建設・不動産会社の相次ぐ破綻と今後の不動産価格動向

1、破綻が相次ぐ中堅マンション・新興不動産会社

アーバンコーポレーションが経営破綻し、8月13日民事再生法の適用申請した。同社は、広島のマンション販売仲介会社からスタート。その後、「アーバンビュー」シリーズでマンション分譲、不動産流動化事業を順調に展開して創業から10年後に東証1部上場を果たした。08年3月期に過去最高の620億円の経常利益を計上した後、6月に社債格付けが投機的水準に格下げされ市場や金融機関から資金調達が難しくなり、資金繰り悪化で負債総額2,558億円を抱えて経営破綻した。

今年になってマンション開発中堅のゼファー、不動産販売・賃貸のキョーエイ産業など上場企業クラスを含む建設、不動産の破綻が相次いでいる。帝国データバンクによると08年上半期(1-6月)に倒産した不動産会社は、201社で、前年同期より7.5%増えた。業界内では、倒産予備軍の隠語としてその企業の頭文字を取って「JAPAN」、「USA」、「UAE」など囁かれている。そのなかの「S」ことスルガコーポレーションと「U」のアーバンコーポレーションが経営破綻したことになる。倒産予備軍と呼ばれるこれらの会社の株価は、1年前に比べて右肩下がりで下落しているのが共通点だ。

九州では、福岡のマンション管理会社丸美に続き、宮崎のシーガイヤを施工した地場大手ゼネコン志多組も破綻した。丸美は小規模な清掃会社からスタートし、折りからのマンションブームに乗ってマンション管理からデベロッパーと提携してのマンション開発・分譲、リゾート会員権販売など業態を多角化していったが、多角化が災いして資金繰りが悪化、昨年来の保有物件の価格低下などもあって経営が破綻して8月5日に民事再生法適用申請となった。また宮崎県内最大手のゼネコン、志多組も経営が破綻して8月8日民事再生法適用申請を行った。同社は、首都圏のマンション建設に進出したが、ケイ・エス・シーなどのデベロッパーを主体にした完成工事の未収金が膨れ上がり、建築資材高騰による採算悪化や建築基準法改正による工事の遅れなどで収益構造が悪化し破綻した。

上記に見るように中堅クラスの建設・不動産の破綻が相次ぎ、業界内は「次はどこ?」と疑心暗鬼で、○○社の△△建設工事が基礎工事段階でストップしているとか、先行きの存続を危ぶむ風評が乱れ飛んでいる。

マンションが売れないことに加え、サブプライムローン問題以後、銀行が不動産融資を絞り、中堅のマンション事業者や新興不動産会社など財務基盤が脆弱な企業が、一気に破綻危険ゾーンに突入している。破綻しているのは、準大手以下のゼネコン、中小マンション会社、ハイレバレッジモデルで無理な借り入れ依存の事業モデルを推進してきた資金的に余裕がない新興不動産会社といったところに多いのが特徴だ。

なぜ中小クラスの建設、不動産会社の破綻が相次いでいるのか、いま起きている不動産市況の底流変化や暗雲垂れ込めてきた不動産市況の行方などを本コラムで論じる。

2、分譲マンション不況

「マンションが売れない!特に郊外などの競争力がない物件は売れ残りが深刻」。マンション業界は、土地仕入れ値や建築費の高騰を吸収すべく販売価格を設定してきた。年率10~20%の販売価格上昇は、購入者の購入限界値を超えて売れない、購入者が買える値段とのギャップを埋めるべく値下げを断行、専業デベロッパーの中には1~3割値下げしている企業もある。しかし時すでに遅しで契約率が低下、在庫が積み増されているのだ。

不動産経済研究所の調査では、首都圏で、発売戸数に占める契約戸数の割合である契約率は、05年で82.5%だったものが、07年には69.7%に急落。直近の08年7月は、前年同期比20.6ポイント下落の53.5%と今年1月以来の50%台を記録した。首都圏の販売在庫も6月末時点で10,760戸と飽和状態とされる1万戸を7ヶ月連続で超えた。

