高度情報化社会における登記 / 登記所版GISの構築
1、登記所地図のコンピュータ化
●今後の地図整備の方向についての基本的考え
97年8月27日付けで、「今後の地図整備の方向について」と題する第三課長通知が発出された。現在法務局における地図整備の基本的な指針となっているのは、平成元年に策定された「地図整備の具体的推進方策」という民事局長通知である。この「推進方策」では、中期的な展望に立ち、今後の地図整備の方向として、「地図のコンピューター化」を将来の地図整備方策の基軸として位置付けながら、法17条作製作業であるとか、既存地図整備作業であるとか、地図混乱地域対策としての基準点設置作業であるとかの個別作業を段階的に推し進めることにより、登記所の地図整備を図っていこうとするものである。
最近に至って「行政情報化推進基本計画」や「GIS関係省庁連絡会議」の設置の動きのように、高度情報化の波が法務局の所管する地図行政の分野にも急速に押し寄せてきている。この通知は、このような登記所地図を取り巻く環境の変化にかんがみ、従来から進めてきた地図のコンピュータ化構想の具体的第一歩として、今後の地図整備のあるべき方向を念頭に置いて地図管理システムの導入から地図のコンピューター化に至るまでの道筋、入力した後の地図情報の精度の向上策について現段階における考え方を整理されたものということができる。
2、地図のコンピュータ化の基本方針(地図情報実験システムなど)
現在の登記情報システムは乙号事務全般と甲号事務の記入などの工程については、大きな威力を発揮していると言われるが、地図を取り扱う表示登記事務についてはシステム化されていない部分が多く、コンピュータ化による事務改善の度合いの割合が比較的少ない分野となっている。
例えば、分筆登記の事務処理の工程をみてみると解るように、調査担当者が書庫からペーパー式地図及び地積測量図を搬出し,場合によっては閉鎖した旧公図などを搬出して調査することとなるが、これはコンピュータ化庁であってもブック庁における処理と何ら変わるところはなく、決してコンピュータの情報処理能力を充分活用した事務処理形態とは言えない。
現在、「地図情報実験システム」で実現すべき事項として考えている大きな項目について、順を追って説明すると、
- 地図システムと登記情報システムとが一体となった処理システムの構築の問題
- 登記情報にアクセスするための索引としての役割に着目したインデックス地図の作製の問題。登記所サイドからのみものを見るのではなく、これを使用する利用者の視点に立っても検討する必要がある。このような観点から、平成9年度から将来の地図のコンピュータ化に資するため同じく民亊法務協会に委託し、「登記所地図の在り方」について調査・研究を行っている。将来的には地図に建物図面のデータを落とし込んで建物所在図を整備するということも検討していく必要があるが、利用者が求めている登記情報にアクセスするためのインデックスとしての機能も無視できないものがあり、例えば、国土基本図、住宅地図等と登記所地図を重ね合わせて登記情報にアクセスするためのインデックス地図をこの実験システムのなかで開発していく必要がある。オンライン登記情報システムの利用量の飛躍的増大にもつながる
- 地図に準ずる図面の地域であっても、個々の一筆地の情報については、登記所に地積測量図という正確な図面がある。この地積測量図のデータベース化を早期に図り、地図の画面から当該一筆の土地の詳細な情報を見たいときは、最新の地積測量図が見られるような形にしたい。また、建物図面、地役権図などの登記所に在る各種図面をイメージ情報として取り入れることができるようなシステムも構築したい。イメージ的には、地図がベースであって、そこに表示された地番から、当該土地の登記情報に、当該土地を底地とする建物の登記情報に、更に地積測量図、建物図面等に容易にアクセスすることができるようなシステム
- 地図の数値化がされると、例えば、公共基準点情報を収集入力し、さらに一筆単位の地積測量図の情報や航空写真のデータなどを利用することにより、例えば、数値化された筆界点情報を新しい基準点情報などに基づいて引き直しを行うなどして、地図の精度そのものを向上させるような方策を検討する必要がある。これは従来の紙の地図ではできなかった事であり、地図を数値化することによって初めて可能になる方策かと思われ、この方面での調査研究も併せて積極的に行い、そのためのシステムの開発も検討する必要がある
- 閉鎖地図のコンピュータシステムによる管理の問題。和紙の旧土地台帳付属地図、更には数値化後の現在のマイラー図面等の閉鎖地図をカラーイメージによりシステムに登録し、閉鎖地図を利用する場合には、このシステム画面から、あるいはシステムから出力した図面を利用するような方式を採用することを検討することとしたい。そのためには閉鎖地図のデータベースを構築する必要がある
3、GIS(地理情報システム)について
●GISとは
GIS(地理情報システム)とは地図の基本的な項目、例えば、道路であるとか河川であるとかの項目と位置参照ができる仕組みからなる空間データ基盤と、その位置に関連づけられた各種の空間データ情報などから構成されるものであり、これを総合的に処理、管理、分析し、その結果を表示する情報処理系である。いわば、地理的なデータに様々な情報を付加させると言うものであり、これにより、情報の整理、情報へのアクセス、情報の編集などが飛躍的に向上するであろうし、多くの拡張性を含んだ情報処理系であると言われている。
