ITで存亡の危機にある中小不動産仲介業者

インターネットの急速な普及は、この怪物の出現に対抗できない数多くの業種をドラスティックに淘汰する。生産者と消費者をインターネットを媒介にして中間排除で直結してしまうため、ある業種の在りかたを根底から変革し、適応できない大半の業者を死滅させる。不動産仲介業も例外でなく業者の半分は消えるだろうと業界内部でも言われている。隕石の落下による恐竜の絶滅に例える業者もいる。売主と買主がネットオークションや米国の巨大サイトのフリーマーケットのように直結すると米国のように「バイヤーズ・エージェント」制に依存せざるを得なくなる可能性があるからだ。私が考えるに不動産仲介業、特に中小業者の存亡は3つのキーワードに収斂する。1つは、巨大不動産物件のデータベースといえるレインズの物件一般公開の動向(現時点ではレインズは公開を明確にしていない)。2つめは、業者のWebサイトの質、量における格差。3つめは、建設省が検討しているバイヤーズ・エージェント制だ。

●キーワード1、レインズの一般公開

レインズの一般公開は、大手業者間ではインターネット活用が急激に進んでいるなかで中小業者の立ち遅れに対する焦りから本来は業者間の情報交換に特定されていたものを一般に物件公開する動きとなっている。公開された場合、大手業者が自サイトからレインズのデータベースにシームレスに繋がるサイト構築をされると後述するが付加価値の高い大手サイトの優位性は変わらない。レインズによる物件一般公開はいずれにしても不動産流通市場における業者排除をより加速するだろう。まず中小業者に多い買主担当の客坦業者は、当然、深刻な打撃を受ける。また客坦業者、物坦業者(売主担当業者)に関わらず、売買当事者がネットによる情報交換の威力を目の当たりにした時、専門的知識を必要とするとはいえ売買に介在する業者の存在を希薄にすることは明確だ。

●キーワード2、業者のWebサイトの質、量における格差

大手業者のサイトは、物件検索、抽出の機能は当然として、顧客が名前、住所のほか探している物件の価格帯や間取りなど登録すると顧客専用のホームページが開設され、専用ホームページには希望条件にあう物件が毎日更新され表示される。所謂、顧客の囲い込みである。またGIS(地理情報システム)を活用し、物件の地図上での検索、物件データの表示、希望物件付近の買い物、駅、バス停などの生活情報表示、将来的には物件と周辺環境の3Dバーチャル空間表示サービスまで登場するかも知れない。不動産取引に特化した本格的ECサイトの構築はアクセス数が急増したときシステムダウンやダウンロードの速度低下(アクセスして8秒以上、ユーザーは表示を待たない)を想定にいれた負荷分散処理やリスク回避として各サーバーの重層配置、監視システムなどを要する。これらの構築は巨額のコストを要するため中小業者の資金力では困難である。

●キーワード3、「バイヤーズ・エージェント」制度

「バイヤーズ・エージェント」制度とはインターネットの発達により、売主、買主の直接取引や買主側業者不在の取引並びに不動産取引の電子化の進行が予測されるため複雑な法律、税制、建物等の瑕疵から契約予定価格の妥当性の検討など情報不足の買主を保護するため業者が買主側の要請で不動産取引に参入するシステムである。取引の安全性、確実性を高めるには、直接取引よりもコンサルティングアドバイザーの存在が必要とされるからである。米国の巨大サイトのフリーマーケットには業者による「バイヤーズ・エージェント」の広告が主としてなされている現実がある。この制度は、従来のように買主に依頼され該当物件を探す手間が軽減する分インターネットで情報武装した買主を説得できる高度な専門知識、経験に加えITの活用能力が必然的に求められる。このように物件探索が軽減される反面、高度な専門知識やノウハウが特に要求されるビジネスモデルへの変換は、不動産の投資分析や不動産に特化したビジネスツールを持つ他業種からの参入を増加させることは充分に予測される。業者が組織する協会などの団体も業者の聖域ををブロックすることは不可能だろう。一部の先進的中小業者を除き、ITのもたらす構造変化の危機意識がない大部分の業者は死滅するだろう。

●中小業者の生き残るシナリオ

一部の先進的中堅業者は、大手業者に遜色がないWebサイトを既に構築し、IT活用やコンサルティング能力の向上に早い時期から取り組んでいる。これらの業者は、構築したシステムを武器にASP化またはチェーン化を進めると思われる。現状に危機感を持ちこれからIT化を検討している業者は協同化によりWebサイト構築の初期費用、運用費用などを抑え、外部のITスキルの高い専門業務ネットワークを活用し、全従業員のPCスキルアップ並びに不動産コンサルタント業務等の強化を図るべきだろう。また大手がやりたがらない特定地域に限定した地域密着型の賃貸、賃貸管理業などは存続できると思われるが、業務へのIT導入やコンサルティング能力の向上を怠ると限定市場参入業者に淘汰される。

■関連記事
  不動産流通業者はポータルサイトに統合
      

おすすめ記事