解りやすいDCF法の話し その3
今回はソフトを使ってのDCF法の実際の評価のプロセスをお話します。前回のコラムで次回は、キャップレート(還元利回り)の話をお約束してましたが、本コラムの利回りのなかで書いています。
DCF法を理解する早道はソフトを使って現実の賃料などのデータでキャッシュフロー表を作成し、その結果、導き出される収益価格、さらにデータの分析機能でその案件のリスクの度合いや評価額の妥当性を検証するという全ての評価・分析プロセスを一度経験してみることです。具体的な数字が目の前で展開することにより、解りにくかった部分が氷解することがよくあります。
DCF法ソフトの市販のものはいくつかありますが、本コラムでは日本システム評価研究所が開発したDCF法ソフト「レシオ」、完成版は本コラム時点で間に合っていませんのでDCF法ソフト「レシオβ版」の画像などを使い、できるだけ解りやすくお話したいと思います。
■評価物件の想定
本コラムでは評価物件として具体的な賃貸ビルを想定し、DCF法を適用して収益価格を求めていきます。キャッシュフロー表を作成し、さらに借りれレバレッジ効果による自己資本帰属収益のIRRを上昇させる方法や、シミュレーション機能を使った高度な投資効果分析やリスク分析などの手法をDCFソフト「レシオ」の画面を利用しながら説明していきたいと思います。難解だったDCF法がソフトを活用すれば誰にでも一応のレベルで不動産評価や投資効果の分析に活用できることを実感されると思います。
東京都△△区○○で稼働中の10階建賃貸ビル、仮称「TPOビル」(実在のビルではありません)で地階が店舗、1階から5階までが事務所、6階から10階まで住宅の各用途一体型を想定し、このビルの収益価格を求め、DCF法によるさまざまな投資分析を試みます。
「新規作成」メニューで作成することにしますが、まっさらの状態で1から入力するのも面倒なときは、類似性の強いビルの評価先例ファイルを利用します。評価先例のデータベースから援用する類似ビルを検索します。初期画面で「既存ファイルを援用して作成」をクリックすると既存ファイルの詳細なデータ一覧が表示されます。
- 「所在」を例えば東京都中野区、「建物種別」を店舗・事務所・共同住宅、「階数」10で検索すると該当する先例ファイルが抽出されますのでそのなかから価格時点が比較的近く、ビルの類似性が強いものを援用することにします。なお評価各項目ごとの並べ替えもできます
- 該当するビルをマウスで選択し、「OK」ボタンをクリックすると「ビル名」を聞いてきますので「TPOビル」と入力すれば終了です。既存ファイルのデータを利用して評価作業が可能となります
※データはサンプルデータで現実のものではありません。
■基本設定、物件価格データ
「基本設定」画面で分析期間やビルの所在、種別、計算方法(全体率による簡易設定かテナント個別に追跡する詳細設定の区分)を入力(または既存データの援用)、選択などをします。「物件価格データ」画面で土地価格、建物価格の査定に必要なデータの入力(または援用)をします。
- 保有期間6年、計算方法は詳細設定と簡易設定が選べますが、この例示は簡易設定でセットしました
- 市町村名をリストボックスから選択、または入力して固定資産税・都市計画税の税率を関連付けておくと次から市町村名に連動して税率が自動でセットされます
- 土地は585.00㎡、土地単価㎡当たり200万円
建物は建物再調達原価㎡当たり15.5万円
延床面積 2,300.00㎡
容積対象面積 2,200.00㎡ - 基準容積率と敷地面積から計算される限界容積率に対する建物の容積対象面積比の容積充足率が自動計算表示されます
- 賃貸面積合計、レンタブル比は「収入入力」画面で各テナントの賃貸面積が入力されると自動表示されます
- 土地価額1,170,000千円、建物積算価格238,855千円が求められました
画面内の「先例データ検索」ボタンをクリックすると基本設定、物件価格データの参考となる土地・建物に関係する評価先例のデータが一覧表示されます。
