ネガティブ・エクイティ / 住宅ローン破綻予備軍
戦後、都市化の進行と人口集中、所得水準の向上は、日本の総中流化とよばれる独自の上昇志向をもたらし、日本人の土地保有への強力な思い入れもあって持家保有の強力なインセンティブとなってきた。
戦後のアメリカも復員兵の帰国などによる住宅需要などにはじまり爆発的に住宅建設が伸びた。足達基浩ほか著「住宅問題と市場・政策」によるとアメリカ社会は、少数の高所得者と、低所得白人、ヒスパニック・黒人から構成される。アメリカの住宅市場は、ほぼ階層化されており、大半の都市は、都心部、その周辺に低所得層のスラムが多く、ハイウェイの整備で都心と結ばれた郊外にアメリカンドリームの「緑のサーバービア」と呼ばれる庭付き戸建住宅がある。
この状況は、都心部から鉄道などによる時間距離で住宅地が外延的に拡大し、遠距離郊外に田園と混じり低所得層の戸建住宅が建ち並ぶ日本の住宅風景とは異なる。
しかし中流向住宅の規模は、アメリカと比較すると比較にならないほど劣る。住宅の耐用年数も平均26年、20年超えると建物の市場価値がなくなる。米国の44年、英国の75年に比較して非常に短い。78年以降、50戸破壊しながら100戸新築するというスクラップ&ビルドを繰り返し、地球環境を悪化、住宅より土地そのものへの資産保持意欲を右肩上がりの土地神話が支えてきた。しかしバブル崩壊で持家リスクは高まり、ネガティブ・エクイティ(住宅ローン破綻予備軍)は長引く景気低迷とリストラ、企業倒産で急速に増加している。個人の場合、自宅にいくら含み損があっても住み続け、売却をしなければ含み損は顕在化しない。逆に地価下落で固定資産税が安くなるメリットを享受できる。このため過大なローン含み損を背負っていても一般に危機感が薄い。しかし、アングロサクソン型の構造改革、自律せる競争原理が国是となりつつある日本では、1人の金持ち、9人の貧乏人という中間層没落の図式となっていくため、大部分は所得の減少が進行し、年間の返済負担は徐々に重くなる。自宅の価格<ローン残高で売却による返済が不可能となる。
資産デフレの消費への悪影響については、「第一生命経済研究所の試算によれば、雇用不安が顕在化した98年から、01年9月までの間、雇用不安による消費押し下げ効果は勤労者全体でマイナス1.4%、これに対し住宅ローン世帯では、マイナス3.4%にも達した。また可処分所得が1%減少した場合、勤労者全体の消費は0.47%押し下げられるのに対し、住宅ローン世帯への影響は0.88%と倍近い悪影響がでる」(週間ダイヤモンド)。
住宅ローン世帯は雇用不安の影響を強く受け、消費抑制に走り、国内景気低迷の重大な要因となっているのだ。
地価下落の長期化が予測されるなか、経済再生を目指すためには、日本人の病根ともいうべき持家志向は是正されなければならない。個人がその時々のライフスタイル、所得水準に合わせた賃貸住宅の住み替えに居住意識は転換されべきである。モビリティの高い都市のライフスタイルの構築は持ち家よりも賃貸住宅が向いている。
しかし国内の賃貸市場は、改善されるべき課題が多い。まず良好なファミリー向け賃貸住宅が少ない。「国交省の試算では家族で住める広さの賃貸住宅(3人世帯の場合は床面積75平米以上)は、全国で350万戸程度不足している」(日本経済新聞)。高利回り収益性を重視するためワンルームの供給が多いためである。定期借家権の導入後、良好な戸建住宅の供給が増加すると期待されたが、契約時の煩わしさがネックとなり思うように市場に出回ってない。
賃貸住宅の供給も公営、公団住宅が縮小され、民間借家助成措置の遅れも目立つなか、今後、良質な賃貸住宅を大量に供給し、賃貸収入を配当原資とする不動産投資信託や証券化を機動的に組合わせ、都市再生や不動産市場の活性化を志向する時期がきている。
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