上場された不動産投資信託の課題
1、不動投信上場
9月10日、東京証券取引所に不動産投資信託2銘柄が初めて上場された。ジャパンリアルエステイトの初値は募集価格より1.9%高い53万5千円、終値は3.8%高い54万5千円、売買代金は105億円だった。日本ビルファンドの初値は募集価格と同じ62万5千円、終値は1.4%低い61万6千円となった。
日本ビルファンド投資法人組成主体、三井不動産の岩沙社長は「価格に関しては市場の評価として厳粛に受け止める。(中略) 価格より1日で124億円規模の取引をしてもらったことのほうが重要。私自身は上々の船出だと思う」と語った(日経産業新聞)。
ジャパンリアルエステイト投資法人組成主体の三菱地所高木社長は「当社系の投信は公募価格を上回って取引されており健闘している。不動産業界は従来借入金でビルなどを開発、20~30年かけて回収してきた。今後は収益性さえ高めておけば開発投資の回収の出口として投資家がいる。小泉首相が掲げる都市再生の方向からみても不動産の流動性は高まるはずだ」とインタビューに回答した(日本経済新聞)。
三菱地所は不動産開発の出口戦略としてファンドを重視している。開発物件にテナントをセットし収益採算性を高めファンドに売却して投下資金回収を図るというビル分譲手法への布石と見れる。三井不動産はファンドから物件の運営・管理を受託しフィーを取るノンアセットビジネスの拡大戦略としてファンドを重視している。
それぞれの組成主体拠出内容をみると三菱地所系は全20棟を組成主体内部で調達し三井不動産系は全15棟のうち9棟を組成主体外部から調達した。三井、三菱系は主要投資対象をオフィスビルとして展開しているが、日本版REIT参入を予定している後発のファンドは安定賃料が期待できる賃貸住宅をはじめ商業施設、ホテル、病院など多様な投資対象物件を組み込むだろう。
▼上場不動産投信概要
※上表は日本経済新聞、日経産業新聞の掲載記事を参考。
2、上場後の課題
国内景気の急速な冷え込みに加え米国同時多発テロの影響で日経平均1万円割れした国内株式市場のなかで不動産投信は上場しスタートした。今回の発行価格で割った予想配当利回りは4%台前半で10年国債利回り(1.3%程度)より高いため個人資産が新市場に流れ込み市場は拡大するのではという期待を証券各社は寄せている。国土交通省はJ-REITを中心とする不動産証券市場は今後10年で10兆円規模に拡大すると予測している。国内企業、金融機関等が保有する不動産資産規模約480兆円の10%が不動産市場に出ると50兆円を投資対象とできる計算になる。
募集価格を三菱系は上回りまずまずの出足をみせた不動産投信であるが上場前より指摘されクリアされてない問題に加え国際分業化された米、欧、日アジアのIT不況、9月11日米同時テロ発生による世界同時不況の深刻化によるオフィス需要悪化が重なり先行き不透明感もでてきた。
①2003年問題
都内では2002、2003年と新規オフィスの大量供給(約316万㎡)が予定されており、供給過剰による賃料低下、空室率の増加が懸念されている。また米国のIT不況に米同時テロが重なり世界同時不況の深刻化、長期化によりさらにオフィス需要が今後悪化する。IT関連と外資系金融機関が国内オフィス需要を牽引してきたがこれらの失速は深刻で全体需要に影響する。
②個別不動産情報の不透明性
上場された個別不動産の情報開示レベルが充分でないことを投資家、アナリストが指摘している。金融庁は改正投信法施行規則で個別物件の収益状況開示を求めているがテナントの守秘義務などで開示されていないケースが多い。投資家の比較検討データとして機能していないため的確な投資判断ができない。不動産全般を鳥瞰する整備されたインデックスが乏しい。特に賃料、売買価格のデータベースが不十分である。
③利益相反問題
投資家と運用会社の利害が一致しない場合が多い。三井不動産は日本ビルファンドから生じるテナント仲介やビル管理の殆んどを請け負っている。米系ファンドの担当者は本来なら入札で業者を選定すべきと言う。関係会社間ではビル管理手数料が必要以上に払われていてもチェックが効きにくい運用会社が不動産会社の子会社であるため関係者取引を避けることは難しい(日経産業)。米国では、REITがその内部に管理、運営会社を保有するが、国内では大手不動産会社が事業母体のREITは関連会社が運用し本体や子会社が業務受託するため利益相反の可能性が懸念されている。
④優良物件の取得難
今後の不良債権処理の進行や固定資産の減損会計処理の適用予定などで大量の不動産供給が中長期的にはなされると予測されるが債権処理ビジネスの現場では不動産担保付不良債権が少なくなっている。外資が97年から昨年末までに購入した不良債権総額は簿価で約30兆円、その大半は極めて低額で取引されたためめぼしい案件は売り尽くされたとも言われている。ファンドの投資対象となる物件は収益性より見て限定され、ここ3~4年で買取価格は値上がりしている。
⑤流動正確保の問題
不動産投信はキャッシュフローによるインカムゲイン重視の商品のため長期にわたり保有してもらいたいという商品特性がある。しかし投資家全員が長期保有すると投資口の流動性確保に障害がでてくる。証券会社は本来、株売買の回数に応じて手数料を得るため不動産投信の商品特性は相容れないものとなる可能性がある。
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