例えば評価建物の再調達原価を査定するのに過去データを参照したい場合は、建物、単価、構造、種別にチェックマークを入れて検索すれば延床面積、賃貸面積、レンタブル比、再調達原価、総額、躯体割合、設備割合などのデータが一覧表示されます。
■収入(賃料・共益費、敷金、権利金・更新料)
賃料は原則として実際支払い賃料となり、空室分の空室損失や入室時の賃料計算は、募集賃料を参考とし、賃貸事例比較法により査定された新規賃料となります。つまり空室→入室、入れ替えにより継続賃料から新規賃料にモードが変わります。
共益費は、そのなかには賃料の性格を持つ部分もあるのが実情であるため、共益費全額を総収益に計上し、そのなかから支出される水道光熱費、冷暖房費、清掃費などの実費相当部分を総費用に計上する扱いがキャッシュフロー計算では多いようです。
駐車場収入やその他収入(広告看板収入、自動販売機設置収入など)があれば計上します。
一時金の運用益、償却額 敷金、保証金などテナントに返還不要部分については全額を返還準備金として金融機関に預託することを想定してその運用益を計上します。権利金など返還義務がないものは受け入れ時の収入として計上します。
更新料は権利金に準じた扱いとなります。
1、データベースの活用
- DCF法によるキャッシュフロー計算の前提として賃料の水準や敷金の月数、金額、権利金・更新料の妥当性を検証し、分析期間中の収入変動予測を適切に行うことが重要ですが、この検証・予測には評価先例のデータベースが有益です。先例検索ボタンをクリックすると以下の画面が出ます。建物種別、所在、賃貸面積、用途、階数などで検索すると条件に該当する全先例データが一覧表示されます
- 店舗、1階で検索したのが下の画面です。検索一覧表示の賃料等のデータを検討することで、評価物件の収入項目の検証がスムースにできます。(データはサンプルデータで現実のものではありませんが、評価先例データ量が増えればさらにきめ細かい条件で最適なデータを検索・抽出できます)
2、総収入データ入力
データベースによる収入データの検証が済んだら、収入データを入力します。下表の入力データは、収入入力画面で入力し、入力されたデータは一覧表示され、各項目別の並べ替えも可能です。
●レシオ画面(収入データ入力)
●レシオ画面(駐車場収入/その他収入データ入力)
■総費用
総費用の構成項目は以下のとおりです。
- 維持管理費
- 修繕費
- 損害保険料
- その他費用
- 資本的支出
- 公租公課
管理コストは運営管理費等と共用部分の水道光熱費からなり、運営管理費はハードの管理と経営管理業務に区分される。不動産証券化スキームではハード面の管理がプロパティマネジメント、経営管理はアセット・マネジメントとなり、アウトソーシングされるのでPMやAMに支払うフィーが該当する。プロパティマネジメントが経営管理業務まで含むケースも多い。
対象不動産の使用に伴う軽微な損傷や消耗に対する修繕や取替えに要する費用。建物についてエンジニアリングレポートなどがあれば実額計上となるが、大半は総収入や建物価格に一定率を考慮した査定額である。
通常は実額を計上。実額が判明してなければ建物価格に査定料率を考慮して求める。付保額が過大、過小でないか検証する。地震保険などエンジニアリングレポートがあれば参考にする。
上記計上しているもの以外のその他収入に係る支出、借地権付建物の地代など
投資用不動産の取得時、取得後に行われた支出で、その資産の能率、能力を高めるか、資産価値が増加するか、耐用年数が延長するもの。例えば建物の増築や用途変更、設備の増設、取替えなどに要した支出が該当する。
通常は実額を計上。
1、総費用データ入力
エンジニアリングレポートなどを参考に入力します。TPOビルの各費用については、以下のように査定額を計算しました。査定する際、査定の基礎価格と基礎価格に対する率を決めなければいけません。このとき威力を発揮するのが評価先例のデータです。
「経費率先例データ検索」をクリックすると先例の物件で採用した各費用実額から、基礎価格、率など詳細なデータを一覧表示しますので並べ替えなどして参考にすることができます。
●レシオ画面(費用入力)
■変動予測
