産業ファンド投資法人の劣後債について
2月17日、産業ファンド投資法人が、三菱商事を引受先として80億円の劣後債を発行すると発表した。払込日は27日。調達資金の大半を短期借入金返済に充てる。保有物件の一部を売却することもあり、6月末の実質的な有利子負債比率を50%弱と昨年12月末比で約10ポイント下げる。
劣後債はデッドであるが、銀行からの借り入れを含む他の一般債権に対して劣後するため、ローンレンダーにとっては有利子負債と見なさなくてもよく、J-REITの有利子負債比率(LTV)が低下する効果が生まれる。
LTVが高いとJ-REIT市場での低評価につながり投資口価格の足を引っ張るし、金融機関によるリファイナンスも円滑に運ばない。
これまでは、LTVを低下させるために、「第三者割当増資」か「物件売却」が行われてきた。しかし増資による方法は、投資口価格が下落し、PBR<1になっているため、投資口の希薄化を招き、既存投資家の投資価値を毀損してしまう。また物件売却も不動産価格が下落しているため、売却損を発生し、既存投資家の投資価値の毀損を同様に招きやすい。
このように既存手法によるLTV低下策が閉塞状況に陥っていたのだが、新たに登場した「劣後債を発行して資金調達する手法」は、既存手法による資金調達難を解消する第三の手法となり得るため、他のREITでも活用されると期待されている。
なお09年2月、投資信託協会により劣後投資法人債という商品を認める公式見解が出され、投信法や関係諸法令上の解釈が明確化された。
産業ファンド投資法人のIRによると、劣後投資法人債発行の狙いは
- 債券であり、一口当たりの投資口価値が希薄化しない
- 銀行からの借り入れを含む他の一般債権に対して劣後するため、既存レンダーにとって、劣後債資金による既存ローン返済は、LTVの引き下げと同様に受け止められ、銀行取引の安定化につながる
- 既存短期債務を長期債務へ転換することにより、長期比率を高める
としている。1、2については既に説明した通りだが、3は、劣後債80億円のうち78億円は短期借入返済に充当され借入期間を長期化するので財務リスクを低減する効果を生む。
■劣後債の概要
産業ファンド投資法人のIRから抜粋・要約する。
投資法人債の名称:第1回無担保投資法人債(劣後特約付及び適格機関投資家限定)
割当予定先:三菱商事㈱
総額:80億円を上限とする
払込期日:2009年2月27日
償還期日:2014年2月27日
利率:6ヶ月円Libor+250bps
劣後債の返済期間は約5年であることが解る。ここで注目されるのが利率である。劣後債発行のネガティブ要因は、調達金利が高くなるため、調達コストの上昇となって投資家への分配金を低減させるからだ。
「利率:6ヶ月円Libor+250bps」の妥当性であるが、
- 他REITのシニアローンのスプレッドと銀行劣後債の劣後スプレッドからの検証
- 負債・資本コストからの検証
- 事例比較による検証
等のプロセスを経て、決定された。J-REITにおける劣後債は本邦初であり、前例や事例がないので一般事務受託者である三菱UFJ証券からの資料等を参考に決定された。現時点での金利水準から見ると3%台になると思われる。
■劣後債の発行効果
劣後債の発行で産業ファンド投資法人のLTV、長期負債比率がどのように変動するかを示したのが下表であるが、LTV60%を50%弱まで低下させ、長期負債比率も21.4%から38.7%に向上する。
単位% 産業ファンド投資法人平成20年12月期決算説明会資料より引用
- (長期借入+短期借入)/資産合計
- (長期借入+劣後投資法人債)/(長期借入+劣後投資法人債+短期借入)
同投資法人は劣後債発行に加え、保有資産の一部売却を予定している。売却による賃料収入低減と劣後債による調達金利負担増等により08年12月期に比べ、09年6月期は、経常利益、当期純利益が20%強減少する結果、一口当たり分配金が12,132円→9,303円に減少する。
劣後債はLTVを低下させ、リファイナンスリスクをマイルドにし、短期借入の返済に充てることで長期負債比率を向上させて財務基盤を安定化するというメリットがある反面、劣後債は分配・償還が投資口より優先するため投資家への分配金は、調達金利等の上昇分は減少するデメリットもある。マーケットがこの綱引きをどう評価するか注目されるが、この手法は、同投資法人のスポンサーが三菱商事だったから可能であったので、他の下位リートで同手法を選択することは難しいのではないだろうか。
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