要塞化する住宅団地 / タウンセキュリティ
国内の凶悪犯罪は増加し続け、連日、メディアが伝えるその陰惨な現場は、おぞましい冷血の世界を繰り広げている。さらに犯罪手口は年々巧妙化・計画化しているが、犯罪者の検挙率は低下して久しい。わが国の安全神話は完全に崩壊した。安全もカネで買う時代に意識変化しており、このような時代を反映して住まいである住宅のセキュリティ対策が俄然、脚光を浴びだした。
㈱富士総合研究所などによる「家庭のセキュリティに関するアンケート調査」では住宅物件を購入したり賃貸したりする際に、予算に余裕があれば考慮するも加えた防犯性を考慮する層は男性の7割(73.6%)、女性の8割(80.4%)にも達している。このような社会背景の変化を汲み取り「安全な住まい」をコンセプトに住宅会社やマンションデベロッパーは競争力の強い商品開発に余念がない。
米国では住宅街を高い塀で囲み、数ヶ所のゲートから住民が出入りする「要塞型」の街が80年代後半から増加し、90年代末で全米で2万ヶ所あり、800万人が居住している。なにやら先住民の襲撃に備える開拓時代の西部劇の砦を彷彿とさせられるが…。日本は、建築基準法などにより、宅地内を公道とすることが事実上義務付けられており、米国のようなスタイルは導入できないため、警備保障会社と組みITを活用して安全性を高める工夫がされている。
町ぐるみの安全を売ります。警備会社の巡回や監視カメラを張り巡らしインターネットで監視する防犯システムを駆使した住宅団地が各地で出現している。エリア単位で犯罪からブロックする「タウンセキュリティ」と呼ばれる防犯システムだ。このような「タウンセキュリティ」の出現の背景には、例えば泥棒は人目がなければ惜しみなく時間をかけて盗みを遂行できるため個々の住戸の防犯だけしてもセキュリティ対策に限界があるという状況がある。防犯には住民同士のコミュニティが不可欠なため街ぐるみ要塞化した「タウンセキュリティ」が登場した。
積水ハウスが大阪市岬町で600戸規模の住宅団地を対象に展開している「リフレ岬 望海坂」は2002年から分譲が始まり、現在は海を見下ろす丘陵地に形成されたリゾートチックな街並みに100世帯ほどが入居している。24時間常駐の警備員による域内の巡回サービスは緊急時には通報から2分あれば警備員が駆けつけるという迅速さだ。各住戸に設置された人の体温を検知する人感センサーで不審者の進入があれば警備員に連絡され駆けつけれる体制ができている。
タウン内入り口に1ヶ所、公園2ヶ所、合計3ヶ所にWEBカメラを設置されており、住民だけがIDとパスワードで子供の登校姿や安全に遊んでいるかなどの防犯カメラの映像をインターネットで見ることができる。各住戸にパソコンが標準装備され光ファイバー通信で利用できる。光ファイバーの通信費用はプロバイダー料込みで、7,245円/月(税込)。但し引渡しから3年間は月額3,150円(税込)、差額は事業主負担。
積水ハウスは「リフレ岬 望海坂」が販売好調だったので第二弾として茨城県で開発している「コモンシティ十王・城の丘」でも防犯対応の建売住宅をまず16戸発売した。ほかの分譲地にも同様の防犯サービスを広げて行く予定だ。
「コモンシティ十王・城の丘は、セコムの「タウン&ホームセキュリティ」機能を備え、侵入者や火災などを感知すると地域内に開設予定のセコムの緊急発進拠点に通報する。また光ファイバー高速インターネットを利用、自宅のパソコンから地域内の公園に設置したカメラ2機で子供が遊ぶ様子などをリアルタイムで見ることができる(日経産業04.02.20)。」
新日鉄都市開発による大型の戸建開発「さくらが丘アイザック日吉」は、新日本製鐵先端技術研究所跡地の7万㎡余りを再開発し、総戸数346戸を計画、第一回分譲の51戸は即日完売した。大規模開発による優れた街区構成や、建物プランなどのハード面だけでなく「安全」というソフト面を特に配慮し充実させたことが高人気の要因となっている。総合警備保障会社と組み、警備員が常駐。1日2交代制で勤務し、車か徒歩で巡回し、不審者の侵入や迷惑駐車を未然に防ぐ体制を整えている。個々の住戸のホームセキュリティサービスも整備され、防犯フィルム入りガラスサッシ、防犯センサー、無線非常ボタンなどを備える。また万一の災害時に備えた防災用井戸、防災用備蓄倉庫の用意があり、宅地内の清掃や植栽管理なども管理会社に委託されている。
以上、戸建て住宅団地の「タウンセキュリティ」を見てきたが分譲マンションのセキュリティはどうであろうか、
「マンションのセキュリティには、周囲を囲って部外者を排除する「城郭型」と、できるだけ多く人目につくようにして防犯を図る「オープン型」の対照的な2つの考え方がある。前者は都心部に建つ比較的小規模なマンションに多く、後者は敷地が広い郊外型のマンションに見られる(日経アーキテクチュア04.02.09)。」
城郭型の大型分譲マンションとして有名なのが有楽土地など事業主で長谷工コーポレーションの施工による東京都・江東区にある全10棟989戸からなる「ニュートンプレイス」だ。大規模団地では建築基準法に定める容積率、高さに関する形態規則の一部を緩和できる総合設計などを活用し公開空地を設けているため、部外者から遮断する城郭型セキュリティは採用し辛いがニュートンプレイスは、このような法的制約がなかったため要塞化することができた。
「城郭型とすることを考慮して、中庭を囲むように住棟を連続的に並べている。車が中庭に入らないように駐車場は北側のセキュリティゾーン外部に配置した。企画段階から車や人の通路などの動線を管理会社と検討した。動線計画をもとに管理会社が運用面でのセキュリティや管理計画をまとめた(日経アーキテクチュア04.02.09)。」
有楽土地は、マンション販売に当たり購入層の多くは子供がいるファミリー層という特徴を考慮して中庭を部外者からブロックし、城郭化してセキュリティを充実させたが、この販売戦略は効を奏し、居住者の多くがセキュリティの充実を購入動機にあげている。
■関連記事
拡大するホームセキュリティ需要