購入者サイドからすれば、所得が上がらないが物価は容赦なく上がるため、実質所得が低下しており、生活防衛色を強め、年収の5倍とされたマンションの購入価格ラインを年収の3倍までに堅めに見積もる世帯が増えている。さらに連日のようにメディアが報じるマンションデベロッパーの倒産続出で消費者の購入マインドは冷え込み買い控えているのだ。

マンション専業デベロッパーは、用地を取得し、マンションを建設して販売、アフターケアなど一連の流れを事業として行うのだが、建設はゼネコンに外注し、販売業務も外注することが可能なため、資金調達(銀行借入)の目途を立てれば、意外に簡単に事業を遂行できる、参入障壁が低い業界である。このため折からのマンションブームで財務基盤が脆弱な会社が多数参入してきた。

これらの専業デベロッパーの内情は、用地取得費、マンション建設費を銀行借入で資金調達し、販売できれば返済するといった自転車操業的な事業モデルになりがちで、資金余力のなさから銀行融資が止まれば破綻へ進んでしまうケースが多い。

これまでは、不良債権処理や企業の持たざる経営による土地売却で用地を安価に仕入れ、購入者の購入可能限度以内で販売できていたため、有効需要に支えられて業界に順風が吹いていたが、近年になって用地取得は、相対取引から競争入札に変わり用地取得価格が高騰、さらに建築費が高騰して販売価格の上昇圧力が強まった。反面、購入者の実質所得は低下しており、販売価格と購入可能額のギャップが拡大して売れなくなった。事業環境悪化に追い討ちをかけたのが銀行融資の厳格化で、自転車操業状態で融資が止まると、企業の存続ができない中堅マンション会社の破綻が加速することになった。

さらにマンション不況が、専業デベロッパーの建設工事を請け負ったゼネコンの工事代金の回収を困難にし、中堅ゼネコンの破綻を加速させている。7月30日、異例の3度目の会社更生法の適用を申請した中堅ゼネコン多田建設、7月5日に民事再生法の適用申請をした真柄建設などは、マンション建設の積極受注がマンション不況で資金回収ができず裏目に出た感じだ。

マンション分譲業者の相次ぐ経営破綻がゼネコンを直撃しており連鎖倒産リスクが高まっているので、ゼネコン各社は、危機感から支払条件の後倒しの改善や、与信管理の厳格化に乗り出しているほどだ。

3、新興不動産会社の危機

08年に入り不動産投資マーケットを牽引してきた不動産投資顧問会社のレイコフ、グローバンスが経営破綻した。新興不動産会社と呼ばれる設立後10年以内の中堅不動産会社の経営破綻が増えている。新興不動産会社は、ファンドやJ-REITなどへ開発・再生物件を供給したり、物件の売却益や手数料などを得るビジネスモデルを推進してきた。しかしサブプライムローン問題で外資系金融機関は保有していたサブプライムローンやその証券化商品の損失拡大で信用収縮が広がった。邦銀も不動産融資を絞ったため、新興不動産会社の物件の買い手であるファンドなどの資金調達は困難となり、J-REITも投資口価格の下落で増資ができないため、購入サイドの資金調達力が低下して保有物件の流動性が急速に低下した。

市場環境の急激な悪化に加え、新興不動産会社は、新規融資だけでなく借り換えも拒否される有様で資金繰りが行き詰まり破綻するケースが増えている。また金融商品取引法施行で、証券化スキームを使う上での資力や人的構成要件が厳格になり、ファンドの組成が困難になるなど従来手法でデッド、エクイティを調達することが難しくなったことも新興不動産会社のビジネスモデルを行き詰らせた。

外資系金融機関を中心にノンリコースローン債権を束ね、証券化したCMBSを機関投資家へ売っていたが、CMBSの買い手がサブプライム問題以後、細り、不動産市場環境の悪化でスプレッドもワイドになった。CMBSで証券化できるローン対象物件としては市場評価や認知度が低い中小物件はどうしても排除されるため、この側面からも中小規模物件の流動性は低下している。

いま、不動産投資市場では、猛烈な勢いで物件の二極化が進んでいる。地方物件、中小規模物件など流動性が低い物件は、銀行の融資の対象にならないか、金利などのスプレッドが拡大、買い手不在で外部売却も難しくなってきている。新興不動産会社の経営破綻リスクが高まっているのはこのような市況の激変に起因している。

