電子政府化は不動産を流動化する

1、電子政府、電子自治体とは

行政のあらゆる分野にITを導入、役所内の業務を高度に電子化してパーフェクトなペーパーレスを実現する。そのためには制度、組織、運営など既存の行政システムを全面的に見直す必要がある。

具体的には、住民が自宅に居ながらにしてインターネットでPC画面上で容易に行政情報を見たり、必要に応じて取り込んだり、住所移転で言うと転居前役所、転居後の役所など手続きに出かける必要はなくインターネットを利用したPCで済む。

行政内部では職員1人につき1台のPCが配置され、それぞれがネットワークに繋がる。昨年11月全国の自治体を結ぶ「総合行政ネットワーク(LGWAN)」が都道府県と政令市間で完成。これを03年までに市町村レベルまで繋ぐ予定だが、PCの配備やLAN構築が遅れている市町村があるのが課題だ。最終的にはLGWANを省庁間ネットワーク「霞ヶ関WAN」に接続しデータのやり取りや共有できる環境を作ることだ。

電子政府化の動きは、不動産関連業界に与えるさまざまな面で影響は大きい。「日本の不動産流通市場は情報の不完全性がありそれが消費者にとって不利益をもたらしていると指摘されている。(中略) 経済学の概念でいう「機会費用」は他の用途に供した場合に得られる最大の便益として定義される。例えばモデルルームに出かけるために払った電車賃、情報誌の購入代金などの費用だけでなく、重要なのはそのために費やした”時間”である」(西村清彦著 不動産市場の経済分析)。

電子政府化による自宅、オフィスに居ながらにしての登記のオンライン申請や、行政情報の公開によるPCでの都市計画、道路、路線価、固定資産標準地価格などの閲覧がもたらす「機会費用」の減少は計り知れない。

2、登記オンライン申請

●オンライン登記申請制度研究会中間報告書

02年3月(財)民亊法務協会は「オンライン登記申請制度研究会中間報告書」を「登記研究」誌上で発表した。登記の申請・届出等手続きの電子化は政府全体の方針としての各省庁間のワンストップサービスへの移行などにそったものであり、法務省も従来から法務行政の情報化を推進してきており、原則として03年度までに国の申請手続きのすべてについてオンライン化を目標としている。

ただし不動産登記制度および商業法人登記制度の現在のシステムは、日本語処理等のための大規模システムであり、情報処理技術が未発達な時代に作られたものであることから、効率的かつ抜本的な登記申請のオンライン化を実現するためには、前提として大規模システムの再構築が必要であり、また登記の申請は、申請書および添付書面で登記の正確さを確保し、かつ受付の順序で権利の優劣が決定されるためオンライン化にあたっては法制面、技術面にわたり登記制度の見直しを行うなどが必要なので04年度中にオンライン化を実現する予定である。

法務省民事局はこれまで、

  1. 登記情報提供制度および登記情報交換制度の導入
  2. 商業登記に基づく電子認証制度の新設
  3. 債権譲渡登記オンライン申請システムの提供
  4. 電子署名および認証業務に関する法律の制定

などに取り組んできた。

●今後の検討事項

  1. 権利に関する登記におけるオンライン登記申請の対象範囲
  2. 対象範囲を登記名義人表示変更や抵当権登記抹消に限定するか、制度上限定しないか

  3. 表示に関する登記の扱い
  4. 表示登記は、地籍測量図、建物図面など添付書面が多く、順位確保の問題がない、実地調査が行われるなどからオンラインの対象にするか今後の検討課題となった

  5. 当事者出頭主義で登記の真正をある程度担保してきたが、これをオンラインでは廃止するか、なんらかの対面審査の機会を設けるか
  6. 電子化できない添付書面を含む書面の扱い
  7. 登記済証(いわゆる権利証など)をオンラインでも登記義務者本人の登記意思確認のため存置するか、または本人確認については、公的個人認証サービス等の電子署名および電子証明書などで行い登記済証制度を廃止するか、これについては個人認証サービス等の電子署名および電子証明書による本人確認だけでは十分でないなどのためオンラインでも登記済証に相当する制度を維持するほかないという意見が多数を占めている

3、ウェブによる行政情報公開

不動産関連情報、例えば固定資産標準地価格や都市計画の用途地域、その他規制、道路認定の有無、42条2項などの事跡がウェブ上で公開されるのは電子政府化の実現で夢ではなくなる。

これらの情報公開にはGISの活用が欠かせない。G-XML仕様の開発にむけて通産省が呼びかけた産学官標準化委員会が発足している。G-XML3.0が現バージョンであるが03年には世界標準が制定される予定である。このG-XMLの標準制定は、異なるデータフォーマットやアプリケーション間においてもインターネット上で自由に地理・空間情報を交換することができる相互運用基盤の成立を意味する。

例えばGIS統合レベルでは1/500は、道路管理、上下水道管理、固定資産税管理など「施設管理系」に利用され、1/2500は、都市計画、商工、観光、広報、情報発信など「都市計画系」で利用されているが、自冶体の各部署で分散管理されてきた地図情報データをG-XML(後述する)で統合管理される。統合管理された一覧性が高い情報が自宅やオフィスのPCで見れる時代が間もなく訪れようとしている。

現在、GISの標準化については国土建設省が中心となって、道路、河川、行政区界、基準点などの空間データ基盤、デジタル画像それぞれ整備・研究を進めている。各省庁もこのGIS構想に沿ってそれぞれがGISの整備を開始している。

利用者は、クリアリングハウスにアクセスする。クリアリングハウスとは地形図、航空写真、地質情報、標高情報、道路幅員、都市計画情報、家屋の位置・形状・規模、居住者の多様な情報などのデジタル化された空間情報を格納する巨大データベースである。

ここから特定の位置情報で関連づけられたメタデータ(要するにカタログ)、ここに、たとえばデータの種類だとか特質、利用料金、入手方法といったものを標準化して登録しておく。仮に、登記情報をメタデータとして登録すれば、そこから利用者は、登記情報にアクセスすることができる。このクリアリングハウスを各省が持つのかは不透明だが、現時点では、各省庁が自分が保有するデータでクリアリングハウスを構築していくという形のようだ。こういった状況の中で、地番と境界という最も基礎的なデータを所管している法務局としても、地番、境界といった地図データを基盤にして、その上に登記情報データであるとか、更に地積測量図、建物図面等々登記所が保管する各種データを重ね合わせて利用する、「登記所版GIS」を構築することが技術的には十分可能な時代となっている。

不動産関連業者に限らずGISを使い自治体職員は住民からの相談に対し、地理的状況を踏まえて適切な判断が可能となる。住民基本台帳の管理を行う住民情報システムと地図情報を連動させ地図上の任意の地点からそこにある世帯の住民情報を呼び出したり住民情報から地図上で居住地を示すことができるため、ごみ収集場所の決定や各種相談員の紹介に効果を発揮したりする。

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