いままでのプロセスで価格時点におけるTPOビルの総収入、総費用のデータが入力され、賃料年額や諸費用の算定が済んでいます。これからがまさにDCF法の眼目ともいうべき分析期間におけるキャッシュフローを時間軸上で予測・考察し、構築していく作業です。具体的には総収入と総費用がどのように変動するか、各収入、費用項目の変動率を予測するわけですが「レシオ」を使うと複雑な計算はソフトが自動演算しますので、変動率を考えるだけです。
変動率の予測は、経済成長率、金利や人口動態、国民所得動向などマクロレベルの分析に始まり、同一需給圏における市場の需給動向などの地域分析、さらには評価物件の競争力という個別分析レベルまでの階層的・多角的検証が必要です。日頃からマクロの社会経済動向を分析し、売買・賃貸市場の特性、動向および代替・競争等の関係にある類似不動産の需給動向に係る広域的なデータを分析・把握しておかなければなりません。
▲収入変動予測
賃料には新規賃料と継続賃料があり、稼働中の投資ビルでは、テナントの空室や入れ替えに伴うテナントの退出、入居により継続・新規賃料のチャンネルは不断に切り替わります。またTPOビルのように店舗、事務所、住宅と用途が並存しているものは、各用途により賃料や空室率の変動は当然に異なります。全ての用途の需給が同一要因で動き、同程度の影響を受けるということはまず考えられないないからです。したがって変動率は各用途ごとに新規賃料・継続賃料に区分して想定しなければいけません。「レシオ」はこの考えに対応して各用途毎の保有期間+1年間の新規、継続賃料の変動率ならびに空室率、入替率の入力に連動し、空室充足係数などを自動算定して賃料・空室損失、一時金算定をしています。
●レシオ画面(収入変動率)
●レシオ画面(総費用変動率)
■利回り
これまでのプロセスで総収入、総費用の二面から把握された純収益を割り引くための割引率を査定し、さらにはn+1年目(このモデルでは7年目)の純収益から復帰価格を求める最終還元利回りを求めなければなりません。精緻な利回りの査定はDCF法の最重要課題といえます。
利回りの査定は
- データベースを使う
- 利回り査定手法により求める
に大別されます。DCFアナリシスソフト「レシオ」はこの二面機能を併せ持っています。
1、データベースで利回りを求める
投資物件の適正な割引率や還元利回りを求める手法として、評価物件自体の過去のトラックレコードの検証は欠かせませんが、さらにデータベースで評価先例データを参照することがあげられます。
この時に「レシオ」のデータベース機能が威力を発揮します。割引率や還元利回りは、地域別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえて求めることが必要ですが、レシオのデータベース機能で評価先例の利回りデータを検索し、所在、建物種別、敷地面積、築年数、規模(延床面積)、構造、経過年数、用途地域などを一覧で参照することができます。
▲類似の先例評価物件から利回りデータの検索
「TPOビル」の利回り査定に必要なデータを検索してみましょう。
- データ項目
- 検索/ソート
評価番号、ビル名称、住所、建物種別、敷地面積、築年数、規模(延床面積)、構造、経過年数、用途地域、容積率、容積充足率、価格時点、割引率、還元利回り
「所在」を東京都中野区、「用途地域」を商業地域、「建物種別」を店舗・事務所・共同住宅に検索条件を絞って検索するとレシオの画面に該当データが抽出されました
▲利回りデータの比較
検索条件に該当するデータが抽出されました。割引率が5.5~6.0%、還元利回りが7.40~8.00%の範囲にあります。対象案件と抽出データの帰属する物件の諸要因を比較し、利回りを検討します。
【利回り比較項目】
- 空室損失や現行賃料水準の割高感など純収益の将来動向についての予測
- 権利の態様(区分所有、共有、借地を含むケースなど)は改修修繕時の合意の困難性などのリスクとなる
- 規模(敷地面積、延べ床面積、基準階面積等に関する傾向。また基準容積率に比較し実際使用面積が少ない場合、増築、連坦建築物設計制度等の可能性により潜在収益力に影響する)
