20XX年不動産屋N氏の電脳な1日
都心にほど近いN氏が昨年購入した独身者、DINKS向けのコンパクトマンションが彼の自宅兼オフィスである。彼は、まだ独身で、飼い猫タマと仲良く暮らしている。5年ほど前、会社のリストラでサラリーマンから不動産業へ転身した。不動産仲介業もインターネットの巨大物件サイトの出現などで客担業者、物担業者に分化した。取り扱い物件による専門化も進んだ。業者の淘汰、競争は熾烈だ。彼は購入者サイドに立って物件仲介する「バイヤーズエージェント」にあたる。ネット上の彼のサイトは、表示されたオブジェクトを自由に回転・拡大・縮小させたり、アニメーションにすることができるWeb3Dや動画などのリッチコンテンツを活用、見やすく内容も充実しているのでアクセスが多く、ネットからの依頼が増えてきた。彼の得意とする投資物件や複雑に権利が錯綜した物件の購入者からの依頼が多い。彼は業者としてのスキルアップに都合のいい時間に学習できる「eラーニング」をフル活用している。受講者の問い合わせにリアルタイムで回答がでてくるレスポンスの良さと、動画のストリーミング配信など不動産関連のコンテンツが充実してきたからだ。
午前7時起床
熟睡中のN氏は目覚まし時計(ICタグ内蔵)のなる音で目が覚めた。目覚まし時計は、PCのなかにあるスケジュールとリンクされ起きる時間を自動で設定している。彼の自宅兼オフィスには究極の無線技術UWB(ウルトラワイドバンド)が設置してある。もとは米国の軍事利用目的で研究開発された技術だが、2002年民生利用を解禁した。1.5GHz幅以上の広帯域を使い,通信速度は数百Mbps。それでいてBluetoothをも凌ぐ低消費電力という技術だ。
彼の部屋中のPCやテレビ、冷蔵庫、目覚まし時計など殆どの家電にはIPアドレスが振られ無線LANに繋がっている。 今日は土曜日、普段は休日だが、11時にクライアントの金満氏と都心にある彼のオフィスで会う予定になっている。金満氏は彼の叔父が駐車場にしている保有地を購入し、とりあえず賃貸マンションを計画している。当初は身内間の取引であるため業者を入れないことにしていたが、契約後のリスク、他の土地有効利用の選択肢や投資の採算性などのコンサルタントの必要を考え、2日前に知人を通して彼に仲介を依頼してきた。N氏は、依頼受け付け後、オフィスのPCで管轄法務局へアクセスし、物件の登記簿、地積測量図、字図を出力(※1)、さらに役所のサイトで都市計画の用途地域、建蔽率、容積率、道路台帳で認定の有無、幅員、固定資産の標準地の価格、上下水道などを確認した(※2)。以前は法務局、役所の各担当課に出向いて確認してたがいまやオフィスに居ながらにしてPCで済ませられる。「便利になったものだ。」と思わず呟いた。
※1 当初、インターネットによる閲覧はコンピュータ導入庁での登記簿くらいしか見れなかったが、法務局がGPSによる国家基準点に基く座標値によって各筆界点を表示する数値地図を備え付け、この座標値をコンピュータで管理している。登記情報、字図、地積測量図、建物図面などの情報とリンクさせ登記所版GISが構築され、東京などの先進庁では地積測量図、字図、建物図面が閲覧できるようになった。
※2 役所で業者が確認する地図は、担当課ごとにバラバラに作成され管理されていた。1/500は、道路管理、上下水道管理、固定資産税管理など「施設管理系」に利用され、1/2500は、都市計画、商工、観光、広報、情報発信など「都市計画系」で利用されていた。e-japan構想による電子政府化の推進により自冶体の各部署で分散管理されてきた地図情報データはG-XMLで統合管理され、さらに行政情報の公開により、役所のサイトから簡単なメニューを選択し、階層構造で欲しい地図にアクセスできるようになった。
午前10時30分クルマ運転中
