新築・中古マンション価格動向
新築マンションの販売戸数は首都圏で2003年が約8万3千戸、前年に比べると6%減少しているが、2004年は各社の用地取得の状況から見て、再び増加すると見られている。
全国レベルで見ると、不動産経済研究所による2月9日発表の「全国マンション市場動向」では、2003年の発売戸数は前年比8.7%減の15万4,951戸だった。事業主別の発売戸数は大京が6,553戸と7.7%減ったものの26年連続首位の座を守った。大都市圏で「人口の都心回帰を受け郊外部での発売が大幅に減少した。」首都圏の発売戸数は6%減の83,183戸。しかし東京23区だけで見ると15.1%増の36,340戸だった。近畿圏は20.0%減、東海・中京圏は12.5%減。北海道と北陸・山陰が増加したものの、東北、中国・四国・九州が減少。「地方都市のマンション供給調整はほぼ終わった」と見ている。分譲価格の全国平均は3,539万円と前年比0.4%増で4年ぶりに上昇した(日経産業2.10)。
注目すべきは、地価下落と低金利の追い風で賃貸より月々のローン返済額の負担が軽く、より広い新築が買えるというかつては考えられなかった現象がでてきたことだ。反面、デベロッパーサイドとしては、建設費、用地取得価格の上昇などのマイナス要因が出てきており、所得低下の折から販売価格を上昇させることは難しいという頭の痛い問題になっている。1次取得者向けには専有面積を削り総額で調整するか、用地取得費を低下させるかしかない。
例えば日本綜合地所による横浜市金沢区の「レディアントシティ横浜」は総戸数1,805戸、敷地面積約14万平米と最大級の規模で、京浜急行線「金沢文庫駅」から徒歩20分以上というバス便立地。このマンションの売れ行きは桁外れのスケール、マンションとしては不利な立地などいろんな意味で業界の注目を集めたが、専有面積85平米で3,200万円台という割安感、値ごろ感が1次取得者の高い関心を呼び、販売の出だしはまずは好調という。ただ戸数が多いため今後も好調さを維持できるかは予断を許さない。
一見堅調に見える業界だが、実は売れ行きに陰りが見え始めている。例えば大型物件は期別販売などで小出しに販売しており、マンション市況の悪化予測からマンション各社は在庫の積みあがりに神経を尖らせ、新規物件の開発には総じて慎重になってきている。ここにきて新築マンションの「2005年問題」も業界でささやかれはじめた。不動産経済研究所は「マンション市場を牽引している超高層物件も来年には在庫が積み上がるのでは」と予想しているし、そもそも「首都圏の新築市場は年間5万~6万戸が適正規模(ジョイントコーポレーション東海林社長)」という見方もあるくらいだ。
今後の新築マンションの供給形態であるが、㈱工業市場研究所の「2004年版 首都圏のマンションディベロッパー各社担当者アンケート調査結果」によると既に一般化した「超高層」「大規模」は関心の度合いが低下し、前年供給が増加した「シングル・ディンクス向け」「オール電化」は、供給経験は増えたが、まだ関心の度合いは高い。逆に関心の度合いは高いがあまり供給されていないのは「スケルトン・インフィル」「メディカル・シルバー」「環境共生」等で、マンション分譲事業以外の領域に関しては、前年同様「マンション建替事業」に対する関心が最も高い(マンション建替事業は後述)。
新築マンションの供給圧力、低価格化は中古マンション市場に当然、波及する。三井不動産販売が2月5日まとめた昨年10-12月の首都圏の住宅地・中古マンション価格動向調査によると、東京23区の中古マンション価格は7-9月期に比べ1.2%下落した。4-6月に対する7-9月の下落幅より0.9ポイント拡大。首都圏全体の10-12月は1.0%の下落。一方、住宅地は東京23区で0.1%、首都圏全体では0.7%の下落だった。2003年の首都圏の中古マンション価格の下落率は2002年とほぼ同じ4.3%、住宅地は2.1ポイント縮小の3.1%だった(日経産業04.02.06)。
長期にわたる地価下落とマンションの躯体・設備部分の経年減価に加え、新築マンションの低価格化や供給圧力で中古マンション価格は通常、下落を続けるが、利便性・環境に恵まれ、管理やセキュリティが行き届いた高グレードの希少性の高い一部のブランドマンションは、当時の売り出し価格より上昇しているものもある。
例えばNIKKEI NET住宅サーチによると東京渋谷の「広尾ガーデンヒルズ・ウエストヒルIJK棟」は、1985年当時の新築坪単価が262万円なのに対して、2003年の中古坪単価は361万円で、上昇率は37.8%に達した。「広尾ガーデンヒルズ」は住友不動産・三井不動産・三菱地所が「広尾の丘」の6万6,000平方メートルの敷地に建設。14棟の分譲マンション(総戸数1,130戸)と1棟の賃貸マンションで構成している。都心の人気エリアに位置し最寄りの地下鉄・広尾駅から5分という「好立地」、緑豊かな敷地に住棟がゆったり配置された「好環境」、大手ゼネコンの清水建設・大林組・大成建設が競うようにして実現した「高グレード」と三拍子そろったことがデフレ下でもキャピタルゲインを実現している。1987年完成の千葉市美浜区「検見川マリンタウン」20.7%、2001年完成の東京都港区「高輪シティフォルム」19.9%と価格上昇率の2位、3位が続く。
「広尾ガーデンヒルズ・ウエストヒルIJK棟」もいずれ老朽化が進み、建て替えというライフサイクルを迎えるわけだが、法改正があったとはいえ現行区分所有法下での合意形成の困難性と建て替えの採算性というハードルをどうクリアするか、マンションの宿命ともいえる課題が待ってることに変わりがない。現実問題として、建て替えの合意形成の長期化・困難性、既存老朽マンションの住民の高齢化、乏しい余剰容積率などの諸要因で、マンション建て替えの実現事例は全国的に見ても極めて少ない。今後の法整備等を視野に入れ、マンションデベロッパーは、この領域に新たな事業可能性を模索している。
希少性が高いブランドマンションの価格上昇がいつまで続くのか…?「マンションの資産性」と「建て替えビジネスの行方」という視点からみれば興味深い。
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