「PtoP」がインターネットでの取引仕組みを変革する / ナップスター、グヌーテラの誕生と「PtoP」の近未来展望
「PtoP」(peer to peer)がインターネット業界で話題を集めている。「日経インターネットテクノロジー」が米国のインターネット・EC分野の主要企業9社に近未来の技術トレンドを取材した記事によるとPtoPの注目度がいかに高いかがわかる。後述するが音楽などのコンテンツ配信はもとよりBtoBなどのECやYahooに代表される検索エンジンなども根底から変えてしまう底知れない可能性を持っている。「PtoP」技術を応用した不動産情報のビジネスモデルの展開を当社では研究中である。
■ナップスターの誕生
「PtoP」という言葉は,99年5月に開設された米ナップスターが提供している音楽ファイルの共有サービスで一躍有名になった。ナップスターは、19歳の米人ショーン・ファニング氏が開発した音楽データ交換用ソフトで、音楽ファイルをやり取りする際に、ユーザーにサーバーからファイルをダウンロードする方法を採らず、ユーザー同士が1対1で通信し、あるユーザーのパソコンから別のユーザーのパソコンへ直接音楽データを転送する「PtoP」と呼ばれる技術を用いている。
具体的には、ソフトの起動時に自分の持っているMP3などの音楽データのリストを自動的に構築・登録する。こうして、世界中のユーザーのデータリストがナップスター社に集められる。ナップスターは音楽のファイルを格納せずファイルのインデックスだけを持つ。サーバーに音楽ファイルを格納しない訳は、音楽ファイルを格納したサーバーにアクセスが集中してしまい、ユーザーが増加するに従って、システムが耐えきれなくなるためだ。そしてユーザーが欲しい曲を検索すると、あらゆるユーザーのリストから検索され、だれかが持っていればそのユーザーのパソコンから直接ダウンロードすることができる。
ナップスターは,音楽ファイルのインデックスを中央のサーバーに公開することで,個々のユーザーがサーバーを介すことなく,1対1(PtoP)のやり取りで相互に交換できる画期的システムを創造した。
■グヌーテラへの進化
PtoPには2つのタイプがある。 全くサーバーを置かない「純粋型PtoP」方式とある目的の為に中央にサーバを置く「ハイブリッド型PtoP」方式である。そして、ナップスターは「ハイブリッド型PtoP」の方法を採る。主となるサーバが中央にあるが、ファイルを置かずに、ファイルのインデックスだけを置いている。この方式は純粋型PtoPに比べ中央にあるサーバーにセキュリティ機能や著作権保護等の他の機能を加えることができる。
全くサーバーを置かない、「純粋型PtoP」として登場したのがグヌーテラというファイル共有システムである。グヌーテラはAOLのグループ会社が作ったフリーウェアだったが、開発元のAOLは著作権問題を考慮し、グヌーテラを供給するサイトをすぐに閉鎖したが、その間にネット上に流出したという誕生経緯をもつ。
ナップスターと異なるのは、グヌーテラにはディレクトリとしての中央サーバが存在しないのでユーザー個々のコンピュータがそれぞれいくつかのコンピュ ータと接続し、接続されたものが他のコンピュータと接続するということを繰り返すという点だ。まずグヌーテラのクライアント・ソフトをインストールし、共有予定ファイルのデータベースを作る。中央にサーバーを置かないので、ファイル検索のリクエストをすると同じソフトを導入している近くのユーザーへ順次送られる。そこで、そのファイルを所持しているユーザーは、検索元のパソコンユーザーにファイルがあることを伝える。この方式を「純粋型PtoP」と呼ぶ。ナップスターは音楽に使われているMP3という圧縮形式のファイルだけが対象なのに対して、グヌーテラは音楽や映像、文章など様々なファイルの交換が可能なためナップスターの進化システムと言える。
■ナップスター、グヌーテラがもたらした衝撃
まず、音楽業界に激震が走った。ナップスターのMP3ファイル交換というシステムに対し、全米レコード協会(RIAA)が交換されるMP3ファイルが著作権違反であるとして連邦裁に提訴を行っている。申し立てには、広範な著作権侵害と損害を受けたとしている。米フィールド・リサーチがインターネットを利用する2,555人の大学生を対象に調査した結果、ナップスターの利用とCDの販売が落ち込んだことには直接的な関係が見られたという。
グヌーテラの登場でヤフーのような検索サイトも深刻な影響がでるだろう。全くサーバーを置かない「純粋型PtoP」方式を採用し膨大なクライアントマシーンが繋がったグヌーテラには、著作権侵害の訴訟の対象となる企業はなく膨大な数の利用者が対象となるため利用を阻止するのは困難となる。現在、この分散化はさらに進行している。一般の検索エンジンは、ウェブ上を巡回し膨大なデータベースを構築しているが、データの更新に相当の時間を要する。グヌーテラのシステム技術を応用した検索エンジンなら各マシンが「PtoP」で繋がっているため変更された情報はリアルタイム検索が可能となり多様なコンテンツを表示できる可能性がある。マーク・アンドリーセン氏(米ネットスケープ・コミュニケーションズ設立者の1人)が、グヌーテラを利用した検索システムの開発会社、米ゴネジレント・ドットコムに投資したことが最近話題になった。
■「PtoP」の展望
ナップスター自体は、CDから違法コピーされた音楽ファイルがやりとりされているなどの問題を抱えているが、PtoPの仕組み自体は、米国のネット業界に新たな可能性を示した。PtoPを音楽以外の分野に適用しようとする試みが始まっている。
現時点での「PtoP」の主な注目理由は、Webサーバーへの集中の分散である。Webサーバーの公開で人気が高まりアクセスが増加するとサーバーがボトルネックになるが「PtoP」の応用によりWebサーバーへの集中を回避できる。また現在のようなサーバーからダウンロードする仕組みではサーバーの負荷が高まるため「PtoP」の応用はいずれにしても必要である。
BtoBのECに「PtoP」を応用しようとする動きがある。複数の異なる企業の在庫データベースを「PtoP」で接続し、発注されるとその企業の在庫だけでなく他の企業の在庫も検索でき効率的に必要製品を集めることが可能となる。
個人や法人がPtoPの仕組みを使って直接支払いをする方法にも応用可能である。現在、Web上で一般的と言えるのはクレジットカード決済だが、この方法では、支払人と受取人の銀行、クレジットカード会社が個人情報をそれぞれ持つことになるため、個人情報漏洩などの問題があるが支払いにPtoPを使うようにすれば解決する。
「PtoP」の普及上の課題は、ハッカーなどによる攻撃に対するセキュリティである。「PtoP」によりネットワーク内での接続が増加するため攻撃のターゲットにされ易い。
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