人が払わないかもしれませんし、不動産が保険の利かない不慮の天災で滅失するかもしれません。将来のおカネは不確実性が伴います。そこで不確実性が高いほど将来もらえるおカネの今の価値(現在価値)は少なくなります。将来の不確実性を考えれば現在価値に引き直すための割引計算(割引率を使う)をします。同様に10年後の売却価額も現在価値に引き直すために割引計算をします。つまり下記の式になります。貴方が不確実性=「リスク」と「現在価値」が理解できれば不動産投資のセンスがあります

重要なことがあります。入金が予定されている45万円ですが、不変ではありません。需要が多く、日本経済が回復して、給与所得が上昇でもすれば賃料は上がるかもしれません。またその逆もあります。経費も変動します。「連年のキャッシュフローの正確な変動予測」が欠かせません。売却価格も購入価格より通常は下がるでしょう。

下記のDCF法の式でインカムリターンとキャピタルゲインまたはキャピタルロスを総合的に反映させることができるのがお解かりでしょう。

単年度の利回りで不動産投資をするのではなく、時間的要素を加味し、インカムリターンの変動を予測し、将来のキャピタルを総合的に反映して、不動産投資をしないと判断を誤ります。

●基本式

収益価格=毎期の純収益の現在価値の合計+復帰価格の現在価値

●DCF法による収益価格Vの算定式


V:収益価格、a:初年度純収益、r:割引率、n:保有期間、Vn:保有期間終了時の不動産売却価格

3、DCF法は不動産投資の科学的検証法

今後、不動産投信(REIT)のデータ、不動産インデックスや収益不動産関係のデータベースの整備が進むと不動産は株や債券、その他の金融商品のように情報公開や流動化が進むでしょうから投資家にとって、各投資商品のリスクとリターンを量りながら選択ができる環境へ飛躍すると思われます。不動産投資と他の投資商品と比較し、その優劣を定量的に比較する指標となるのはDCF法で求められるIRR(内部収益率)やNPV(正味現在価値)です。

次回は不動産投資にDCF法がいかに有用であるか、さらには「利回り」についてお話します。

■次回記事
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