都市再生による地価下落抑止

①都市再生とは

政府による構造改革と不良債権の最終処理が実行された場合、経営的には問題のない企業までも破綻させ、連鎖的な倒産と失業をもたらし、日本経済への打撃は不必要に大きくなる懸念が大きい。世界的分業の進む中、米国ハイテク企業の業績不振等により発信された日、米、欧などを広範にまきこんだ世界的不況が進行している。国内GDPは1~3月期マイナス成長、4~6月期にはマイナス成長がより下振れるという予測もあり国内のデフレスパイラルはより深刻な状態となる。このような国内経済状況により不良債権処理が偏在している大都市での地価の下落を抑止することが急務となっている。大都市の地価を引き上げることが不良債権の減少を通じて日本の景気回復の前提条件をつくり出すからだ。

01年5月8日小泉総理を本部長とする都市再生本部が内閣に設置された。東京圏、大阪圏など大都市圏が国際的にみて交通渋滞、通信情報インフラ整備などで地盤沈下していることから、この大都市圏を、豊かで快適な、かつ、経済活力に満ちあふれた都市に再生することに取り組む。

政府の都市再生本部が検討している「21世紀型都市再生プロジェクト」によると、首都圏スーパーエコタウン構想は、「広域循環都市」づくりの柱で東京都臨海部の中央防波堤埋め立て処分場や城南島埋立地に、PCB(ポリ塩化ビフェニル)廃棄物の無害化施設や木くず発電施設などを設け、東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏1都3県が共同で建設し産業廃棄物の最終処分量の半減を目指す。

交通基盤形成では、東京外郭環状道路などの環状道路網の整備や鉄道と道路の連続立体交差化を促進する。整備に伴う自治体の財政負担を軽減する狙いで無利子貸付制度の創設を検討する。「安全都市」形成に向け、東京・有明やアクアライン(東京湾横断道)の神奈川県側の玄関口となる川崎市・浮島などに、救援物資の輸送・中継や非難拠点を設ける。都心の低未利用地を集約するための国の支援策を拡充する。都市拠点形成ではJR山手線の内側など東京都心に賃貸・分譲住宅50万戸を建設する案が浮かんでいる。保育所や特養ホームを併設した建造物の容積率を緩和する。

さらに「塩川正十郎財務相は7月11日の記者会見で、経済活性化のための行動計画(アクションプラン)を今秋に策定する考えを明らかにした。構造改革に伴う1段の景気の落ち込みを避けるのが狙いで、住宅建設の規制緩和、教育施設への光ファイバーの敷設等を組み込み、都市再生を柱とする考えだ。対象分野として①住宅建設の規制緩和②教育施設や公務員宿舎などへの光ファイバーの敷設③保育所の民営化の促進をあげた」(日本経済新聞)。

②都市再生による地価下落抑止対策

今、懸案となっている不良債権の大部分が東京などの大都市に集中しているため、不良債権の最終処理を実行するには大都市の地価下落を抑止することが必須になる。都市再生はこのような経済的背景によりクローズアップされた。都市再生による地価対策を効果的に進めるためには、

  • 建築許可、再開発における都市計画決定に要する期間を大幅に短縮する
  • 最近の熟年層や共働き世帯による需要が高い職住近接を実現するため都心周辺の用途地域などを見直し、高層マンションが建築可能とする。容積率などの緩和も検討
  • 交通の流れを抜本的に変更する環状道路の整備、例えば首都圏三環状(首都圏中央連絡道、東京外かく環状道路、首都高速中央環状線)の整備促進
  • 都内電鉄などの深夜営業(石原知事により検討中)で都心をビジネス、遊びの両機能をもつ都市空間として充実させる。都心商業地の売上増による地価上昇効果
  • マンションの建替えを容易にするため区分所有法など関連法の見直し、整備を検討
  • 公共施設等のPFIによる整備。公務員宿舎、公共施設等についての設計、建設及び維持管理にあたって、PFI手法の導入

など従来と異なる多様な手法で、国際都市としての付加価値を高める方策が求められる。

③都市再生に関連する業界動向など

大手不動産各社は、当初、都市再生と民間開発がどうリンクするか不明確であったため様子見の状態であったが小泉総理、石原都知事、扇国土交通相の連携による政府の都市再生への政策比重の大きさを把握し、不動産投信の上場と相俟ってビジネスチャンス拡大の絶好のチャンスと期待している。

公共事業削減の影響で危機感の強いゼネコン業界も事情は同じ。「業界を束ねる日本建設業団体連合会は「提言を通して積極的にかかわっていきたい」として都市再生特別委員会を設立した。7月中にも具体的な開発プロジェクトを選定し政府への提言をまとめる方針である。

「このような業界の動きも裏を返せば、その経営環境の厳しさの現われに過ぎないとの見方も強い。都市再開発のように政府の裏づけがあるしっかりした事業融資以外はほとんど新規融資が実行されない状況だ。地方を優先した建設投資も00年度時点でピークに比べて15.2%減の71兆2千億円。もう伸びは期待できない。小泉首相が掲げる構造改革は東京対地方の対立構図を招く恐れがあると指摘されている。実際、都市再生に注がれているゼネコン・不動産各社の思惑は「東京の価値創造」で一致している。建設投資の東京一極集中が一段と進み、業界の勢力図も東京を軸に塗り変わるのは間違いない」(日本経済新聞)。

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