- 建物の築年数(建築時により耐震基準、コンクリート強度N/mm2、有害物質の使用などが異なる)
- 賃借人の属性(ビルのグレードに影響)
- 管理、修繕状況
- 契約条件、賃貸形式(マルチテナント・シングルテナントの区分、コアの位置等の関係で退出後個別賃貸可能かなど)
2、査定手法により求める
▲割引率の査定
①資金調達割合(借入金と自己資金)に係る割引率から求める方法
- 通常、不動産を購入する場合、購入者は自己資金(エクイティ)と借入金(デッド)を併用するという考えに着目した手法です。市場における標準的な借入金割引率と自己資金割引率をそれぞれの構成割合で加重平均して求めます。借入金割引率は典型的投資家が投資不動産の購入で調達する借入金の金利となり、自己資金割引率は標準的借り入れ条件を前提として投資家が期待するであろう収益率になります
- 例えば証券化の場合であれば、デッドの割引率は、金融機関のノンリコースローンの不動産事業向け長期貸し出し金利を標準とし、保有期間を通じた純収入の変動予測に基づく対象不動産の個別のリスクなどを考慮した査定金利を採用します。エクイティ部分の割引率は取引利回り、投資家のヒヤリング、国債などのリスクフリーレートに不動産投資特有のリスクプレミアム、さらには地域性、対象不動産の個別性を総合勘案して査定し、得られたそれぞれの割引率を自己資金(エクイティ)と借入金(デッド)の構成比で加重平均して求めます
②積み上げ法
無危険資産収益率の代理指標として国債利回りを標準とし、投資対象の危険性、管理の困難性、資産としての安全性を総合加味して求める手法です。
●レシオ画面(割引率査定1、2)
③類似の不動産の取引事例から割引率を求める方法
収益用不動産の取引事例における割引率(IRR)を算定し、対象不動産の割引率を査定する手法です。取引事例のIRRがはじめから解っていれば、そのIRRに事情補正や地域格差係数、個別格差係数を対象不動産との比較で考慮して求められますが、保有期間や保有期間における純収益の推移の直接のデータがないときは、平均的保有期間を想定し、事例不動産の種別、用途に応じた標準的経費率を考慮することで想定純キャッシュフローを想定保有期間内で査定し、IRRを求めることができます。
レシオの場合、取引事例の取引価格、年額家賃のデータから純収益NOIを査定し、想定保有期間n+1(想定復帰価格がある場合、n)年までの純収益推移を想定すると以下のようにIRRが自動計算され、対象不動産と比準することによりIRRが求められます。
●レシオ画面(取引事例のIRRから比準)
▲還元利回りの査定
査定1、借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
この方法は、不動産の取得に際し借入金を利用するケースが多いという資金調達の要素に着目した方法で、不動産投資に係る利回り及び資金調達に際する金融市場の動向を反映させることに優れています。
上記による求め方は基本的に次の式により表されます。
R=RM×M+R×WE
R:還元利回り、RM:借入金還元利回りRM(通常、元利均等償還率)、M:借入金割合、RE:自己資金還元利回り、WE:自己資金割合
レシオ「査定1」で(0.070361×0.60)+(8.50%×0.40)=7.62%と求められます。
査定2、借入金償還余裕率(DSCR)から求める方法
DSCRは年間純収益÷借入金年間返済額(通常は元利均等償還額)で求められます。投資不動産の借入金返済能力を示す指標です。「標準性ガイドライン」では低リスク案件でDSCR>1.2、ハイリスク案件でDSCR>1.5以上とされています。
スタンダード&プアーズによる東京所在の平均的競争力を有するオフィスビルの格付けレベルごとのDSCR参考値(Net Cash FlowでのDSCR計算)では、
レシオ「査定2」でLTV60%、借入金利3.5%、返済期間20年、DSCRを1.8と想定すると
R=RN×M×想定DSCR
=0.070361(元利均等償還率)×60%×1.8(想定DSCR)
=7.60%
と求められます。
●レシオ画面(還元利回り査定)
