IT不況のなか好調なソフト・サービス分野
最近のIT不況は対米同時テロと重なり一段と厳しさを増している。国内の電気、情報大手7社(日立、東芝、NEC、富士通、ソニー、松下、三菱電)の2002年3月期の連結最終赤字が合計で1兆円を越える見通しとなった。半導体や携帯電話の販売不振が原因だが、各社ともリストラ、工場閉鎖、統合を進めている。
米国発IT不況は、世界分業が構築されているため日本、台湾、シンガポールなどのアジアからEU諸国まで同時に直撃されている。IT不況という言葉がメディアに登場するたびにITの成長性を疑問視し、「ITはダメ」など短絡的、性急な意見が国内でよく聞かれるようになった。
ITとは通信機器やネットワークを組み合わせ情報のやり取りを革新的に改善するサービスである。IT不況はいわばハードの売れ行き不振で、インターネットを使うパソコンや関連部品は循環的に好不況になる。今回は対米同時テロが重なりより厳しい様相ではあるが…しかしサービスとしてのITは技術革新が進んでおり市場は拡大している。ロングランで見るとこの不況も成長の過程の1プロセスに過ぎない。
IT不況と言われるなか好調に成長しているIT分野がある。システム構築会社(SI)などのソフト分野だ。ソフトサービスは企業向けパッケージソフト開発、情報システムをオーダーメード方式で構築するシステムイングレーション(SI)、完成システムの保守・運用サービスなどが対象だ。特に勝ち組み企業を中心に部品のネット調達、在庫圧縮、顧客情報管理などのシステム需要が急増している背景がある。半導体不況やハードの利益率低下の打開のためIT各社はソフト・サービス路線へ路線変更を余儀なくされている。とはいえソフト・サービスは相当数の技術者を必要とする労働集約型事業で利益率が特別に高いわけではないが、ハード部門のように価格競争が激烈ではない。
ソフト・サービス部門で突出し先行しているのが米IBMである。連結売上高の50%がソフト・サービス部門である。競合IT他社が経営不振のなか好業績を残しているのはサービス部門の順調さによる。日本IBMもサービス部門を強化した結果、今年7-9月連結決算は増収を拡大した。国内のIT各社も先行するIBMに負けじと同部門の強化に乗り出したが、IT技術者が不足している。富士通は製造部門で発生する余剰人員をSEに転換する試みを始めている。NECは「プロフェッショナルSE報酬体系」を導入し殊遇制度を充実させ、M&Aを活用し他社の有能なSEを抱え込む戦略を展開している。しかし技術者不足は深刻で特にプロジェクト全体を管理し経営レベルでのシステム提案ができる上級職SEや電子商取引システム関連SEは不足している。日本IBMのソフト・サービス部門の強化には10年の歳月がかかつている。同業他社がIBMをどこまで追撃できるか生き残りをかけた熾烈な競争が進行している。
経済産業省によるソフト開発やシステム管理などで構成される情報サービス産業の昨年の市場規模は前年比4.5%増の10兆6千115億円と成長市場である。情報大手は同分野を事業の中核に据え人材をシフトさせている。
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