引越し業界とリロケーション業界の主導権争い / アートコーポレーションのIT戦略
「アート引越しセンター」で知られるアートコーポレーションは1977年創業、引越し専業の草分け的会社で国内海外への引越サービス事業を中心に同フランチャイズ事業、一般家庭、及び事業所のクリーニング事業、トランクルーム事業などを行っており保有車両数1,200輌の大手企業である。しかし個人向け引越しサービスは景気低迷を反映して同業者間の価格競争が激しく、低価格戦略を打ち出したサカイ引越センターなどに激しく追い上げられているため、アートは法人向け引越しサービスをターゲットにし、現在、売上高の30~40%を占め、年率10%以上のペースで成長している。
アートは1997年頃、業界を根底から揺るがす構造変化の危機に直面する。リロケーション会社が企業の人事部、総務部と連携し引越し業務を含む転勤業務をワンストップサービスで一括して請負を始めたからだ。リロケーションとは、移転・配置転換を表す英語「RELOCATION」、つまり転勤者の留守宅を賃貸管理する業務であり、リロケーション会社は、企業の総務・人事部から委託を受け、転勤者の自宅管理から企業の社宅や個人の賃貸住宅として貸し出し、賃貸運営業務の全てを代行する。
企業の総務・人事部は転勤に関連する一連の業務をこれまで手作業でこなし、社宅の手当て、入退去や明渡し時の現況回復、費用清算など本来業務とは無関係業務で業務負荷も大きかった。リロケーション会社は、企業の本来業務以外で手作業で負荷の大きい引越し関連業務のアウトソーシングに狙いを絞り、業務拡大をはかる戦略展開を始めた。この動きは顧客企業を発注者とするとリロケーション会社が元請、引越し会社が下請けという構造を恒常化してしまう。引越し会社がリロケーション会社の下請けにビルトインされてしまうと売り上げは減り、リベートを含めた低価格競争がますます熾烈になる。
アートは下請け回避の切り札として1999年9月からARTist2を稼動した。ARTist2は企業内の転勤に伴う「引越関連業務」を、担当部署に代わって代行、管理・情報提供するシステムである。ARTist2のサーバーを本社に設置、顧客企業にASP方式で提供する。顧客企業はWEBブラウザとインターネット環境があればよく、無償で利用できる。ARTist2の基本システムは「借り上げ社宅リクエストシステム」、「借り上げ社宅管理代行システム」、「転勤引越しおまかせシステム」からなる。登録不動産会社保有の物件検索やリロケーション会社の業務領域である社宅物件探し、社宅管理をサポートする機能まで備え、リロケーション会社のアウトソーシングを顧客企業から排除することを狙っている。すでに大手企業を含む約60社がこのサービスを利用している。
リロケーション会社もARTist2に対抗したシステムを構築し、類似のサービス提供をしている。リロケーションジャパンが2000年12月から稼動させている「リロネット」がそうだ。ITによる業務システムの構成や機能の優劣により他の業界でも元請、下請け、中間排除などの序列争いが加速するだろう。
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