宅地建物取引業者の価格調査義務についての判例

宅建業者は、不動産の売却で媒介依頼を受けたら、標準的な価格査定の手法である価格査定マニュアル等を使って専門家の立場から合理的希望価格の形成のための具体的な売り出し価格を調査・算出し、依頼者に助言することになっている。これに要する費用は媒介の成功報酬に含まれる。もし業者が調査不足でいい加減な価格をつけたり、故意に業者自身の利益や業者が関係する第三者が差益を稼ぐことを目的に恣意的な価格を依頼者に提示したりすると仲介手数料請求権が否認されたり、専門業者としての善管注意義務違反による損害賠償請求を受けるケースもでてくる。

以下で紹介する判例は、業者にとって厳しい判断が下された裁判例である。

東京地裁平成元年3月29日判決

○事案

売主Aから土地売買の仲介依頼を受けた不動産業者Bは、Cを買主としてA,C間に代金8,300万円(坪当たり90万円)で売買契約を成立させ、仲介手数料255万円を請求した。不動産業者Bはその親会社D(住宅会社)のAに対する建築費債権を早急に回収するためAの所有土地の売却を急がせ、時価の7割程度での処分を余儀なくさせたという事情があった。

不動産業者Bの社員が上記の事情下で自分の利益を図るあまりAにとって売却の意思がないものを執拗に売却を勧めた挙句、時価130万円するものを「せいぜい80万円ですね」とAに告げ90万円で買主Cに売却した。

売主Aはこの売却で生じた損害を填補するため買主Cに違約金1,000万円払って解約した。売主Aは、以上の事情から考えてBの手数料請求は信義則に反し権利の濫用だと抗弁した。

○判決の要旨

裁判所は、仲介業者Bは土地の売買価格について調査義務を負い、それに違反したとしてBの手数料請求を否認した。

依頼を受けた売主AよりもB自身の利益を重視し、その結果、売主Aは利益を得るどころか損害を発生させている。さらに仲介業者の媒介契約約款には媒介すべき物件の価格を根拠を持って決定すべきとされているのにその調査義務を尽くしていない。このような事情の下で手数料を請求するのは当事者間の信義則に反する権利の濫用として認められない。

(出典 明石三郎著 「判例不動産仲介契約論」)

不動産価格はある程度の幅があるので常識的な価格の許容限度を超える帰責性の高いケースについて上記のように業者の責任が追求されるものと思われる。

不動産は、一般の国民に取っては高額であり、重要な資産であるが、その個別性により価格形成は専門知識がないと複雑多岐にわたるため素人が妥当値を判断するのは一般に難しい。

このため不動産業者はその専門的見地から素人である依頼者に合理的な価格を提示しなければならない。とはいえ最終的には売主と買主の合意形成がなされた価格で成約するので正常価格でなければならないということはない。しかし不動産業者は、助言する価格が売買当事者を拘束するものではないことを踏まえても善良なる管理者の注意義務を持って適正な取引相場を事例などから査定し、依頼者の利益のために合理性を有する範囲内で提示する義務があるといえる。

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