■キャッシュフロー表(キャッシュフローを全て自動計算表示)
- 収入、費用の各データとこれらの保有期間n+1年間の予想変動率データのエントリーにより、自動計算された各年のキャッシュフロー表が作成されました。例示ビルは店舗2戸、事務所9戸、住宅40戸が並存する稼働中の賃貸ビルですが、継続賃料・新規賃料のモード別、店舗・事務所・住宅の用途別の賃料変動率のデータがキャッシュフロー表に反映されています
- さらにテナントの空室→入室や入れ替えで継続賃料→新規賃料にモードが切り替わり、これらのイベントに連動して敷金、保証金などの一時金は継続賃料で返済され、新規賃料で入金するため一時金残高が変動します。権利金は入室時に、更新料は更新期間の経過により、それぞれ新規、継続の各賃料の組み合わせで入金が発生しますが、レシオはこの辺のロジックとパラメータ処理に対応し、キャッシュフローを全て自動計算します
●レシオ画面(キャッシュフロー表)
★キャッシュフロー表内の財務比率分析指標
OER(営支出比率):運営経費÷総収入
DSCR(借入金償還余裕率):純収益÷借り入れ金元利支払額
BER(損益分岐比率):(運営経費+借り入れ金元利支払額)÷可能総収入
- OER(Operating Expense Ratio)は、各年度の運営支出の有効総収入に占める割合であり、費用対収益の分析指標である
- DSCR(Debt Service Coverage Ratio)は年間元利返済額に対する年間収益率の割合で、DSCRは、大きいほど借入返済の確実性を増し、デフォルトが起きる可能性が低くなる
- BER(Break-Even Ratio)は、各年度の運営支出と借入金返済額の合計額を可能総収入で除して求めた比率をいい、各年度の運営支出と借入金返済額をカバーするには空室率の上限はいかほどかなど分析する指標
借入金は求められた収益価格の約60%に当たる780,372,000円を20年、3.5%の元利均等返済で借り入れるという想定ですが、キャッシュフロー表にはこの条件での借入金元利支払額54,908千円が表示され、各年の純収益に連動したDSCR最大1.78、最小1.48が自動計算されて表示されています。
●レシオ画面(資金調達データ)
■収益価格(全て自動計算表示)
n+1年目の純収益90,357,000円、最終還元利回り7.4%で除して求められた復帰価格1,221,041,000円、復帰費用はないものとします。保有期間6年間の純収益を現在価値に割り引いた純収益現在価値合計額439,834,000円、これに復帰価格現在価値860,786,000円を加算した1,300,620,000円が収益価格として求められています。全て自動計算表示です。
●レシオ画面(収益価格)
■借入金レバレッジ効果分析(全て自動計算表示)
初期投資の自己資金支出額と借入金元利返済額を各年の純収益と保有期間終了時の復帰価格で回収できるとすれば、収入、支出額の正、負を現在価格に複利現価率で割り戻した金額が差し引き0になる割引率であるIRRが決定されます。面倒なIRR計算もソフトが全てやってくれます。
不動産投資において借入金利<割引率の場合、借入金の割合が多くなれば、通常、自己資金部分の内部収益率(IRR)は上昇していきます。自己資金IRRのシミュレートは後述の「レシオ」のシミュレーション機能で行えます。
●レシオ画面(自己資金IRR)
TPOビルの計算(上表は、ソフトで全て自動計算されていますが計算式は下記です)
○期末借入金残高=借入金-元金返済額
○復帰DSCR
=復帰価格÷期末借入金残高
=1.221.041÷599.622
=2.04○自己資金帰属収益
=復帰価格-期末借入金残高=1,221,041-599,622○自己資金IRR
0年 自己資金 -520.248CF表による自己資金帰属収益
1年 43.017
2年 30.515
3年 39.291
4年 29.510
5年 36.213
6年 621.419+26.483
IRR=9.24%
■リスク分析・利回り表(全て自動計算表示)
リスク分析の指標などや、投資効果を分析する利回り表の内容が自動計算され表示されます。
