マンション建て替えにリバースモーゲージ活用
いわゆる築深老朽分譲マンションは、マンションの経年に連動して居住者も高齢化が進んでいる。高齢者は、一般に年金以外に現金収入が乏しいため、マンションの建て替えとなったとき、建て替え資金を負担をしようにも、高齢者が借入できる銀行は殆どなく、建て替え計画はあえなく頓挫するケースが多いと聞く。民間金融機関ではリスクテイクできない高齢者の建て替え資金サポート不在問題は、今後、国内に膨大な老朽マンションストックが積みあがっていく日本の深刻な社会問題になるのではと懸念されていた。
高齢の居住者に建て替え資金が融資され、無事に老朽マンションの建て替えを実現したケースがある。昭和43年に福岡市早良区西新で建築された「日生西新コーポラス」は、2棟から成り、1棟は既存不適格、南棟26戸、北棟10戸計36戸、1戸当たり平均専有面積は43.24㎡で、エレベーターがなかった。市内では最も古い民間分譲マンションの建て替えに平成13年10月制定された住宅金融公庫による「都市居住再生融資・高齢者向け返済特例制度」が活用された。
この制度は、高齢者住宅財団が1,000万円を保証上限として、住宅を担保としたリバースモーゲージ型ローンを高齢者(借入申込時に年齢が60歳以上)に融資するもので、毎月の返済は利息のみと低く抑えられているため、年金収入だけでも返済に無理がなく、元金は死亡時に相続人が建て替え後の区分所有を処分し、一括返済するという仕組みになっている。
当該制度の利用で資金調達が前進し、「コスモ西新コートフォルム」として平成15年8月竣工、建て替えが実現した。ちなみに当物件は、住宅金融公庫による同制度適用の全国第一号物件となっている。西新地区と言えば、平成16年県地価調査で地価が横ばいに転じ、全国的に注目を浴びたエリアで、福岡市内では有数の利便性と住環境を備えるマンション適地となっているが、当該マンションが竣工した当時は、マンションがまだ珍しく、西新界隈ではちょっとした有名スポットとなった。
しかし経年による設備などの老朽化や専有面積43㎡で狭く、5階建てでエレベータがないなどの機能低下により、平成12年5月から管理組合で建て替えが検討され、不動産コンサルティング会社ラプロスがデベロッパーとは利害関係を画するコーディネーターとして参加、コーディネーターと同年9月に全区分所有者の合意形成が成立、現行「区分所有法」における管理組合の総会決議によらず建て替えを行う「任意建て替え方式」が実現した。
その後、デベロッパーの選定に紆余曲折はあったものの、最終的にはリクルートコスモスが、デベロッパーとして事業に参画した。エレベーター付き6階建、総住戸23戸、従前からの区分所有者が所有する7戸を除いた16戸を一般分譲する「等価交換方式」を採用、平均専有面積76.84㎡を確保した。従前の建物の容積率132%に対して、建て替え後の新築マンション容積率は150%で、容積上昇倍率1.14倍は、建て替え時の余剰容積率が少ない建て替え事業として、全国でもレアな事例となった。
分譲マンションの建て替えにおけるネックとして、高齢の区分所有者が事業費等の融資を受けられず建て替え賛成の決議が得られないことが指摘されているが、老朽マンション居住の高齢者に、マンション建て替えの資金面をサポートした公的機関ならではのリバースモーゲージ型ローンは、今後、活用事例が増えるだろう。
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