地価はどうなる?

国内の不動産市況といえば都心部の大規模高層マンションは好調なもののマンション市場全体としては長引く不況で低金利や住宅ローン減税効果が薄らぎ売れ行きは減速気味、中古マンションは依然、下落し続けている。戸建、建売も買い換え層が資産下落の影響で動けないため低迷している…地価は今後どうなる?

国内の地価は、長期的には少子高齢化、減損会計導入が土地需要減少の構造的要因として下押しし、さらに国内産業の空洞化、特に、中国の世界工場化で国内製造業は、中国などへ海外移転を加速させ、地方産業は疲弊し、地方の地価下落を深刻化させている。中期的要因として不良債権処理による不動産の供給圧力が地価下落を加速させる。 国民の意識は長引く国内経済の低迷、失業率の上昇、年金、介護、医療費上昇などによる将来不安が重層し、持ち家志向から賃貸モードに切り替わりつつある。30年の住宅ローンを組み、下がりつづける資産価値にしがみつきローン返済し続けるマイホーム信仰の呪縛は終身年功序列型賃金の崩壊などで過去のものとなった。土地神話を支えてきた有効需要の減少は個人レベルだけでなく減損会計導入による不動産のオフバランス化で法人もキャッシュフロー重視で土地所有を志向しなくなってしまった。

これらの地価下落圧力に対し政府が地価対策として打ち出したのが今年9月上場した不動産投資信託、さらには小泉政権の政策の目玉といわれる都市再生である。不動産投資信託は大量に放出される土地供給を市場に吸収し活性化させ、不動産市場の基盤を整備する。さらには都市再生による職住近接実現、交通渋滞解消、容積率等の緩和で大都市の土地の経済価値を上昇させ地価下落の緩和材としようとしているわけだ。

中長期的な地価下落の構造的要因等に対し、不動産投資信託・都市再生で地価下落をどこまで支えきれるか…。不良債権処理、減損会計導入による企業の不動産放出を背景としてJ-REITは運用物件を今春以降約8千億円買い付け、来春には1兆円を越す。大量放出される不動産と投資家との導管としてある程度、機能し始めた。容積率の緩和などは土地の高度利用を可能にし、職住近接、都市基盤整備は快適性、利便性を上昇させ面的に土地の経済価値を増加させる。エリア間の街づくり再開発競争は他エリアまで活性化させ東京全体の付加価値を高める。つまり賃料などキャッシュフローが増加し収益価格を上昇させる。J-REITの投資家に有利な利回りを提供できる。個人投資家の1,400兆円巨大資産が不動産証券市場に流れ不動産市場は活性化する…不動産の流動性が高まりやがて地価は底を打つ…このシナリオは都市再生、不動産投資信託の効果として期待するところであるが果たして可能だろうか…今年も暮れようとする現時点で悲観論が多い。

まず職住近接実現であるが、都心付近に高層マンションを建てても購入可能な層は富裕層やシルバーで大半を占め一般庶民の需要はなかなか掘り起こせない。都心回帰や30代などの一次取得者で需要が膨らむとしても地域限定的、一時的で長期的には少子高齢化で限界がある。まあ所得格差拡大と連鎖した地価の二極化には貢献するだろうが…

オフィスビルも供給過剰が強まる「2003年問題」を控える。景気失速でビル市況に陰りが見える中で、供給予備軍が上乗せされ空室率上昇、賃料低下など投資リスクが高まる。

さらに現在のデフレ低金利の視点で不動産投資を考えるのは危険だ。現在、不動産投資信託の配当利回りは4~5%で推移しているが、金利が上昇した場合、金利上昇が不動産利回りの上昇を要求し、相応の賃料上昇が実現できなければ不動産価格下落を招く。また配当利回りが現行低金利を前提にしていれば、金利上昇局面では商品魅力が下がる。投資家の期待に応えられる利回りを実現できる目ぼしい不動産はすでに買い漁られ、価格が高騰し投資採算を取りにくくなっているのが実情だ。

1997年以降、外資が都市銀行など国内金融機関から購入した不良債権は簿価ベースで30兆円近くにのぼる。不動産市場に参入した外資による第一陣投資のEXIT(出口)がすでに始まっている。外資は、巧みなプロパティマネジメントを駆使し購入不動産のキャッシュフローを改善、オフィスビルの品質・イメージをメリハリを利かせて向上させキャピタルゲインを上昇させてきた。2~5年で投資資金を回収し通常15%前後の投資利回りを実現させる彼らの第一次回収期がきているわけだ。今後、外資の投資スタンスは、日本の国内経済の構造改革、不良債権処理の進行具合を慎重に見極め迅速な対応を取る。IT不況、対米テロ後の米国経済の回復軌道、為替変動も影響する。国内構造改革が遅れ、不良債権最大の受け皿である外資の投資が後退する局面となれば地価下落は進む。経済構造改革の遅れは国内産業空洞化も加速させる。製造業の国際競争力を高める付加価値の高い日本独自の技術力の創造やナノテク、バイオなど未来型知識産業の集積が進まないからだ。

1997年頃からクローズアップされてきた少子高齢化の社会構造不安、この重大問題については、それまで大蔵省など政策当局が看過していた。地価下落は中期的に不動産バブルの調整ですみ、地価はいずれ底を打つと楽観視し、不良債権処理に迅速に対応しなかった。国富たる土地資産額は1999年以降10年連続で下落し続け、90年末の土地資産額約2,455兆円から1,534兆円に約4割目減りした。この「先送り・失政のつけ」を雪だるま式に今日まで背負ってきている。東京など大都市は都市再生などの政策カードもあるが、地方は悲惨である。均衡ある国土の発展というスローガンで手当てされてきた公共工事が削減され、道路特定財源、地方交付税の見直しは財源配分の効率化=投資効率の劣る地方の切り捨てとなる。これからは経済効率最優先でヒト、モノ、カネが動くため投資効率が高い大都市優先の官民の投資スタンスが加速するだろう。地方の地価下落は国内産業空洞化も加わり一層深刻化する。

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