定期借家制度の成立による不動産ビジネスの方向性
定期借家のもたらす今後の不動産ビジネスへの影響と現時点での導入動向を住宅、オフィスビルの面から述べる。
①不動産ビジネスへの影響
- 従来型の借家制度と定期借家制度が併存し、定期借家では貸主・借主の双方が多様なパターン(期間・建物の種類・動機、目的)を模索するため、仲介業者は、当該法制度を熟知した的確な対応を求められ、コンサルティングビジネスの促進に寄与する
- 不動産・マンション会社の中には定期借家権によって、採算性が明確になる賃貸住宅事業に積極的に取り組む動きがみられる
- リフォーム需要が増加。個人の持家を賃貸する動きが増え、競合する他物件との比較で優位に立つ工夫が求められる。貸家の商品価値を高めるため、リフォームを行う貸主が多くなると考えられる。また当該法により、リニューアルリフォームが従来法に比べ容易となる。例えば、建物の予想耐用年数を想定し新築入居契約時は全借家人の契約期間を同一とし、経年ごとに入れ替わり入居者の契約期間を当初の契約期間より経年分短縮する。つまり全賃借人の契約期間満期日の同一性を保ち全契約の終期時には借家人が居住しないことにする。これにより大規模修繕を想定した相当年数経過後の建物などの一時的賃貸借には有効である
- 定期借地権利用の促進。土地と建物をそれぞれ「定期」とすることにより賃貸借関係がスムーズに移行する。例えば、建物譲渡特約付定期借地契約の際、当事者が、期間満了後も定期借家契約を結べば、残った建物を有効に使うことができ、貸主、借主双方にとって有利である
- 不動産投資を促進する。投資のための適格要件とし長期契約、賃料確定契約、中途解約排除、立退き料不要が挙げられるが、例えば契約期間10~20年の中長期とし、契約期間内の借家人による中途解約権を排除し、中途解約を借家人がする場合は相当のペナルテイを課す(新法では例外措置として広さ200㎡以下の居住用物件に関しては、定期借家契約でも、入居者に中途解約権を与えた。「転勤、療養、親族の介護その他やむを得ない事情による場合により、自分の生活の本拠として使用することが困難になった時」は中途解約可能となっているので注意)。賃料改定は消費者物価指数、GDPなどの公共指標に連動する契約などにしておけば、土地所有者にとって、立退料など予測困難なリスク要素が減少し、長期の安定収入を求める投資家の投資促進を進めることになる。キャッシュフローの把握が容易になり、不動産の証券化ビジネスは促進する
- 定期借家権の普及、賃貸住宅の質の向上は、分譲住宅と競争関係となり得る。これまで賃貸住宅の居住者は住宅購入の予備軍とされてきた。今後、住み手は賃貸か所有かを同等に比較することになる。定期借家権で「貸す・借りる」という選択が可能になるため自分のライフスタイルやライフサイクルにあわせて住み替える米国型の住宅供給、需要になるため、賃貸市場と分譲・中古市場との連動が一層重要になってくる。転勤で持家から離れる場合、それを人に貸して自分たちは転勤先で賃貸に暮らす。老年夫婦が従前、購入した郊外の戸建てを賃貸化し、医療機関が多く管理が容易な都心のマンションを借りて暮らすスタイルも生まれる
②定期借家の導入動向
●住宅
賃貸住宅市場活性化の大きな期待を担って登場した定期借家法であるが、住宅における導入例はまだ少なく良質な戸建住宅の供給増加や賃料下落は発生していないのが現状である。その要因として、
- 事前説明や契約方式が厳格なため敬遠されやすい
- 賃料動向が借り手優位で、不透明な現状では家主側が賃料下落を懸念して導入を避けがちである
- 社宅契約は定期借家不可が多い
- 述べ床面積200㎡未満の住宅では中途解約を認められてないため家主サイドの利点が少ない
などが指摘されている。
●オフィス、商業施設
少子化などによるマンション分譲や戸建供給の長期的需要先細り懸念から大手不動産会社を中心に賃貸事業収益強化としてオフィスビル、商業施設の定期借家導入が急速に進行している。
日経記事によると「森ビルは01年度以降に供給するビルには定期借家を全面的に適用、三菱地所も新規供給ビルを原則として定期借家契約に切り替える。三井不動産も01年度中に提供する商業施設の定期借家契約比率を現在の30%から50%強に引き上げる。」
また4月に離陸する不動産投資信託を視野に入れると事業用の建物賃貸借については中途解約を予定しないので、当事者間で中途解約が可能という契約条項を設けない限り、貸主は中途解約を認めずに済み、契約期間内のキャッシュフローが計算でき収益が確定しやすくファンドの商品価値を高める効果がある。
オフィスビル、商業施設では、不動産事業の構造的変化に伴う賃貸部門へのシフトと、不動産投資信託の離陸などの要因で定期借家が急速に普及することは間違いない。
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