都市高齢化問題
地方の過疎地域の高齢化はすでに指摘され続けてきた問題であるが、近年、郊外の住宅団地の居住者の高齢化が始まっている。都心に遠く、造成分譲後数十年経過している団地などは高齢化が進み、地域全体が衰退化している。都心回帰でマンションなどへ30代を中心に大移動をしている背景があり、衰退地域はさらに地価が下落し、少子化の流れで新規に購入して参入する人がいないため櫛の歯が欠けたように空家が目立つ。
このようなエリア周辺では、近隣型商店舗が店をたたんで流出しているため、近くに日常の用をたせる施設もなくクルマに乗れない高齢者にとって生活環境が辛いものとなっており、防犯上も問題が多い。
これからはいわゆるシニア層が郊外の自宅を賃貸しして都心の分譲マンションを購入し、転居したり、ケア付き賃貸住宅や、安価で手軽なケアなし賃貸住宅に居住するケースの増加が予測される。いずれにせよ今後、本格的な高齢化社会を迎えるため社会的ニーズに合った高齢者住宅の仕組みや商品開発は急務であり、潜在需要も大きいが、現状では賃貸住宅の場合、家主は高齢者の入居を敬遠するため高齢者が入居するのは容易ではない。また高齢者の入居を受け入れる優良賃貸物件も少ない。
都市部のマンションも建物自体の老朽化に加え居住者が高齢化しているケースも多い。これまで供給されたマンションは、00年度末で385万戸、このうち築30年以上経過したものは12万戸であるが、10年後には93万戸に達する。都内の築年数の高いマンションは居住者が高齢化しているがエレベーターや手すりがなく、段差のあるところも少なくない。老朽化後は建て替えるという話になると建て替えの合意形成がなかなか難しい。
老朽化したマンションの高齢者は通常、低所得者が多く、金融機関からの借入れが難しい。また高齢者にとっては、建替え後の建物に長く居住できるとは考えないため、高齢でデベロッパーなどとの交渉能力が衰え、建て替えなど現状の変化より、修繕等を選択しがちである。修繕コストも老朽マンションは多額の費用負担が発生するため充分なメンテナンスが施されずスラム化していくこととなる。
法務省は「建物の区分所有等に関する法律及びマンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律」の施行日を6月1日と発表し、施行した。
マンション建て替え円滑化法は、マンションの建て替えに賛成する入居者で組織する「建替組合」に法人格を与え、工事契約を結びやすくする。すなわち入居者が区分所有者法に基づく建て替え決議をした場合、「建て替え組合」に法人格を与えることにより、従前は工事請負会社と入居者が個別に契約する必要があったが、組合が一括して契約可能となり、手続きを簡素化できる。この法案の成立により入居者の登記を「建て替え組合」が一括して申請できる利点もある。また、建て替え前に保有していた所有権などの権利が、建て替え後のマンションに権利変換によりそのまま移行する。
改正後の区分所有法では建替え決議の要件の合理化及び手続きを整備した。従来の「4/5以上の賛成と建物の維持・回復に過分の費用を要するに至った」という要件を見直し、改正後の要件は「4/5以上の賛成」のみとした。ただし、集会の招集通知を2月以上前に発すること、理由、維持・回復費用の内訳、修繕積立金の額等も併せて通知することとされた。建替えを促進する為の諸条件の整備が前進した。
区分所有法の整備などによるマンションの建て替えの円滑化の実効性は疑問である。敷地権新設前の古いマンションでは、地上権、賃借権が錯綜し、建て替えに際しての権利調整が困難なケース想定され、また少子化、景気低迷でマンション価格が先行き不透明な現在では、余剰床の分譲による建替え資金捻出が悲観的な状況が進んでいる。
政府は都市再生で職住近接、高層マンション供給など謳っているが、少子高齢化に対応した都市づくりをきめ細かく戦略的にすべきだ。
森地茂東大教授の言葉を引用すると、「高齢化と住宅、都市施設は極めて密接な関係があるはずだが実際には高齢化社会と都市全体像をとらえた鳥瞰図のようなものが意外にない」。
高齢化と都市の問題は高齢化社会を本格的に迎える日本の重要な課題といえる。
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