この行政情報化を推進する上でGISが極めて有効な方策であるとの認識の下、95年にこの「地理情報システム(GIS)関係省庁連絡会議」が設置され、以来、具体的な調査・研究が行われている。現在、GISの標準化については建設省と国土庁が連携して、道路、河川、行政区界、基準点などの空間データ基盤については地方公共団体の協力の下、建設省が中心となって、また、基本空間データ及びデジタル画像については、国土庁が中心となって、それぞれ整備.研究が進められている。他方、これらの動きを見ながら、各省庁ではこのGIS構想に沿ってそれぞれがGISの整備を開始しているのが現状である。
利用者は、クリアリングハウスというところにアクセスする。言ってみれば物流センターみたいなものであり、ここから特定の位置情報で関連づけられたメタデータ、要するにカタログである。ここに、たとえばデータの種類だとか特質、利用料金、入手方法といったものを標準化して登録しておく。仮に、登記情報をメタデータとして登録すれば、そこから利用者は、登記情報にアクセスすることができる。このクリアリングハウスを各省が持つのかは不透明だが、現時点では、各省庁が自分が保有するデータでクリアリングハウスを構築していくという形のようだ。
こういった状況の中で、地番と境界という最も基礎的なデータを所管している法務局としても、地番、境界といった地図データを基盤にして、その上に登記情報データであるとか、更に地積測量図、建物図面等々登記所が保管する各種データを重ね合わせて利用する、「登記所版GIS」を構築することが技術的には十分可能な時代となっている。利用者の側から見ても、格段に登記情報が利用しやすくなるわけで、登記所サイドから見ても、所在不明土地とか二重登記だとかいった問題を防ぐことができ、登記全体の精度の向上に繋がる。
4、GISが進展するなかでの登記所地図のコンピュータ化
●インデックス・マップ
地図のコンピュータ化において検討されているのは、1つは、登記所保管の地図の数値化を行いそのデータベース化を図り、それと登記情報との連動を図ることです。いま、登記所の窓口で問題となっているのが、住居表示番号と地番との関係が明らかでないことから、一般国民は容易に登記情報にアクセスできないことによるトラブルがある。都市部については、住宅地図と登記所地図とを重ね合わせて作成されたブルーマップを窓口に備え付けていることから、大まかな見当は付くが、そうでないところは登記情報までたどり着くのは容易なことではない。そこで、登記情報にアクセスするための住宅地図又は国土地理院の作製した地形図と登記所地図を重ね合わせた登記情報にアクセスするためのインデックスマップ的なものを、この地図のコンピュータ化研究のなかで実現していきたい。全国を網羅した基盤となる情報というと、やはりベースとなるのは国土地院の地図情報になる。
基準点についてはGIS構築の過程で当然あちこちから出てくる、建設省及び国土地理院はどう考えているのかが具体的でないが将来的にはオープンな情報として当然公開される。ただ、現実は、国家基準点にも相当の誤差がある。中にはm単位で誤差があるところも存在する。再調査するとの情報もあり、先のことになると思われる。道路、鉄道、河川などの交通ネットワーク情報、行政区画、統計調査区のような区域データと言ったものが、空間データ基盤として整備すべきものに挙げられる。
インデックスマップを作ってGISに載りやすいような図面で作ったとすれば登記情報もその属性情報として載っていく。
●クリアリングハウス
GISの連絡協議会ではクリアリングハウスをどこが持つか、まだ決まっていない。主に、基盤となるデータの整理、これに乗るレイヤ情報の標準化の問題をどうするかといった議論がされている段階だと思う。いずれにしても、法務局とつながるときには、登記情報にアクセスできる道筋と情報入手の方法、さらに料金は幾らですよといったことがわかりさえすれば、クリアリングハウスを介して登記情報を入手することが可能になる。
●地図の接合
地図の関係で問題なのは、いま紙ですから1枚2枚というのがある。コンピュータで高度利用していこうと思うと枚数と言うのはなくして、全部が接合してつなぎ合わされて、どういうふうな区画でも表示できるし、いろんなことに使えるということじゃないと、本当の地図とは言えない。実際問題としては違う紙の上に載っている地図をコンピュータ化して、それを「接合」と呼んでいるが、完全につなぎ合わせるというのは、実際問題として非常に至難。接合というのはやめて、接続にしたらという意見もある。当面は接合は棚上げしてやらざるを得ない。例えば、いまだと、何枚もの地図にまたがっている土地というのがあるわけなので、それを中心に据えていく。打ち出したものを利用者に渡せるようにしようと思ったら、そこは接合していないと渡せない。
※登記研究600号発刊記念座談会「登記所地図のコンピュータ化について」の内容を抜粋要約したものです。
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