高齢者の住み替え

各マスコミが取り上げている都心高層マンションであるが、三井不動産のセンチュリーパークタワーと青山パークタワーの購入者のうち60代以上が10-20%と以外に高い。60代以上のシニア・カップル層は、郊外戸建に居住していたケースが多く、買い替えでなく買い増しで都心タワーマンションを購入している人が多いという。

経済的富裕層の上記のケース以外に子供が巣立った後、不便で広すぎる自宅を貸して便利で暮らしやすい賃貸住宅に転居する高齢者が増加している。こうした動きの背景としては2003年3月施工された定期借家法で2年、5年など期限をつけて契約し、期限後は借り手に確実に退去を求めることが可能になった点があげられる。将来、自宅に戻れるし、子供に財産として残せる安心感が大きいわけだ。

さらに賃貸収入の差額が暮らしに余裕を与えるというメリットも見逃せない。例えば、自宅からの賃貸収入が15万円、転居先のマンションの賃料が8万円とした場合、差額7万円が手元に残る。年金などと合わせ新しい生活の必要経費が賄える。

政府系シンクタンク総合開発機構(NIRA)は、老後の暮らし方についての研究報告書をまとめ、そのなかで自宅を貸すという選択に注目。高齢者夫婦や単身世帯にとって戸建住宅は暮らしやすい住空間ではない。その自宅をファミリー層に貸して、もう少し便利で安い借家住まいに切り替えれば賃貸料の差額が生活資金に余裕を与えると提言した。

賃貸物件を管理する東急リロケーションは住み替え支援サービスを2年前から手がけている。賃貸に出すための修繕から借り手の募集・契約、管理まで同社が請け負う。シニアマンションを運営する共立メンテナンスは、自社物件に入居したいという高齢者に対し、自宅の借り手を募集し契約するサービスを始めた。

政府は、高齢者の入居を支援するため高齢者居住安定確保法を昨年10月に未施行となっていた規定を施行した。未施行となっていたのは、「高齢者円滑入居賃貸住宅の登録制度」「バリアフリー住宅への改良支援」「高齢者居住支援センター設置」についての規定。「高齢者円滑入居賃貸住宅の登録制度」は、高齢者の入居を拒まない民間賃貸住宅の登録・閲覧制度を創設。入居者は2年間分の保証料として、月額家賃の35%に相当する額を申し込み時に支払えば入居した高齢者に家賃の滞納が起きた場合は、高齢者居住支援センターが肩代わりし(6ヶ月分を限度とする)、大家の不安を解消する。それとともに、高齢者は保証人をたてずに賃貸住宅に居住できるメリットがある。

政府のこうした手当てに反し、現実問題として家主は高齢者の入居を敬遠するため高齢者が入居するのは容易ではない。また高齢者の入居を受け入れる優良賃貸物件も少ない。高齢者の住み替えのこれらの障害の解決のため、公的ベースでの環境整備、民間の参入を促す助成策が求められる。

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