●レシオ画面(リスク分析)
●レシオ画面(利回り表)
■シミュレーション機能
(1)シミュレーション機能
- DCF法で不動産の鑑定評価やリスク分析などを行う場合、一連のプロセスで求められた価格の妥当性を検証したり、リスク分析で財務諸表指標(DSCR、OER、BER)の上限値、下限値などを試行するため、これらの変動要因データをさまざまに変化させシミュレーションします
- DCF法ソフト「レシオ」は、ユニークで強力なシミュレーション機能を実装しています。通常、不動産価格評価ソフトのシミュレーションは、試行錯誤した最終結果のデータのみが残りますが、「レシオ」は、シミュレーション後もシミュレーションを開始する前の「原データ」を記憶し、シミュレーションのプロセスで得られた変動データの組み合わせを「原データ」を含め100回分までインデックスを振り記憶します。一覧表示のなかから最適なインデックス番号を選択すれば、決定値として価格査定の全てのプロセスに自動入力され、再入力の手間が省けるという便利な機能があります
(2)シミュレーション画面レイアウト
レシオのシミュレーション画面の構成は、画面上部に復帰価格、純収益現在価値合計などを算定し、収益価格を演算する一連のプロセスがリアルタイムでみれる収益価格変動ボックス、画面中央部には純収益と分析指標(DSCR、OER、BER)が変動するキャッシュフロー変動表と並び、自己資本帰属収益IRRと初年度収益価格の変動ボックスが配置されています。
画面左側は変動諸要因のパラメータボタンと操作ボタンが配置され、パラメータボタンをクリックするとそれぞれウィンドウが開き、変動データを変化させることができます。変動データに連動してキャッシュフロー表内の純収益・分析指標や収益価格、自己資本帰属収益IRR、初年度収益価格が瞬時にシミュレーションされるのでこれらの変動を確認しながら変動データの入力を同時並行で行えます。
(3)シミュレーションデータの記憶
変動要因データを変化させることにより無数のシミュレーションが可能です。シミュレーション結果をコンピュータに記憶させたい場合は、シミュレーション後、新規開始ボタンをクリックすると次のシミュレーションが開始されますが、それまでの変動データの組み合わせはシミュレーション「ケース2」からはじまるインデックスとして記憶されます。ケースは100回までカウントされそれぞれのデータが全て記憶されます。
例示ビルにレシオのシミュレーション機能を使ってみましょう。証券化不動産の場合、デッド(借入金)を活用したレバレッジ効果を追求しますが、反面、デフォルトの可能性も高まり、借入割合が上昇するとハイリスクハイリターンになります。TPOビルの借入金の借入割合を60%から上限の80%に上昇させてみます。DSCRの目標値をデフォルトのリスクを回避するため平均1.20以上、最低1.0超とした場合、キャッシュフローや収益価格、自己資本帰属収益IRRはどのように変動するでしょうか
●レシオ画面(シミュレーション機能1)
借入条件ボタンをクリックし、借入割合60%を80%相当額1,040,496千円に変更
●レシオ画面(シミュレーション機能2)
○「経費率変動」ボタンをクリック。修繕費2、4、6年の変動率各5%を建物状況からみて3%、3%、8%に変更
○とりあえず他の変動要因は変更せず、このシミュレーションを終わり、「新規開始」ボタンをクリックすると変動データの組み合わせは「ケース2」として記憶される。
●レシオ画面(シミュレーション機能3)
○収益価格 1,301,678千円、自己資金IRR 13.705%に変動し、IRRが上昇している。
○DSCRは最低1.11、最大1.34、平均1.22で目標値はクリアしている。
●レシオ画面(シミュレーション機能4)
○「ケース2」の後、「ケース10」までシミュレーションしたとすると、「一覧表示」ボタンをクリックするとシミュレーション10回分のケース番号と収益価格が一覧表示される。パラメータ項目で入力されたデータは「変更」と表示されている。「変更」をダブルクリックすると入力内容が確認できる。
