米国を侵食するIT・金融の国外流出
ニューヨークの株式相場は8月6日、大幅に続落し、ダウ平均、ナスダックともに今年最安値を更新した。44ドル前後と依然、高値水準が続く原油価格に加え、朝方に発表された7月の雇用統計の非農業部門の雇用者数が市場予想を大幅に下回り、景気減速懸念が強まったことから売られた。
株続落の元凶は、原油価格高騰と7月の雇用統計の非農業部門の雇用者数が市場予想を大幅に下回ったからだ。原油価格高騰はさておき米国の雇用は、オフショアリング、アウトソーシングとよばれる情報技術などインドなどへの海外移転で悪化していると指摘されてきた。
2割の仕事が国外に行くかも…IBMの社内情報は、瞬く間に社内を駆け巡り…社員は肌寒いクリスマスを味わった。マイクロソフト、AOL…IBMの社員が明日は我が身と怯えるのは国外移転が米企業の一大潮流となりつつあるためだ。特に報酬が10分の1ですむインドへ続々流れて出ている(日経04.01.27)。
カリフォルニア大バークレー校の専門家は1400万人の雇用が脅威下にあると指摘し、また2008年までIT専門職の最大25%が海外に流出するという報告もある(日経04.04.19)。
流出はITにとどまらない。JPモルガン・チェースは証券アナリスト業務の一部をインドに移転した。ウォール街と現地の約半日の時差を利用して24時間体制を構築。部門コストは通信費込みで米国の4分の1。製造業の空洞化が指摘され、その度ごとに雇用危機をサービス業の高度化で克服し、国際競争力を維持してきた米国だが、いまやサービス業のコアとも言うべきIT関連や金融で流出している。
職につけないIT技術者がオフィスの掃除のアルバイトをしている姿をTV放映された映像が象徴するように米国内で強まるプログラマーやSEの雇用喪失、賃金低下の危機感や不満は強く、労使を2分する論争にまで発展している。経営者側は国外移転で移転国の低賃金により米国企業のコスト削減をもたらし、生産性を向上させ、IT投資を増やし、循環して雇用を創出するという論理を展開している。
米ハイテク企業が加盟するITAAはこのロジックで2008年までに累計31万7千人の雇用創出効果があると報告しているが、IT研究者や技術者が属するIEEE米国支部は「中立的な調査機関が15年までに330万人の雇用が流出するとまとめたレポートや自らが調べたハイテク産業の失業率の高さを引用、雇用流出がハイテク産業での優位性を揺るがし、安全保障上も問題がある。」(日経04.04.05)とする提言書をまとめた。
いずれにせよSEなど年棒5万~7万ドルの中産階級の技術者が危機的状況にあり、米国で中間層の消失が驚くべき速度で進んでいるが、このような中間層の消失は、日本も無縁ではない。
例えば情報システム構築の場合、中国には日本語ができるスタッフがいて日本企業が国内で設計書を書けば、開発、テスト、製品の瑕疵までフォローできる。IP電話といまや低価格化したテレビ会議で日本に居乍らにして発注ができる国際分業システムが出来上がっている。手直しが多く、期待するようなコスト削減に結果的にならないといった不満の声は最近、仕事の精度の向上で少なくなった。所要コストは国内で発注する場合に比べ1/5以下。
日本の製造業の低賃金労働による産業空洞化の危機は、デジタル家電や半導体の国内回帰も始まり、先端工場のブラックボックス化によるテクノロジーの温存でかなり薄れたが、情報技術など知識集約部門が海外移転している事実は意外に知られていない。
かつてITが雇用のセーフティネットになるといった大臣もいたが…賃金下落や雇用喪失とは対極にあると思われた知識集約の情報技術(IT)が、皮肉にも瞬時に情報を送受信してしまうその特性ゆえにグローバル化された国際労働市場を高速通信で構築し、国内雇用を抑制してしまうと予測できなかっただろうか…
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