ワンフロアの部分コンバージョン

オフィスビルを丸ごと全部、コンバージョンして住居に用途転換するのは、近年、珍しくなくなったが、ビルのワンフロアーを住戸に用途転換する例はあまり前例がないのではないだろうか。内外装を一新し、耐震強度を補強するリファイン建築では、同一用途で再生する「居ながらリファイン」で前例があるのだが…東亜建設工業はオフィスビルのワンフロアのみを住居に用途転換する部分コンバージョンを始めた。同社のサイトと日経産業新聞の記事より紹介する。

川崎市の工業地帯に建つ築16年、5階建で東亜建設工業の関連会社が入居していたオフィスビルは新築時には満室に近かったが、付近の工場の空洞化とともにテナントが流出し、直近で稼働率60%超という状態であった。当該ビルの用途転換が検討されたのは住宅のほうが賃料を高く設定できるからであったが、交通機関は川崎駅からのバス便で工業地帯という周辺環境から住居としては需要がないのではという悲観的見解が多かった。社内で検討を重ね、定着しているテナントが入居している状態での工事が可能でワンフロアだけであればコストもそれほどかからないという利点を生かした部分コンバージョンが実行されることになった。

5階部分のワンフロア約480㎡、4室のオフィスがコンバージョンの対象で、コンバージョン後の住居9戸。3戸はマンスリーマンション、残りは賃貸物件とした。募集開始後20日間足らずで賃貸物件は6戸中の4戸の入居が決まった。

「同ビルの工事ではコスト削減に力をいれ、投下資金に対する家賃収入の利回りを徹底的に追及した。床材や電気設備などそのまま使える部材は残し、総工事費を3,900万円に抑えた。家賃は1戸当たり10万円程度でオフィスに比べ面積当たり約1割高く設定。満室が続けばオーナーは年間600万円以上の収入を見込める。利回りは目標だった15%を超えた(日経産業05.08.18)。」

同ビルのコンバージョン工事では住戸内の設備を集中させ、排水系の勾配を確保した。排水設備を床下に新設するため、床を底上げしたので居室部分との間に段差が生まれたが、その部分をスキップフロアとして2段階段を設け室内空間のデザイン性を高め、室内が広く見えるという付加価値も加わった。

同社のサイトによるとスペース等の制約により給湯設備を電化とし、鍵はセキュリティ・管理に優れた最新のランダムテンキータイプにした。さらに既存のオフィス使用者との動線を分けるため、裏玄関に新たに居室部分対応のオートロックドアを追加採用した。

オーナーの視点からの投資採算性から徹底したコスト削減を図っただけでなく、入居者のニーズに対応したデザイン性や使い勝手などの細かい配慮が満室という結果に繋がったと思われる。

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