地価下落の功罪

国内の地価は90年代後半にはバブル以前に戻ったが、依然として下落を続け、02年公示価格では前年を下落幅が上回った。バブルの調整を終えても国内地価はGDPと大きく乖離し下落を続けている。

その原因として少子高齢化、中国の世界工場化による国内産業の空洞化、減損会計の導入が構造的要因としてあげられる。これらの呪縛から解き放たれることなくこのまま地価は底なしに下落を続けるのだろうか…地価下落の現状を踏まえ本コラムでは地価下落はこの国にとってプラス、マイナスどちらに作用すると見るべきなのか考えてみる。

地価下落を歓迎する意見としては、

  1. 米、欧では年収の3~4倍でマイホームが買えるのに、日本では年収の5倍以上と高い。勤労者の夢であるマイホーム実現の可能性は地価下落で限りなく高くなる。また都心回帰とマンション建設により職住近接が実現
  2. 世界主要都市の地価と比較すると日本の地価はまだ高い。国際競争力からみて日本の高賃金と高地価は阻害要因となっている。特に世界的プレゼンスが高まり国内企業が雪崩を打つように生産拠点を移転している中国は、日本と比較し地価で10分の1、人件費で20分の1である。国内地価下落はグローバル化した経済活動面からみて国際競争力を強める
  3. 地価下落はこれまで不動産担保重視から企業の成長性、キャッシュフローなど本来の企業審査重視に転換するため健全な産業育成が可能となる。さらには間接金融に偏っていた国内金融を欧米のように直接金融に移行できる

地価下落反対意見として、

  1. 不良債権処理が進まない。地価下落により新たな不良債権が発生しており、日本経済の負の膨大な重圧から逃れられず、企業倒産、失業者の増加を招く
  2. 中小企業の資金調達は、株や社債など直接金融よりも銀行、信金などの間接金融に依存している。地価下落により不良債権処理が進む中、金融庁の出したガイドラインによって、本業が順調でもこれらの金融機関から借り入れができなくなった。中小企業の資金調達は地価下落により困難となり、さらには貸し剥がしなどで倒産に追い込まれている。零細企業は社長個人が連帯債務で自宅などを物上保証しているため、倒産した場合、再起不能となる
  3. いまや日本は持ち家率が多いが、住宅ローン破産の予備軍が、地価下落により連年、増加している
  4. 資産デフレの継続は生活防衛的にならざるを得ないため個人消費低迷の原因となる

地価下落の功罪は、さまざまな立場、利害を反映して意見が分かれるが、政府にはこの国のあるべき地価水準の展望もビジョンもない。

地価下落歓迎派のなかに土地本位制からの脱却、構造改革推進の視点から地価の急速な下落を望む性急な意見が見られるのは問題だ。地価下落が加速するなか不良債権処理や減損会計導入に際しては、不動産の供給圧力が高まるためデフレスパイラルを起こさないような慎重な配慮が必要である。あまりにハードランニングさせると需要に対する政策が不在のまま経済資源の有効配分を進める構造改革の問題点が顕在化し、新たな産業育成どころか日本経済が破滅的恐慌状態になる恐れがある。

経済学の収益配分の原則では企業の総収益は資本、経営、労働と分配された後、それぞれの分配が正しく行われる限り土地に分配される。高付加価値で高収益な企業活動は、地価も当然上昇をもたらす。経済成長による付加価値の増分は、投資や技術革新を行なったもののみでなく土地に帰属する。つまり土地は再生産不可能な資本であり、その不増性により経済成長の一部は超過利潤として顕在化し開発利益として土地に帰属するからだ。

本来、地価の動きは経済の実勢をあらわすファンダメンタルズの動向に従い、ファンダメンタルズを体現する経済指標としてGDPがある。バブル以前の長期的スパンでの地価動向は名目GDPに沿うように推移し、中期的には安定→高騰→調整→安定のサイクルを繰り返し、やがてはGDPの動きに収斂してきた。不良債権によるディスオーガニゼーション(不確実性、不安の連鎖による経済萎縮)が払拭され、国際的調整水準に国内地価が収斂した後は、その国の経済成長率程度の地価上昇を取り戻すのが望ましいのではなかろうか。

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