増加する在宅勤務者、SOHO

インターネットなどの情報技術(IT)の発達を背景に、自宅や小規模オフィスで仕事をする在宅勤務者は確実に増加している。

社団法人日本テレワーク協会の推計では96年度に81万人だった在宅勤務者の人口は02年度中には全労働人口6,766万人の約5%にあたる300万人に達した。上場企業の2割、全体でも13%が在宅勤務制度を採用している。対象職種も従来の営業・事務職から最近は情報通信や食品など企画・調査職、ソフト開発職で増えている。

SOHOについては、財団法人日本SOHO協会が総務省の事業統計からはじきだすと全国500万事業所、従業員1,500万人、現在のSOHO人口である。このほか大企業からの独立希望者が30万人、テレワーカーが246万人いると推定されている。

企業が在宅勤務の導入を検討する背後には少子高齢化社会の到来に備え、有能な人材を確保する柔軟な勤務形態を構築する狙いがある。NECでは育児や介護などで通勤できない理由がある社員を対象に、自宅でソフト開発やウェブサイト構築を手掛ける在宅勤務を一部認めている。沖電気工業では98年から通勤困難な身体障害者を正社員として雇用し、インターネットを使って在宅でソフト開発などができる制度を導入。01年以降はグループ会社にも同様の雇用形態を広げた。
 
社員の在宅勤務が進む一方で、企業に正社員として就職せず、独立して複数の企業の仕事を請け負う在宅勤務者も増えている。企業はプロジェクトごとに最適な外部の人材を起用できるうえ、景気に対応した柔軟な雇用調整が容易になる。

日本IBMの在宅勤務システム

日経産業新聞によると日本IBMは6月から企業の社内情報システムと社員の自宅パソコンを結び、在宅勤務を容易にするネットワーク接続サービス事業を始める。急速に普及しているADSL(非対称デジタル加入者線)など高速インターネットを活用する。在宅勤務制度を導入したい企業がシステム構築・運営をまるごと委託できる簡便さが特徴の新サービスで、同制度普及につながりそうだ。

同サービスを利用すると、社内の機密データに接続したり、電子メールの交換や電子会議にも参加したりできる。通常、社内情報システムは不正侵入を防ぐため社外から接続できないようにするが、通信手段を暗号化するなどして安全機能を高め、安心してデータの送受信ができるようにする。顧客企業の要望に応じて、日本IBMが同サービスのためのセキュリティーシステムを構築し、社員の自宅のパソコンに専用ソフトソフトを組み込む。ADSLなど高速インターネット接続に対応したパソコンであれば「社内LAN(構内情報通信網)と同様の環境で仕事をこなすことが可能」という。日本IBMは00年にADSLサービスを活用した在宅勤務制度「eワーク」を導入、年内に全社員の一割に当たる2,000人の利用を見込んでいる。

社会的背景と地価形成への影響

これまで介護や育児で退職していた優秀な社員を確保できるほか、柔軟な勤務体系で社員の能力を引き出しやすくなる。オフィスの費用や交通費を削減できるメリットもある。野口悠紀雄教授は、その著書「日本経済企業からの革命」でIT化の進展で小組織経済が優位になると指摘する。氏の指摘を要約すると、

    従来の日本型経済システムの特徴として

  1. 労働者も経営者も企業という組織に固定化される(終身雇用、年功序列など)
  2. 企業と企業の関係が排他的で長期固定的(系列関係)
  3. 間接金融が優位を占めメーンバンクが企業に影響力を持つ

このシステムはIT登場前の産業革命技術化では効率的であり、60年代の高度成長、70年代の石油ショック対応でいかんなくその力を発揮した。しかしITによる情報通信コストの著しい低下で分業を実現する手段としての組織の重要性が下がり、市場の重要性が高まる。つまり大組織の有利性が低下し、小組織の有利性が高まる。技術革新が早いので小回りの利く小組織の有利性をさらに高める。

野口教授の指摘のように大企業でも組織は分散し、外部との分業がネットを介して広範囲に行われている(例SCM、B2Bなど)。組織の適正規模・人員は、ビジネス環境変化のスピードに対応するためさらに可変的になり、固定的なオフィスや人員は、不要となるリスクが高い。オフィスで行われていた業務は家庭や、SOHOに分散する。

都心におけるオフィスと郊外の家庭という機能分化は長時間の通勤ロスや郊外の地価高騰をもたらした。いま都心回帰、都市再生で職住近接が実現し、都心を頂点とする地価二極化が進行している。しかしITをはじめとする高度コンピュータ社会は、オフィスや商業活動の機能分散を促進する。在宅勤務、中継点としてのサテライトオフィスなど多様な勤務形態の広がりで旧来の日本型経済システムを前提とし、都心への時間軸を中心とした地価形成が少なからず変質していく時代が次に到来する。

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