日韓中露4カ国「北東アジア共同体構想」

北朝鮮の核開発打開問題をめぐる米朝中の3カ国協議が進行している。協議では米国が核開発を検証可能かつ再開不可能な形で放棄するよう要求。北朝鮮側は金正日総書記を中心とした体制存続の保証を求めているようだ(日経04.25)

動静が長期間不明だった金正日総書記は実は訪中し、胡主席が「これ以上の米朝関係の悪化は座視できない」と譲歩を迫ったらしい。中国にとって対米関係が最重要であり、ブッシュ政権を刺激したくないこともあるが、朝鮮半島戦争による北朝鮮難民の大量流入、韓国、日本の核開発の連鎖という悪夢のシナリオを避けたい国内事情もある。

依然、混迷する朝鮮半島情勢だが、もし北朝鮮に民主化の兆しが生まれ、核による脅威が解消し、日朝国交正常化実現など外交・安全保障面が前進すると日本の日本海沿岸地方、中国北東部、極東ロシア、韓国東海岸、北朝鮮、モンゴルからなる「環日本海経済圏」の構想の現実化に向けた動きがでてくる可能性がある。

欧米諸国では、欧州連合(EU)、北大西洋自由貿易地域(NAFTA)などの地域ブロック化が進み、隣接新興市場との連携を強め、その拡大を図っている。欧州復興開発銀行(EBRD)が22日発表した最新の経済移行報告によれば、今年の旧ソ連・東欧地域経済は、欧州連合(EU)加盟候補国などの景気回復に支えられて好調を維持し、実質成長率は4%(昨年は3.7%)に加速する見通しだ。(時事通信4月23日)

日本の地方自冶体や学会で1980年代後半から「環日本海経済圏」の構想と実現が提唱されてきた。「環日本海経済圏」構想とは、日本海に沿った国々が、港湾、空港など物流インフラを整備して、国際貿易や直接投資を通じて、財・サービス・人的交流をスムーズにして域内各国経済の発展を促進していこうとするものである。

新潟経営大学教授イワン・ツエリツシエフ氏は地域統合を進めるには地方を主体とする「環日本海経済圏」より、国家間の協力体制を核心とした「北東アジア共同体」の形成を目指すべきだと語る。

日韓中露4カ国は広大な市場を有し、科学技術力、人材のもつ潜在力は強大である。シベリア、極東ロシアの石油、天然ガス資源を開発し、中韓日に供給するエネルギー供給体制が構築されれば、北東アジアのエネルギー需要急増をまかなうだけでなく中東からの輸入依存度を減らす。天然ガスを利用することが増えれば重工業化による環境破壊を抑制する。さらに朝鮮には豊富な地下資源がある。とくにマグネサイトやタングステンといった貴重な鉱物資源が多く、これらはハイテク産業に欠かせない。鉄道、港湾など物流インフラ整備の足がかりとして昨年9月韓国-北朝鮮間の鉄道工事がロシアなどの技術協力もあってスタートした。

また研究開発協力と人材の交流が日韓中露4カ国間で進めば、中露の安価な労働力の魅力もそうだが、研究者、技術者の質・量もかなりスゴイ。ロシア科学アカデミーなどの研究機関は固体物理学、空気流体動力学、新素材、バイオなどの分野に研究成果を持つ。すでに多数のロシア人技術者が、数々の欧米企業向けのシステム開発に携わっている。

基礎数学に重点を置く旧ソ連以来の教育はいまも健在で、冷戦後の軍事産業の解体で航空機、コンピュータなどの優秀な頭脳が民間に流れた。(日経04.23)

プログラマーの賃金はインドの5分の1と安く、技術水準は国際レベルでみてもかなり優秀。Java、C++、XMLなどの言語で既存の古い基幹システムを異なるプラットフォーム、OS、言語による洗練されたシステムに統合できる多くの経験者を擁する。また中国のIT技術者が優秀なことは、日本のSI間で周知の現実であり、言うまでもない。

域内の人的交流の拡大に重要な分野として観光業もあげられる。北東アジアには未開拓の観光資源が多い。ロシアは、伝統的自然利用区域(TTP)を初め新しいタイプの保護区を設け、人間と多様性に富む生物との共生・調和が持続すると期待されており、政府機関の一部は保護区制度の拡大に熱心に取り組んでいる。最近、エコツーリズムが注目されているが、例えば極東ロシアではアムールトラ(Amur tiger)その他の絶滅危機種の動物のような希少動物やチョウセンマツ(Korean pine)、チョウセンニンジン、クロモミ(black fir)などの保護植物種植物を見学する各種の観光コースが整備され始め、中国・吉林省にはツルの自然保護区や長白山などの観光の目玉がある。

強力な地域経済共同体の組成、拡大を通じてグローバル競争に対応する世界規模のブロック経済化の動きに日本の現状は戦略もなく立ち遅れており、米国依存中心の日本の従来路線は対外経済関係の巨視的視点が欠落していた。日米関係を維持しつつ隣国との連携強化、北東アジア市場の開拓、経営資源の有効活用を図れば、中小企業をはじめとする域内の企業間連携や国際的水平分業の高度化が進み日本経済の再生に大きく寄与するだろう。

■関連記事
  日本の国際競争力
      

おすすめ記事