GISの進化と不動産鑑定評価 / ウェブベースでのGIS、ASPサービス、四次元GISなど

1、WebベースでのGIS

(1)行政の統合GIS

不動産鑑定業者がGISを導入する主な動機として公共用地買収、固定資産の路線価評価や公示地、路線価などの価格データをPC画面の地図上でリンクさせ簡易な比準表で迅速にレスポンスする簡易評価などがあげられる。不動産鑑定業者の業務の主要な受注先である中央省庁や地方自冶体への成果品の納入はいずれ電子ファイルに統一されると思われる。ここにきて行政分野の業務根幹がインターネットの普及で激変しているため鑑定業者のGIS導入もこれらの動向への対応を課題として検討する時期がきた。

今年1月の政府の「e-japan戦略」による電子政府構築の実現に向けて動きが加速し、並行して旧自冶省が地方自冶体の情報化施策を主導し、国内の電子行政化は中央省庁、地方自冶体で一気に進む見通しとなった。中央省庁のLANを専用線で繋ぐ「霞ヶ関WAN」、全地方自冶体を結ぶ「総合行政ネットワーク(LGWAN)」の構築が進んでいる。背景として行財政構造改革で業務の効率化による財政負担の軽減と行政情報公開の緊急性があり、情報公開の例としては鑑定評価に密接な固定資産標準地価格のウェブ公開予定などがある。

GISの約70%を占める主要利用機関である行政分野の業務がウェブ環境に移行する状況に加え、かつてこの分野に投下された業務システムが更新期を迎えコスト軽減と運用の簡易化、データの部局横断的な共有といった全庁的統合システムニーズに合致する形で、ウェブ対応のシステムの導入が進んでいる。例えばGIS統合レベルでは1/500は、道路管理、上下水道管理、固定資産税管理など「施設管理系」に利用され、1/2500は、都市計画、商工、観光、広報、情報発信など「都市計画系」で利用されているが、自冶体の各部署で分散管理されてきた地図情報データをG-XML(後述する)で統合管理するシステムが先進的大手航測会社で提供されている。

(2)G-XMLの標準制定

各地方自冶体で統合されたWeb対応システムが電子政府化の進展により構築されると鑑定業者が導入しているGIS環境で生み出された成果品(電子ファイル)が納入先である地方自冶体のGISのシステムに取り込めるかという問題がいずれでてくる。GISスタンダード(統合型GIS地理情報標準や、交換標準(G-XML)に準拠)やデータの互換性などの整合性があるからだ。しかしこの問題は鑑定業者間で看過されているのが実態だ。つまり鑑定業者はデジタルな地理情報データを異なるシステムや組織間で交換可能とする地理情報標準化の動向をモニタリングしなければならない。

キーワードとしてWebの基本言語であるHTMLを拡張した次世代マルチ言語XMLがクローズアップされている。GISの相互運用を実現するために、拡張性に富んだこのXMLを応用して、GIS向けの標準的なデータ記述言語を開発しようという動向がISOのTC211(地理情報標準化に関する技術委員会)やOGC(Open GIS Consortium)により進められている。国内でもG-XML仕様の開発にむけて通産省が呼びかけた産学官標準化委員会が発足している。G-XML3.0が現バージョンであるが03年には世界標準が制定される予定である。このG-XMLの標準制定は、異なるデータフォーマットやアプリケーション間においてもインターネット上で自由に地理・空間情報を交換することができる相互運用基盤の成立を意味する。

WebGISの活用にはクリアリングハウスが貢献する。地形図、航空写真、地質情報、標高情報、道路幅員、都市計画情報、家屋の位置・形状・規模、居住者の多様な情報などのデジタル化された空間情報を格納する巨大データベースをクリアリングハウスと定義する。クリアリングハウスは利用者が簡便アクセスし、データをシステムにインポートすることにより得られる業務上のメリットは計り知れない。

2、ASPサービス

ASPサービス形態のGISサービスが立ち上がっている。特に、インクリメントP、昭文社、ゼンリンなど地図会社が、顧客のニーズに合った情報を付加した地図データを提供するサービスを行なっているほか、GISベンダではパスコが「フレッシュマップ」、技研商事インターナショナルが「MSDM」などのサービスを提供している。

ASPを利用するメリットとしてはGISエンジン、ソフトなどのバージョンアップ、地図の更新などに伴うコスト負担が利用者の月額使用料の枠内で賄われる点だ。現時点では鑑定業者の業務に対応させるためにはかなりのカスタマイズが必要で、WebGIS全般に言えることだがブロードバンドなどネットワークインフラが整備されていない現状ではコンテンツが重いため処理速度が遅い。

3、三次元・四次元GIS

鑑定評価のGIS利用の代表例と言える比準作業はPCに表示された地図上で規準とすべき公示地、路線価などを選択し、評価地の位置を同地図上でクリックするとそれぞれの属性データが表示され、駅、バス停、商業施設などへの2地点間の最短距離をマウス操作でルート探索、計測値を表示し接近条件を比較する。

さらに街路幅員、連続性などの街路条件の比較、行政的規制による比較などの処理をし対象地の価格を自動算定する。環境条件は主観的、メンタルな側面があるため比較処理するための評点付設の根拠となるデータに難点があった。しかしコンピュータの大容量データ高速処理の実現による三次元・四次元GISや公共機関などの空間データの情報開示の動向により、これまで不動産鑑定評価ではある部分、主観的判断に依存せざるを得なかった環境条件についてGISの利用により急速に当該データ解析が進行すると思われる。

例えば住宅地の場合、特定されたエリアの居住者の社会的・経済的特性(管理的職業従事比率、高等教育終了比率、老年人口比率、職種分類比率など)を変数として標準偏差を用い階級区分図をカラー表示すると、周辺の居住者の階層、社会的環境という要因がかなりの程度把握できる。周辺の土地利用度などは国勢調査の地域メッシュ統計による人口密度や後に述べる3次元GISによる建物の階層などの階級区分図によるカラー表示、あるいは建物データによる階数平均値、エリア内空地の占有率の計算処理で明確となる。三次元分析はx、yの二次元座標に垂直方向の次元を付加することにより鳥瞰図的3D空間の表示が可能となる。

例えば特定のエリアにつき敷地と道路の高低差、建物の高さ形状、道路状況、道路並木の高さ、崖の傾斜角、標高など写真を見るように現地の状況が画面に表示される。日照、通風、地勢や画地配置など平面的地図では見えなかった要因の把握が可能となる。環境条件の主観的側面は評点付設などの定量化を困難なものにしているが上記のように定量化可能な部分があり、定性分析の判断根拠として証明可能なデータをGISの利用により取得できる。さらに時間次元を加えた四次元GISは、現在、台風の移動観測、配車システムなどに利用されているが、時系列的要因データにより動態的表示されるためCADなどを組み込んだバーチャルリアリティの世界で価格形成要因の将来予測に応用可能となる。

現時点ではデータの精度を保持するためには緯度、経度、高さ、建物形状など膨大な位置情報が必要となるため不動産鑑定業者レベルで構築するのは、外部委託するにしても膨大なデータ量や費用対効果よりみて現実的ではない。WebGIS環境整備と空間情報データベースとしてのクリアリングハウス充実などが期待される。

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