地価の構造的下落要因予測
1、少子高齢化
少子化の背景には、結婚や出産に対する若者の意識変化と、若者が十分な自立基盤を与えられていないという現状がある。国際的に見れば出生率の高い国は女性向けを含め職業訓練や、あっせん、住宅確保など、若者に対する社会的支援策が充実している。男女とも安定した仕事を持ち自立できるよう教育、雇用、住宅全ての面での支援が必要だが、デフレ、不良債権の出口も見つけられない今の日本には実現は困難だろう。少子化、さらに高齢化問題は年金と医療負担費の増加、労働供給量の減退による産業の衰退、総需要の低下という縮小のスパイラルを予想させる。地価下落の構造的問題と言われる所以だ。この問題は長期的視点にたち解決しなければ地価下落は当然ながら日本社会の根幹にも関わってくる。
高齢化問題だが人と共存し、仕事や生活支援に利用できるいわゆる人間共存型ロボットを活用、助けを借りながら高齢者や女性が仕事をするスタイルが増えると予測されている。個人貯蓄の多くを占める高齢者が身体不安を解消し元気なお年寄りになれば個人消費に寄与する。さらに在宅でのITの活用で高齢者も仕事に参加できる環境作りは可能となる。安全で、操作が簡単で高機能なロボット(ロボット工学は日本は独自技術の優位性をもつ分野)やIT端末は今後の技術進化で実現する。
昨夜のテレビで、筋萎縮症の寝たきり患者が足の指の微妙な動きでPCを使用し、社会参加していた。コンピュータの操作性の進化は知能はあっても体が動かせない身体障害者や高齢者が仕事をすることを可能にしている。
バブル末期の90年、政府は入管法改正で労働力不足を補うため日系2世、3世に限定し日本への定住を認めた。しかし構造的人口減少の危機感のないその場しのぎの将来展望に欠けたものだった。移民問題の権威パリ大学パトリックベール教授が「日本はいずれ国籍法を改正し、移民を受け入れる国になるだろう。早めに準備したほうがいい。」言っている。
最近のアメリカの住宅地地価上昇は米国の住宅価格が上昇しているからだが、上昇要因として米国の人口は毎年1%程度増え続けており、移民の増加が寄与している。ヒスパニックの持ち家率は90年代に3.4ポイント上昇して45.2%、白人の上昇率より高い。しかし、アメリカのように最初から「移民の国」としてスタートした国と異なり、日本は島国であり、単一民族で鎖国などの排他的な歴史をもつだけに、国内には慎重な意見も多い。一旦、移民に踏み切ると、際限がなくなり、そのための混乱状態が懸念されるからだ。
少子化と日本の地政学的、国内的独自性のジレンマに立たされている。しかし少子化は深刻で猶予はできないため、いずれ移民の方向に向かうだろう。この重要な問題に関して日本の政治家は沈黙したままである。
2、産業空洞化
日本の総人口が減少したとき、国家としてどういう産業モデルを描けばよいかこのままだと、大前研一の言葉を借りれば「中国の周辺国」、ニューズウイークは「日本はスイスのような成長を止めた穏やかな国になる」と指摘した。
人口減少時代を乗り越えるには、労働と資本の移動が自由に迅速に行える体制と、新規の起業を奨励し、業種間の絶え間ない革新を行なえる効率的経済社会にすることだ。国境を越えた水平分業の動きは急激に加速している。国際的水平分業でお互いに補完する関係を構築している。情報技術企業や自動車メーカーなどがアジアの生産拠点を再編し始めた。賃金の安い中国での生産は考慮に入れながらも高度な生産技術や効率的な物流体制などを優先し、アジアで自在に生産拠点を構える動きが目立つ。NEC、ソニーは顧客に近いとこで迅速に反応をみる必要が高い高付加価値部分は日本に再移転している。
中国への企業の生産拠点移転も地価下落の構造的要因だ。国内の工場、研究施設から企業の司令塔まで雪崩を打って移転している。低賃金に加え急速に製造品質の向上しているからだ。WTO後の巨大消費市場を狙った移転も相次いでいる。国内、特に地方の地価下落を加速させている。
いま起きている産業空洞化は、製造業ではスマイル・カーブになっており、製品の付加価値が組立・加工部門では低くなり、部品・材料部門や販売サービス部門は高くなっている。組立加工部門など汎用化しやすい部門は低コストの中国で、上流、下流の高付加価値部門は、技術をブラックボックス化しキャッチアップされないよう日本に残す。付加価値の高い日本独自のノウハウを失わない限り、日本製造業の生き残りは可能だ。
さらに日本企業の中国進出などに比べ、対日直接投資が極端に少ない。この原因として大口電力料金、空港使用料、家賃まで生産、営業をする際のビジネスコストは世界一高い。新規開業や海外企業の日本進出の妨げになる規制、制度を変えてゆくのも欠かせない。これらコストなどより対日投資の阻害要因が人材にあると言われている。個々の研究者の質の問題でなく産官学の連携の不備、海外から人材を集めることを阻む大学の慣行や出入国行政にある。
閉じられた経済体系の中で、「日本的経済システム」がうまく機能してるように見えた80年代から日本の競争力、評価は下がり、進出国として魅力を急速に失っている。外資系企業や外国人が入ってくることにより、グローバルな生産、流通のネットワークへのアクセスが進み、閉塞感に満ちたビジネスモデルに活力をもたらす。グローバル化時代に即したモノ、ヒト、企業の自在な動きは国内の経済を活性化し発展させる。グロバリゼーションに乗って異文化を積極的に取り入れ、縮小のスパイラルから活力ある社会を作れるか、閉鎖的で穏やかだが成長しない日本独自の社会を選択するか、この問題は避けて通れないだろう。
3、地価下落の行方
最後に日本の地価だが、上記の少子高齢化、産業の空洞化に加え減損会計による土地売却の加速、所得の低下傾向、IT化による土地の相対的価値減少など地価下落要因は数えきれない。
少子高齢化、人口減少時代が上記で述べた政策の手当てもなく、到来すれば、大半の土地は殆ど見捨てられ地価は底が見えず地価下落し、極一部に住宅や商業機能が集約される。ITにより就業形態や諸施設のありかたがユビキタス時代などの到来で変化するため、現在の都市の機能や外観はかなり変貌するだろう。地価形成要因もITなどコンピュータ技術の革新で、変容する。時間軸を中心とした接近条件は影響が出ると思われる。
都市も産業も高齢者の定義も変化が急激な時代に現状を確定的に考えることはできない。人工知能、量子コンピュータ、ゲノム、バイオと相次ぎ実用レベルに進化する21世紀は、土地という人間の生産活動や生活に根源的役割を果たしてきた財が、まったくそのあり方や機能を変え、蘇生する可能性を否定はできない。特に住においては人間の精神世界は多様であり、癒し、自然回帰、ユビキタス対応のITホーム機能、住・仕事・遊の同位性などがキーワードになるのではなかろうか。
人類史上かつて経験したことがない急激な変化は現状を確定的に考え、その延長上でただ悲観的、楽感的に捉えることが困難な時代の到来を告げている。
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