急成長する住宅リフォーム業界
1、住宅リフォームの大手参入
住宅業界も少子高齢化で先細り予測が強い新築分譲からリフォームに重点を移行し始めている。住宅リフォーム市場は矢野経済研究所の試算によると00年の6兆7千億円から15年には10兆6千億円と約6割増える見通しだ。
住宅関連大手が相次ぎリフォーム事業に乗り出した。ミサワは戸建増築用の離れ部屋「離れ」を昨年11月に販売しリフォーム事業に本格的に参入した。住友不動産は完全定額制で増改築を請け負う「新築そっくりさん」の受注を拡大する。定額制は採算割れになることもあるが施工件数の拡大で補う。積水化学工業はリフォーム事業拡大のため新築部門から配転させ営業を今年3月には昨春の2倍の1,700人体制とする。
リフォーム急成長を支える媒体としてネットを使ったりフォームサービスの利用者が増加している。ネット自体の利用層と住宅購入層が重なる30代の人が多い。ただ、住宅購入から間もない30代のユーザーは、リフォームの発注も細かな内容が多い。本格的なリフォームを検討するのは、築20年前後の家に住んでいる40~50代が圧倒的に多いため、中高齢者層をいち早く取り込んでいくことが今後の重要な企業戦略となる。
2、住宅リフォームの工事
リフォームの具体的な部位としてはエクステリア、インテリア、設備、耐震補強の大きく4つである。
エクステリアでは外壁のメンテナンスが主体。清掃、塗り替え、張り替えなどだ。タイルは洗浄すればよいし、リシンのような吹き付けは再度吹き付けることになる。屋根は古くなった着色セメント板などは「かぶせ葺き」といって成型金属瓦などでに二重葺きする方法が多く見られる。ただ、老朽化が激しい時は、少し大掛かりな工事になるが葺き替えだろう。
インテリアは間取りの変更と増改築である。通常は壁を取り払う、天井を張り替えるなどかなり大掛かりになる。
設備リフォームは水回りが中心。特にキッチンと浴室。これらの設備機器は傷みや性能の劣化、デザインの老化などが理由で取り替えが中心になる。
耐震補強は阪神大震災で被害が集中したのは現行の耐震基準になった1981年以前に建てられた木造住宅。旧基準住宅は全国2,100万戸。うち約1,300万戸で耐震補強が必要とされている。国土交通省の調査では木造住宅1戸あたりの平均的改修費用は300万円。住宅の新規建設が縮小するなかでリフォーム市場の注目は高いがなかでも市場性有望なのが耐震補強である。この分野でも低コストを実現する様々な工法が生まれている。国土交通省も民間主導で耐震工事を進めようと、住宅の耐震改修費の一部を補助する制度を創設する。
3、各社の戦略
A:インターネットの活用
日経産業新聞はインターネットを使い住宅リフォームの情報を提供したり、コンサルティングするサービスが相次いで登場していると報じている。
INAXや松下電工などの住設機器大手に加え、大阪ガスと組んだNTTグループなど異業種連合も参加してきた。内容は工務店の実力評価を比較できたり、改修後の室内の予想図を立体画像であらかじめ見ることができるなど、施主がほしい情報が盛りだくさんだ。
リフォームの情報仲介会社、ホームクリップ(東京・世田谷、下川啓幸社長)はリフォーム専門のサイトを開き、地方の工務店や設備業業者の情報公開を代行している。加盟店は現在、約400社。サイト上には、消費者が各店に「我が家のキッチンをこう変えれば、費用や後期はどれくらいかかるか」といった質問をぶつけられるコーナーを設けた。利用者は匿名で、最大20店に質問を送ることができる。1店につき5回まで質疑のやりとりが可能。施工店にすれば、いわば相手の見えない公開入札と同じ。各店の見積もりなどを比較するだけではなく、施工店の誠意や熱心さを実感できるため、業者を選ぶ際の参考にできる。ホームクリップはINAXや東京ガス、トステムなどが共同出資し、今年4月に設立したばかり。
従来は新聞のチラシや近所の口コミに頼るしかなかった工務店探しが格段に便利になった。一方、新設住宅着工戸数が減少するなか、情報を提供する側もリフォーム需要の喚起が生き残りに欠かせない。それには住宅、住設機器、ガス配管など住宅を取り巻く専門企業が力を合わせる必要がある。
NTT東日本とNTT西日本は大阪ガスと共同出資のホームプロを設立し、11月にサイトを開設した。最大の売り物は「リフォームの仮想百貨店」とも言うべき豊富な情報。雨戸の取り換え・修理からアレルギー反応の原因となる建材の化学物質の影響調査まで200種類にも及ぶメニューを取り揃えた。利用者は郵便番号と性別、生年、住まいが戸建てか集合住宅かの4点を画面上に入力すると、それぞれのメニューの標準的な料金を表示。そのうえで自宅のある地域周辺に絞り込み、施工業者を5者まで選ぶことができる。名前は実際に工事を頼む段階で始めて施工業者が聞く仕組みだ。3社は住宅事業に直接は関わっていない。しかし、住設機器メーカーが参画していないのは、逆に「特定のメーカー色のないあらゆる住設機器を提供できるという最大の強み」になる。
