下降局面で噴出するJ-REITの制度矛盾
08年のJ-REIT市場は、目を覆うばかりの惨状を呈した。ARESレポート「世界のREIT市場2008-2009」によると、07年11月~08年10月末のJ-REITの価格変動で、株価の下落幅47%に対しJ-REITの下落幅は57%で株価の下落幅を上回った。つまりJ-REITは株価より高いボラテリティで変動したわけである。
J-REIT市場がスタートしたとき、長期保有のミドルリスク・ミドルリターンの商品で、固有の特性から流動性に乏しいという欠陥を持つ不動産を証券取引所に上場し、厳格な開示規制で透明化し、証券市場で取引されることで、流動性プレミアムが付与された透明性の高い金融商品が誕生したというふれこみだった。
個人投資家がコーポレートローンでアパートや賃貸マンションなどの実物不動産をチマチマ買うより、ポートフォリオでリスクが分散され、大数の法則が働くため、不動産の個別リスクが薄められる分、割引率が下がり、その結果、物件を高く買えるという理屈もそれなりの説得性はあった。
しかし現状のJ-REITマーケットはスポンサー力のある価格上位銘柄とそうでない下位銘柄で完全に二極化しており、下位銘柄の利回りは破綻リスクを織り込んでいるためか個人投資家が賃貸住宅をチマチマ買う利回りからはるかに高利回りで乖離している。
銘柄選びもPERやPBR、NAV、FFO、配当利回りなどを直近の決算短信のBS、PLからバリエーションして選択するというより、スポンサー力やリファイナンスリスクなど破綻懸念を探ることにあまりにも重きを置かなければならなくなっている。
J-REIT市場が誕生して8年になるが、マーケットが順調に拡大しているときは隠れていたさまざまな制度矛盾が下降・縮小のマーケット局面が続いているためか噴き出してきており、制度矛盾の放置がJ-REIT市場の歪みを際立たせているともいえる。以下に各方面から指摘されているJ-REITの制度矛盾を列挙すると、
- J-REIT同士で合併する時、吸収される銘柄への割り当て投資口に端数が生じると、その処理を行う手段がない
- 会計・税務の乖離ができない配当要件式の矛盾。例えば物件が減損対象になった場合に税務上と会計上の利益が90%以上異なることになる。法人税の課税を回避する要件として税務上の利益を90%以上配当するという法律上の規定があるため会計上の利益で配当できない
- 外部運用形態のため、投資主と運用会社・スポンサーの間に利益相反問題を抱えている(US-REITは内部運用である)
- J-REITは、導管制要件から利益の全てを投資家に配当し内部留保を持たないため銀行への借入金返済原資は増資か物件売却の選択になる。増資は投資口価格が下落しているため公募増資が困難で第三者割当増資を選択すると低価格で増資をした場合、希薄化を招き既存株主の利益を毀損する。物件売却は不動産価格が下落しており選択しにくい
- 国内外の金融機関、外人投資家に投資家層が隔たっている
以上のような制度矛盾が破綻リスク、投資口価格の高いボラテリティ、運用ガバナンスへの不信感、配当機能不全を招いており、NAVからみて投資妙味を感じてもM&Aが法律的、税制上の制約から機動的に行われず低株価で放置されてしまう原因となっている。国策で制度設置をしたJ-REITのあまりの惨状に危機感を持ったのか、国土交通省がこのような制度矛盾を改善し、合併や再編の促進で市場を活成化しようという動きを見せてきた。現時点で内容の詳細は分かつていないが、J-REITの今後の動向を占う上で注目される。
■関連記事
J-REIT指数見直し買いで反転の兆し