4、財閥系不動産、海外政府系ファンドなど勝ち組は購入チャンス

エクイティが潤沢な財閥系不動産会社などは、不動産価格の調整が進むこの時期を絶好の買い場と見て、虎視眈々と物件購入を狙っている。まさに企業の財務力やポートフォリオのクオリティなど個々の内情を反映して、経営悪化で手仕舞いのために物件売却するか、市場の調整局面を外部成長のチャンスと捉えて積極的に物件を購入するかの分水嶺が決定されている。換言すると業界内で勝ち組と負け組みに鮮明に二極分化されているわけで、不動産市況は全体として見れば調整局面なのだが、価格動向を見れば売り一色の下落といった単純な様相でなく、エリアや物件ごとの二極化、まだら模様となっている。

例えば、日経不動産マーケット情報が08年6月に把握した全国のオフィスビルや商業用不動産の取引事例は102件で、中小規模の収益物件は動きは鈍いものの、資金調達力に優れる大手不動産会社による開発用地や優良大型物件の取得は依然として活発で、取引件数は前年同月(111件)とほぼ同水準になった。日経産業紙に掲載された大手不動産各社の取得例を紹介すると、

三井不動産は、6月三井住友銀行系の室町殖産と共同で、読売広告社が銀座に所有していたビルを取得した。隣接する複数のビルも両社で所有しており、合わせて1,100㎡開発用地を確保したことになる。両社は新たなビルに建て替える方針だ。

住友不動産は、6月、東京西品川にある自動車教習所や隣接するタクシー営業所などを取得した。敷地面積は合わせて2万平米に及ぶ。国際自動車が入札で売却したもので、価格は350億円を超える模様だ。

など財閥系不動産会社がこの時期に大型物件を積極的に購入している。

また日本経済新聞によると国内金融系のオリックスグループも08年中に国内の不動産物件に合計3,000億円投資する方針を決めている。都心部のオフィスビルやマンションの割安感が強まったと判断したからで取得物件は原則として長期間保有し、賃料や施設運営で収益を得る計画だ。

海外勢に目を転じると、サブプライムローン問題で、海外投資銀行などの信用収縮が起こり、日本の不動産や不動産企業に投資していた海外投資家の調達資金が枯渇、さらに日本国内投資から資金逃避が起こり、外国人投資家の構成比率が高いJ-REITの投資口価格が暴落したのは記憶に新しい。

日本国内の不動産マーケットの調整局面を迎え攻守所を変えて、サブプライムローン問題で傷を負わず、エクイティが潤沢な海外の不動産投資会社や政府系ファンドが日本の不動産を投資対象として購入していることに注目しなければならない。

例えば、世界最大級の不動産投資会社、ラサール・インベストメント・マネジメントは、投資資金の15%を日本に振り向けており、「今後も日本の不動産投資を拡大する。歴史的に見ても、国債に対する上乗せ金利の水準から見ても日本の不動産は魅力的だ(日本経済新聞)」としている。

またロイターによると、クウェートの政府系ファンド、クウェート投資庁(KIA)は、対日投資残高を最大3倍の480億ドルに引き上げる計画だ。KIAは日本の不動産セクターや株式市場などへの投資を計画している。オイルマネーで潤う中東諸国の政府系ファンドによる日本不動産投資は、投資方針や取得不動産の詳細については国家機密で非公開だが、既に日本国内不動産に相当額が投資されている。

海外投資家がどのような目線で価格調整が進行中の日本の不動産に投資するのか?有り余るマネーの使い道がないため、気まぐれから日本不動産に一過性の投資をしているわけではない。近年の機関投資家の投資行動の理論的規範とされるモダンポートフォリオ理論に基づく分散投資でリスクとリターンを最適化するため、株や債券、原油・穀物のコモディティなどと価格変動の相関が低い不動産をアセットに加え国際分散投資をしているのだ。

世界のマーケットのなかでも日本の不動産市場は世界2位の市場規模を持ち、J-REITの開設で透明性が高まっており、海外投資家がポートフォリオを組むとき無視できないのだが、日本国内不動産投資に対する海外投資家のスタンスとしては、短期のキャピタルゲイン狙いから長期的視点で利回りが安定したコア投資主体へ投資方針を転換している。