松下電工は2月に「すむすむドットコム」と銘打った新築とリフォーム情報のサイトを立ち上げた。同サイトは全国約200の工務店のホームぺージと直結している。利用者はネットサーフィンしながら、リフォーム工事を依頼する工務店を探せる。すむすむドットコムは中小工務店支援にもなっている。松下電工はホームページの立ち上げを支援しつつ、その集合体であるポータルサイトを運営し、顧客の呼び込み役も買って出ている。
B:ショールームの活用
従来、住宅設備機器の大手メーカー各社は工務店を通じ販売していたが、消費者情報を直接入手できるショールームを拠点としてリフォーム市場の動向を探るためショールームを積極的に開設している。
日経新聞によるとサンウェーブ工業は東京・新宿に全商品を展示する旗艦店を開店、今後も大阪など大都市で展開する。TOTOはショールームを7割増の120店に拡大する。TOTOは「エンドユーザーに近づくためにショールーム展開はぜひとも必要(重渕雅敏社長)」との考えから、出店ペースを加速する。出店地域はこれまで手付かずだった郊外が中心。
だがリフォーム市場は戸建てと異なり、顧客が商品の最終決定権を握るケースが多い。ユーザーはリフォームのために、最低3~4店のショールームを回る。その中に自社が含まれるかが重要。戸建て住宅会社がモデルハウスの高い維持費に頭を悩ますように、住設会社のショールームも顧客へ強くアピールできるものの、コストがかさむもろはの剣でもある。野村証券の福島研究員は住設会社のショールームは平均で1ヶ所あたりの新規店出店費用は2億円、年間維持費は7千万~8千万円になると試算する。100ヶ所出店すれば、年間維持費は70億~80億円の上り「費用対効果から見て、疑問の余地もある」と福島研究員は指摘する。ショールームの積極展開は住設会社にとって店舗投資を続けながら、収益を伸ばす新しい経営課題を突き付けている。
C:住宅防犯リフォーム事業の展開
住友林業は住宅防犯リフォーム事業を本格化する。世情が不安定で強盗殺人事件や相次ぐピッキング犯罪などにより安全対策の必要性が認識されだした。各警備会社とも都市圏を中心に前年比20%前後のペースで契約が増えている。防犯関連用品や警護サービスの需要が高まる中、セコムや三井住友海上火災保険など防犯関係のノウハウをもつ企業と組み、防犯センサーや盗難保険など関連サービス・機器を販売する。住友林業のリフォーム事業は主に増改築、水回りや内外装に焦点を合わせているが、ピッキング被害などで防犯サービスの需要が拡大しているため防犯関連をリフォームに取り込み、施工の幅を広げる。
全額出資のリフォーム子会社、住友林業ホームテックが来年1月4日から35の全営業所で開始する。防犯関連製品としては、まず防犯ガラスを販売する。日本板硝子の中間膜を挟み込んだガラス「セキュオシリーズ」を採用する。割るのに4~5分かかるため、空き巣などの盗難被害を防げるという。セコムの防犯センサーの取り扱いも始める。侵入者がセンサーに触れるとセコムに自動的に通報され、警備員が10分以内に駆け付ける。標準的な戸建て住宅の場合、センサーの導入費は約48万円。月々4,500円の利用料が必要。ホームセキュリティは長らくセコムの独占状態だったが新規参入も増加し、価格競争は進みそうだ。
D:高齢化対応リフォーム
医療や介護に関する専門知識を持っている人材は高齢者住環境研究所を除き大手住宅会社にもほとんどいない。大手といえども高齢者向け住宅のノウハウはまだ少なく、一般的なバリアフリー住宅なら対応できるが、専門的な知識になると通常の営業・設計スタッフでは難しい。高齢者の症状をかかりつけの医者や作業療法士らによって住宅会社に説明してもらい、連帯して家をつくる必要がある。
戸建て住宅に比べて対応が遅れていたマンションでも、高齢化対応の取り組みが広がっている。三井不動産が東京都世田谷区に設けている「ケアデザインプラザ」では、介護福祉士やケアマネージャーの有資格者ら3人が相談に乗っている。さらに同社は今夏着工した分譲マンションの共用部分全てバリアフリーにする。一部住戸では、介護が必要になった場合に備えて、風呂やトイレなどの水回り部分のすぐ近くに寝室を配した間取りを取り入れる。近鉄不動産が来春以降に完成する物件の共用部分に手すりをつけるほか、居室とバルコニーの間の段差をなくすなどの工夫を取り入れている。
高齢化は今後、ますます進むため介護福祉士やケアマネージャーの有資格者、必要な場合かかりつけの医師などと提携した高齢化リフォームの需要は高い。
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