オールドエコノミーや弱者に優しいIT戦略
NHK教育テレビ「ビジネス塾」で慶応大学金子教授が日本マイクロソフト前社長成毛眞氏にインタービューした番組はITへの誤解を解き未来を示唆する内容に富んでいた。
成毛眞氏はあの日本マイクロソフト前社長の地位を辞し「インスパイヤー」という少人数のベンチャー企業を起こした。有望な企業に投資しさらにIT化を丁寧にコンサルテイングして企業収益を向上させ投資家利益を得るというビジネスモデルである。ここまでは今よくあるベンチャーキャピタルであるが投資の対象となる企業の選択基準が実にユニークで戦略的である。
先ず金沢のプレハブ建設会社が紹介された。「日成ビルド」、立体駐車場を建設する中堅企業である。氏は独自の調査で技術力が高いことを見抜いた。筆者はいまどきオールドエコノミー代表の建設会社でもなかろうと首をひねった。氏の説明はこうだ。「建設や金属などのオールドエコノミーとよばれる業種も社会的ニーズは変わらずにある。淘汰が進み生き残れる可能性が高い企業に投資して得られるリターンは先進的と言われるIT関連企業の生き残り率3~4%に比べると確率論から考えて大きい。」この視点は逆転の発想のようだが投資スタンスとしてITブームを冷徹に見た慧眼である。
米国のネットバブルの崩壊は、インターネットでさまざまなビジネスモデルを生み出した多くのVBに厳しい現実を突きつけた。IT関連というブランドと目新しさだけで企業収益の具体性、実現性を分析もせず金の卵と飛びついた多くのVBが消滅した。浮ついた錬金術の失敗、成毛氏はマイクロソフトの現場から多くの教訓を得たのだろう。
さらに氏は予想外の企業に投資していた。身体に障害があるプログラマーが自ら社長となり身障者に使いやすいPCを設計している小企業だ。成毛氏は「今、国内に身障者は300万人いる。老人も急増する。10年後というスパンで見ると社会的弱者といわれるこれらの層を度外視してITを考えることは投資家として許されない。」
いままでITにはデジタルデバイドが語られ、社会的弱者はITの享受を受ける対極として見られがちだった。実はITのもたらす便利性や豊かな可能性を社会的弱者も充分に享受できさらにはIT戦略のターゲットになっているのだ。
眼からうろこが落ちた。同時にITによりもたらされる未来も夢がもてるんだと思い豊かな気持ちになれた。
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