5、今後の不動産価格動向

現時の不動産市況を注意深く観察すると、今後の価格動向を占う上で興味深い特徴が浮き彫りになってくる。まず潤沢なエクイティに裏付けられた財閥系不動産会社や海外政府系ファンドが狙う物件は、都心部立地の基準階フロア面積1,000㎡以上のAクラス、Sクラスと呼ばれるハイグレードの大型オフィスビルなどである。大型オフィスビルについては東京都心部の大規模な再開発用地が一巡しており、09年、10年の計画値も抑制的なところから賃料推移も安定的で、空室率も低く、キャッシュフローのNOI基調は、当面は堅調に推移すると予測され、投資家のコア投資のターゲットとしての商品特性を持ち、流動性が高い。懸念材料は国内景気の下振れが強まるとこのクラスの需要を牽引してきた大手企業や外資のオフィス需要に翳りがでることだろう。

一方、中小不動産会社が取り扱う2~3流エリアもしくは、1流エリアでも規模が中小規模といったオフィスビルは、NOIの今後の推移はボラテリティが高く、価格調整局面において流動性が劣るため、銀行融資も厳しく、買い手不在で価格下落が激しいので、今後も市況は軟調に推移すると予測され、不動産の流動性から見たタイムラグから下落がさらに今後、加速する可能性が高い。

分譲マンションや住居系投資物件の価格動向はどうだろうか、分譲マンションのうち単身者向けやコンパクトタイプなど専有面積が狭い分は、容積率や立地など用地の選択基準で、単身者向け賃貸マンションなどレジ系の投資物件と重なり、ファミリータイプの分譲マンションは、同タイプの賃貸マンションと重なりそれぞれの用地は競合するため、タイプごとに互いに類似した価格変動を取ると思われるが、結論から言うと、ともに軟調で、しばらくは価格下落が続くと思われる。

建築基準法改正による確認申請の厳格化、長期化の混乱は徐々に終息しつつあるが、本年11月28日施行の改正建築士法では、一定規模以上の建物は、新たに創設される「構造設計1級建築士」、「設備設計1級建築士」がいなければ建築確認申請ができないため、新たな現場の混乱が危惧されている。

マンションユーザーの所得環境が改善する見通しは、インフレの進行や国際分業での企業サイドの労働分配率の抑制志向からみて厳しく、建築費高騰で上昇する建設費を吸収できる販売価格と購入可能額のギャップ解消に時間がかかるだろう。

特に分譲マンションの市場規模の60%を占める首都圏では販売価格の急上昇から需要が低迷、発売済み在庫が飽和点である1万戸を超える状況が続いているので、しばらくは価格調整が続くと見る。資金余力のない中小業者の淘汰は、加速度的に進むと思われるが、反面、都心部の好立地では大手不動産がブランド力を生かした商品投入を進めており、マンション不況の影響を比較的受けていない。マンション用地でも二極化が激化する。

賃貸マンションでは、後述の人口減少による住宅需要低迷による賃料下落懸念、需要に比べ供給が過剰ではないか、といった不安が市場全体に漂い、J-REITの住居系投資口価格が回復しない要因になっている。わが国では賃貸住宅市場全体の賃料や空室率を把握できる客観性が高い統計データが整備されていないため、このような不安要因をリスクとして定量できずにいることが住居系不動産投資の足を引っ張っている。

長期的にみると04年から国内の人口減少が始まっており、10年後の15年からは世帯数の減少が始まる。「住宅の1次取得世代と見られる30~44歳を世帯主とする世帯について見ると、1985年1度目のピークを迎えた後、団塊ジュニア世代の影響により、全体でも2010年には2度目のピークを迎え、核家族世帯ではすでに2005年に2度目のピークを迎えている。以上のことからも、今後、住宅市場が大きく伸びることを期待することは難しいことが解る(野村総研 2015年の建設・不動産業)。」といった指摘のように、マーケット規模縮小のカウントダウンがすでに始まっているので、東京など一部の都市は時間差があるものの、住宅価格回復の重しとなるだろう。

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