マンション建て替えの現実
最近、マンションの建て替え事例のいくつかが新聞記事で紹介された。その2件をまず紹介すると
マンション建て替え円滑化法(2002年12月施行)を利用して老朽化したマンションを建て替える案件が東京都新宿区で実現する。築約45年の諏訪町住宅が25日、建て替え組合設立を区に申請、受理された。新法を利用した建て替えは東京都内では初めてという。新法では組合に不動産会社が入ることが認められており旭化成が事業協力者として参加する。2004年1月に解体作業に着手し、2005年7月の完成予定。現在の住戸数は60戸だが全96戸のマンション(地上5階地下1回)が建つ。各戸の延べ床面積は34~102平米。居住者は現在と同じ床面積(44平米)の住戸に追加費用負担ナシに入居できるほか、追加費用を払えば現在より広い部屋に入居できる。新たに増える36戸分の分譲代金を建て替え費用などに充てる(日経産業06.26)。
旭化成は等価交換方式により東京新宿にある同潤会江戸川アパートの建て替えに乗り出した。1934年の建築のため、設備などの老朽化が進み、3月に区分所有法による建て替え決議が成立していた。旭化成は現在の地上6階建て、同4階建ての2棟からなる建物を取り壊し、地上11階建てのマンションを建設する。建て替えについては等価交換方式を採用、地権者が土地持分を、旭化成が建設資金をそれぞれ出資して新しいマンションの専有床を出資比率に応じて取得する。総事業費は土地代込みで約85億円、旭化成は建築費として40億円強を負担する方針。総戸数は現在の258戸から約220戸になる見込み。2003年4月に着工して2005年3月に完成予定(日経産業7.22)。
■マンションの寿命
東京カンテイの全国の総マンションストック調査によると国内の総マンションストック数は約460万戸でこのうち、2001年12月時点での3大都市圏のストック数は362万7990戸となった。また、3大都市圏で築30年を超えるマンションは21万5,788戸と全体の5.9%となったが、10年後の12年には5.5倍の約118万戸となり急速な増加が見込まれる。3大都市圏の築30年を超えるマンションのうち全体の4分の3にあたる16万2,830戸が首都圏に集中。そのうち9万9,149戸を東京都が占めている。
欧米のRC造の建物は100年以上経過したものも多いが、日本のマンションは、建築後30年前後で建て替えられるケースが多い。なぜ日本のマンションは寿命が短いのか、日本特有の問題として1970年以降主流となつた圧送ポンプでのコンクリート打設では過量に水を混ぜる「シャブコン」が多く、コンクリートの強度の著しい低下を招いており、さらに塩害による鉄筋コンクリートの劣化も指摘されている。
コンクリート設計基準強度は、65年くらい大規模修繕が不要で供用限界期間が約100年とされているのが24N/mm(ニュートン)以上(1N/mmとは約10kg/1cmのことで、1cmに約10kgの力が加わっても壊れない強度をいう。数値が大きいほど、耐久年数が長くなる)。従来の一般のマンションは18N/mm程度が多く充分な強度が確保されていない。
さらに最近、注目されているのが内断熱、外断熱が与える影響である。日本省エネ建築物理総研代表江本央(えもと なかば)氏によると欧米では1973年のオイルショック以降、コンクリート建築は全て外断熱になっており、「欧米ではあり得ない内断熱」を続けている日本のコンクリート建築は、今なお結露トラブルが発生し、耐久年数も30年で解体されている。日本のマンションが欧米に比べ建物寿命が短命なのは、気候風土の違いに加え、欧米の外断熱と日本の内断熱の違いにあると言える。
建物の減価は経年による通常の物理的減価に加え、機能的、経済的減価がある。機能的減価でいうと建て替えの候補となるマンションはエレベーターがないマンションが多く、高齢の居住者には辛い生活環境となっている。専有面積も50平方メートル以下が多く狭い。ライフスタイルに合わない専有部分の間取り、マンション全体の設計の陳腐化、また電気容量も小さく、高齢者に対応したバリアフリー構造にはなっていない、オートロックやセキュリティ機能がついてないなどであり、経済的減価とは、敷地と建物のバランス、周辺の住環境の悪化などによる減価になる。