○最適ケース番号を選択すれば変動データが価格査定プロセスにフィードバックされ自動入力される。
■シミュレーションによる還元利回りと割引率の検証
DCF法を適用して投資不動産の価格評価を行う場合、自己検査や第三者的立場の審査等を問わずその精度や恣意性について検証が行われなければなりませんが、採用した還元利回りと割引率については価格に対する影響度が大きいため特段の留意が求められます。還元利回りと割引率については、鑑定業界などの共通認識として以下の関係式が成立します。
R=Y-Cr
R:総合還元利回り、Y:割引率、Cr:純収益変動率
レシオのシミュレーション画面には利回りのパラメータボタンがあり、キャッシュフロー変動表に分析期間内各年度の純収益利回りが表示されています。パラメータ変動により純収益変動と連動して純収益利回りも表示されるので上記関係式を検証しながら利回りを調整できます。
■詳細設定
- 詳細設定は各テナント単位で1用途999テナント、店舗・事務所・住宅の一体型で999×3テナントの入室、退出を想定し、キャッシュフロー計算する手法です
- 簡易設定は空室率、入替率という全体的視点からの把握に基づきテナントの動向をキャッシュフロー計算に反映させる手法ですが、詳細設定は、個々のテナント毎に契約→入室→退室→入室というサイクルを分析期間内の具体的時点で予測します。このシナリオに連動する継続賃料→新規賃料の賃料変動、賃料変動に連動しない預かり敷金の返済、空室期間の具体的把握とこの間に発生する空室損失、入室時の新規賃料に基づく敷金・保証金等一時金の入金、返還不要な権利金等の入金、さらには更新料の定めがある場合、更新期間を経過した場合の更新料の入金の緻密な計算が可能となります
- 投資用不動産に大規模テナントが存在する場合、占有率に比例し投資リスクは高いので詳細設定で個々のテナント毎に入退室のシナリオを設定するほうがキャッシュフローの精度は高いと言えます
- DCF法ソフト「レシオ」の詳細設定は、データベース標準搭載でデータ処理が設計されているため、1用途999テナント、店舗・事務所・住宅の一体型で999×3テナントについてシナリオ設定が可能です
- 詳細設定画面レイアウト
- カレンダー機能による入退出設定
- 入室時に敷金・保証金、権利金、更新料(更新期間含む)一時金などを設定すると賃料変動率に連動した一時金の入金額が自動計算されます。退出時は預かり敷金等の返済額が自動計算されます
収入基本データと収入変動データに分類されています。収入基本データは価格時点を基準に区分され、価格時点前の入室分は契約時の敷金残高をデータ入力します。収入変動データは契約時点、入室退去時点をカレンダー機能によりデータ入力をします。分析期間や価格時点が表示され残存期間はデータ入力と連動してリアルタイムで表示されます。
カレンダーによる期日入力時には、不合理な期日指定ができないようにカレンダー上部に選択期間がガイド表示される機能などがあります。
●レシオ画面(詳細設定/データ入力)
○部屋番号101号のテナントの個別シナリオを入力。
○入退出はカレンダーによる合理的な日付選択範囲をガイドする機能でゲーム感覚で入力ができる。
●レシオ画面(詳細設定/テナント別賃料一覧)
新規・継続賃料変動率と個別シナリオによる入力データに基づき、賃料計算、一時金授受、更新期間経過による更新料、空室損失を自動計算します。
■グラフ
今までのプロセスで分析期間におけるキャッシュフローが決まり、分析指標が求められましたがこれらの結果をビジュアルに表現したものがグラフです。視覚的な分析は、クライアントなどに対する説明の有効なツールとして欠かせません。レシオのグラフ機能は、マウスの右クリックで上下に見やすい位置までグラフの折れ線や棒線な
どを移動できる点で優れています。
●レシオ画面(キャッシュフローの総収入・総費用、純収益をグラフ表示)
●レシオ画面(DSCR、BERならびに住宅・店舗・事務所空室率をグラフ表示)
●レシオ画面(純収益、借入金返済額、自己資本帰属収益、DSCRをグラフ表示)
■関連記事
アパート投資にDCF法を活用