N氏はクルマで金満氏のオフィスへ向かつていた。彼のクルマには無線通信でクルマと外部の情報ネットワークを繋ぐテレマティクスが搭載してある。データ通信モジュールとテレマティクス対応カーナビの標準搭載車なのだ。リアルタイムで交通情報を提供するセンターと「カーナビゲーション」が常時接続し、最適な経路を瞬時に通信する。最近、テレマティクス標準搭載車が増えたので、数年前までの渋滞がかなり緩和された。不動産業者はクルマで移動することが多いのでこの機能は有難い。クルマが盗難にあったときそのクルマが情報を発信して情報提供サービスセンター、所有者に異常を知らせ、カーナビに実装されているGPSが現在位置を特定する機能もある。最新ニュース、着信電子メール、情報提供サービスセンターからの転送データなどが音声で車内に流れている。
午後3時再びクルマ運転中
N氏は再びクルマのなかである。まず金満氏に同行して現地を見分し、打ち合わせ後、軽い雑談をして別れた。5日後、購入予定地の適正価額、有効利用案、想定建物のボリューム・概要、投資採算性などの素案の報告を約束した。金満氏はN氏の幅広い不動産のスキルとレスポンスの良さに満足した様子だ。
ちょうど昼時、食事をしようと歩いているとノートPCよりも軽量でコンパクトな電子手帳大の高機能携帯端末が鳴り、近くのひいきの店から「いまなら空き席あります。今日のサービスランチは…」とメッセージがきた。位置情報でN氏を捉えたらしい。並ぶことなく食事をすませられた。
N氏は車中から腕時計型携帯電話で部屋を快適温度に設定し、犬や猫向けの自働エサやり機「iSeePet]で飼い猫タマに携帯電話から指示を出してエサを与えた。エサやり機についているカメラで撮影したペットの様子を携帯電話から確認すると喜んで食べている。
午後4時仕事中
N氏はPCの前にいる。まず考えられるいくつかの選択肢の中からワンルーム、ファミリー型それぞれの賃貸マンションを想定してみる。建築形態規制ソフトを利用し、今日の敷地上で建築可能な空間、建物の外観を設定し、各階の賃貸有効面積については、CADソフトを利用して各階平面図を作成して査定する。想定建物の賃料水準、需要、投資採算性を求めるためGIS(地理情報システム)を使う。
地理的条件による同一需給圏の設定から圏内のターゲットとなる年齢別人口、世帯数、公営・公団・公社の借家世帯数、民営の借家世帯数、給与住宅世帯数、住宅の部屋数、延べ面積等の統計データさらには競争賃貸マンションの分布が地図上にビジュアルに表現される。競争賃貸マンションはポイントデータとして、賃料、空室率、部屋数、築年、設備などの属性データをそれぞれ保有する。成約事例やその他の業界データも取り込んである。地図グラデーションにより賃料、空室率の高低を濃淡で表示し最寄駅や都心からの限界地を探索したり、対象物件と競争物件の競争力の判断資料とする。
競合物件、潜在需要人口などのデータからデータマイニングで想定賃貸マンションの総収入予測を推定し、インナーデータと総合して投資採算指標となる正味現在価値(NPV)、内部収益率 (IRR)などをDCF法で求める。
午後7時夕食
やりかけの仕事が終わるのは今夜遅くになる。夕食は調理に取り掛かるときに、電子レンジメーカーのサイトからレシピをダウンロードすると、レシピはパソコンにではなく、直接電子レンジにプログラムとして送り込まれ、料理に合わせた焼き加減がコントロールされ料理が出来上がる。N氏を常連にしている食品スーパーは、常連顧客の冷蔵庫にある牛乳や卵、バター冷凍食品など常用品の残量をネットを通じて把握、不足すれば配達し、ネット上で決済するので独身者には助かる。IPV6でほぼ無限大に家電などにアドレスが振れるようになり情報家電に進化したためだ。
午後9時テレビの前
仕事の合間の息抜きに50インチプラズマテレビをインターネットに接続した。ハンディカメラで撮影した自主制作の番組「日本の民家」、N氏のサイトで公開したものだ。どのサイトでも動画が楽しめるようになっている。容量をおさえて表示速度を速めるサイト制作をしていた時代がかつてあったことがウソのようだ。映像に見入っていると浴槽センサーが風呂が沸いたことを感知して音声で知らせてきた。浴槽に身をゆだねると今日の疲れが洗い流されていくようだ。いつともなくN氏は同世代の演歌歌手氷川キヨシの2003年頃に流行った歌を口ずさんでいた♪
※このコラムにでてくる技術はすでに実用化されているものも一部ありますが、近未来に起こると予測されるものです。
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