女性専用賃貸マンション

相変わらず大量供給されている賃貸マンションだが、最近、マンションの供給側は、ターゲットをより細分化し、明確に絞り込むという戦略を鮮明にしている。住まい手側は、個々のライフスタイルにフィットした個性的な住空間を求め、住まいへのこだわりは強く、物件選別の目を一段と厳しくしているため、大量供給される画一的で無個性な住まいに対する拒絶反応が、利用者側に強く、空室や賃料低下となって供給側に跳ね返ってくるからだ。

女性の高学歴化、社会進出が進んでおり、社会的・経済的に自立した女性の単身者世帯が増加しているが、このような層は、ライフスタイルへのこだわりは強く、住まいに対しても明確なポリシーや自己実現意欲を持っている。例えば、分譲マンションにおいても、近年、急増しているコンパクトマンションの購入者の80%以上は女性単身者だそうだ。

賃貸マンションのオーナー側からみても単身女性にテナントを絞り込むことによる差別化のし易さと、男性に比べ、部屋を汚さない、家賃滞納が少ないという安心感から、この方面のマンションに対する関心は高まっている。しかしながら、需要の割には、賃貸マンションで単身女性向けに本格的にプロデュースされた物件は少ないのが実情だ。

■単身女性向け専用賃貸マンション

20~30代が中心、単身女性専用マンションというと、設計者は構えてしまって、凝ったエントランス、デザイン性の高い共用部分、女性らしい装飾性に富んだ内装などを思い描くようだが、「そのような部分にお金をかけるなら住設機器を充実させて」という意見が実は圧倒的に多いらしい。

このように供給側は、女性単身者のニーズをまだ十分につかみきれていない。例えば、「女性のための快適住まい作り研究会」の小島ひろ美代表によると、

作り手側は、勝手にマンションを買う女性はキャリアウーマンだから料理なんてしないだろうと決め付けることがある。その結果、ガスコンロが2口しかない、シンクの小さなキッチンを作ってしまう。しかし家を買おうとする女性の多くは部屋で過ごす時間を大切にしたいと考えている。当然料理も好きだ。女性はバスタイムを充実させたいといっても、浴室で小さいテレビを見たいわけでない。それは野球中継を見たい男性の発想ではないか(日経アーキテクチュア)

と笑えない話になってしまう。

「単身女性向け」仕様は、分譲マンションでは、開発・供給が増えているものの、賃貸マンションでは本格的な物件が少なく、圧倒的に多い賃貸マンション派にとって不満の種であったが、最近、こうした物件が登場し、注目されている。

首都圏と近畿圏を中心に「働く女性のための賃貸マンション」を志向する不動産仲介のスターツは、単身女性向け賃貸マンション「オザリア」シリーズを発売。女性向け情報誌「オズマガジン」を発行しているグループ会社スターツ出版と提携し、物件開発に女性の声を全面的に反映させる仕組みを活用している。

まず単身女性の関心が高いセキュリティやプライバシー機能であるが、オートロック、建物の入り口やエレベーター内のモニターカメラ(エレベーターの外側に、かご内部の様子が映るモニターも設置)など高機能な防犯設備に加え、プランニングにも細かい配慮がなされている。カーテン上部から室内の明かりが漏れないようにカーテンレールに代え開口部にカーテンボックスが設けた。共用廊下は屋内に設け、外からの侵入をブロックした。1階はテナント、DINKS夫婦向けとし、単身者向けの部屋は2階以上に配し、女性入居者用のエントランスと動線を分離した。

こだわり住空間への数々の仕掛けも豊富だ。例えば、充実収納。ブーツが収納できる大型の下駄箱を設置、壁一面に収納を設けた。外壁やエントランスのデザインはできるだけシンプルにしたが、住設機器は充実させている。浴室は追い炊き機能、浴室暖房、乾燥機能付き24時間換気システムは標準装備。ユニークなのは「風呂に入りながら読書をする」「浴室を暗くしてろうそくをともしてリラックスする」といった声を聞き、調光機能を取り入れた。(日経アーキテクチュア)

家賃は周辺相場の1割高であるが、完成物件7棟の稼働率は高いという。このような女性専用賃貸マンション成功の鍵はターゲットである単身女性の意見を細部にわたりくみ上げる仕組みと、その意見やさまざまな要望を柔軟に反映し、差別化できる供給者のマネジメント能力に係っているわけだが、忘れてならないのは、いかに住空間を工夫しても、これらのソフトとハードの実現は、それに相応しい立地が伴わなければ難しいという賃貸経営のシンプルな法則である。

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