■建て替えのデータ
国土交通省「平成マンション建替え円滑化方策検討委員会」が13年11月30日に発表した調査報告によると全国で建て替えられたマンションは老朽マンション69戸、被災マンション108戸、合計177戸である(※予定含む平成13年1月末現在)。
当初の分譲をみると9割以上が公的機関により供給されたものである。建て替えは民間事業者などの参画による等価交換方式が3/4を占める。建築後30年以上経過したのものが3/4を占め、平均は約38年であった。
容積率の変化は、建替え前では100%未満のものが3/4を占める。平均利用容積率の変化約86%→約249%、建替え前後の戸当たり専有面積の平均増床倍率は約1.7となっている。戸当たり平均専有面積でみると約47㎡から約76㎡に増加。
老朽マンションの建替え事例では、金銭負担なしで、従前と同等以上の専有面積が取得できるものが大部分(88%)。全額金銭負担となった事例は事例①約2,000万円(東京)、事例②約1,500万円(名古屋)となっている。
■建て替えのスキーム
民間業者が参画し、「等価交換方式」を採用するケースが多い。等価交換方式による建て替えの場合、余剰容積率(未消化容積率)を活用することで増加した戸数を販売し、その分譲代金を事業費に充当するため、余剰容積率に余裕がないマンションは建て替えが困難となる。建て替えに成功したケースの9割以上が公的機関により供給されたマンションという現実は、公的機関のものは中低層が多く、敷地が広いため一般に余剰容積率が大きいことに起因する。平成12年末までに報告されている阪神淡路大震災時の建て替えを除く全国64件の建て替え事例の平均倍率は3.07倍である。
■マンションの建て替えの円滑化等に関する法律、改正区分所有法の施行
法務省は「建物の区分所有等に関する法律及びマンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律」の施行日を6月1日と発表し、施行した。マンション建て替え円滑化法は、マンションの建て替えに賛成する入居者で組織する「建替組合」に法人格を与え、工事契約を結びやすくする。すなわち入居者が区分所有者法に基づく建て替え決議をした場合、「建て替え組合」に法人格を与えることにより、従前は工事請負会社と入居者が個別に契約する必要があったが、組合が一括して契約可能となり、手続きを簡素化できる。この法案の成立により入居者の登記を「建て替え組合」が一括して申請できる利点もある。また、建て替え前に保有していた所有権などの権利が、建て替え後のマンションに権利変換によりそのまま移行する。
改正後の区分所有法では建替え決議の要件の合理化及び手続きを整備した。従来の「4/5以上の賛成と建物の維持・回復に過分の費用を要するに至った」という要件を見直し、改正後の要件は「4/5以上の賛成」のみとした。ただし、集会の招集通知を2月以上前に発すること、理由、維持・回復費用の内訳、修繕積立金の額等も併せて通知することとされた。建替えを促進する為の諸条件の整備が前進した。
■問題は山積み
まず住民の建て替えに対する意識であるが、負担する費用、工事中の仮住まいの問題に加え、高齢者にとっては、建替え後の建物に長く居住できるとは考えないため、建て替えなど現状の変化より、修繕等を選択しがちである。建て替えの合意の形成に大変な困難性を伴う。成功したケースでも建て替え決議がまとまるのに通常5年~10年程度はかかつている。
さらに民間業者のマンションは専ら事業採算性を重視し、容積充足率が100%に近いため余剰容積率(建築基準法の改正などを経た建て替え時の容積率が基準となる)がないかあっても事業資金を捻出するのが困難なレベルの未消化容積率が多く、建て替えのメリットがないものが殆どらしい。
さらに将来、地価がさらなる下落基調を持続すると未消化容積率の活用による余剰部分の販売価格は敷地部分(敷地権共有部分)の下落により期待予測に反し、事業費充当ができなくなる懸念もある。
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