最近の不動産投資マーケット
サブプライム問題にリーマンショック、相次ぐ中堅マンションデベロッパーや新興不動産会社の破綻。ここにきて不動産を巡る環境は最悪。まず、買い手が市場から消えた。業者は在庫処分に血眼。テレビ東京の「ガイヤの夜明け」では「アウトレットマンション」なるものまで登場した。デベが建設したマンションを40~50%値引きでまとめて買い取り、エンドユーザーに2~3割引で売って利ざやを稼ぐビジネスだ。
分譲マンションもそうだが、投資用不動産は、オフィス、レジデンシャル、商業系なべて悪い。オフィスでは堅調といわれていたAクラスビルの市況も悪くなった。企業が入居したくても企業側が想定する賃料水準と募集賃料が乖離しているからだ。企業業績が、①資源価格高騰、②円高、③需要減少(株安、個人消費低迷、世界経済減速)で大幅に下振れしているため、これまでの貸し手市場の強気相場が様変わりしている。
企業業績悪化の象徴がトヨタだ。10月7日、株式市場にトヨタショックが走った。トヨタの09年3月期業績予測が当初予想の1兆6,000億円から6,000億円に大幅下方修正。08年3月期実績の2兆2,703億円から73.6%の大幅減益となった。収益下方修正はトヨタだけでない。ソニー、NEC、キャノンと相次ぎ、日経紙による09年3月期の上場企業の収益予測は前期比26%減。IMFの世界経済見通しでは、日米欧の09年GDP伸び率をマイナス成長に大幅下方修正された。円高と米・欧、新興国の経済減速が外需依存の日本経済の重しになってきた。
オフィス需要は、企業の設備投資と相関が高く、ワーカーの数と1人当たりのオフィス利用床面積の積で決定されるという。設備投資では10月の工作機械受注額(速報値)が前年同月比40.4%減、ワーカー数に影響する有効求人倍率も悪化、09年春入社予定の大卒採用内定者は5年振りに減少した。
東京は、まだ空室率がジワリと増えてきたとはいえ、東京都心5区の9月末オフィスビルの空室率は未だ4%、筆者の住む福岡のオフィスの空室率は10%に近い。仙台、名古屋、福岡など地方政令都市のオフィスビルの供給増は、ファンド勢が地方に進出、マーケットのボリュームや需給バランスを無視して開発型証券化で新規ビル開発を増やした結果だ。すでにサブプライムやリーマンショック以前から需給バランスが崩れる懸念が指摘されていたが、現実のものとなった。
商業系は、雇用削減、個人所得の下振れで個人消費が低迷。内閣府発表の10月の消費者態度指数は、全国の6,720世帯が対象で「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4項目を5段階評価でアンケートを取り、これらをまとめて算出する指数のため、総合的な消費者心理を表す指標としてマーケットが注目する。10月の消費者態度指数は29.4%と前月に比べ2.0ポイント低下した。
構造的問題としてオーバーストアの顕在化がある。個人消費低迷とオーバーストア、これら需給両面の負の連鎖で店舗テナントの売り上げが低下。従ってテナントの賃料負担力も低下している。
日本百貨店協会の9月の全国百貨店売り上高は全年同月比4.7%減で宝飾、高級ブランド品、や衣料品が不振。日本チェーンストア協会による9月のスーパー売上高は既存店ベースで前年同月比2.2%減、2ヶ月連続で前年実績を下回った。
個人消費の低迷を裏付けるデータはさらに続く。日本ショッピングセンター協会による9月のSC売り上げ高は前年比-1.9%で3ヶ月ぶり下落。飲食店舗は原材料値上げとガソリン高で客数が減少し業績低迷が目立つ。9月の外食チェーン既存店売上高4.7%減。
不景気を反映して節約系のユニクロは業績堅調。オーバーストアで苦戦しているリアル店舗に比べ、ネット通販は、対前年比で2割以上の売り上げの伸びだ。近頃のホームエンタメで外出しなくなったからといわれているが、ガソリン代の高騰も要因と思われる。
商業施設は、総じてテナント戸数がレジ系に比べ少ないのでリスクの分散が不十分。空きが出ると次のテナントがなかなか見つからないため、オーナーは売り上げ不振のテナントの賃料値下げ交渉にしぶしぶ応じなければならないケースも増えている。
このようなリスクが表面化した案件商業系リートのトップリート法人。テナントであるイトーヨーカー堂東習志野店が07年2月取得後1年しなくて中途解約通知。同年8月には解約通知を撤回したが賃料を従来の65%、08年3月以降は一定の売り上げ以上の場合、固定+歩合賃料を導入することになった。トップリート側は、08年2月までの間、賃料減額したことになる。また日本リテールファンドもイトーヨーカー堂鳴海店の賃料を20%減額するなど商業系リートの先行きへの不透明感を強めた。
レジ系の賃貸住宅に目を移すとJ-REITをはじめ大苦戦している。ファンドが単身者向けを大量に供給したため、既存物件で空室が増えている。家賃も下落基調だ。賃貸住宅供給業者は、売りに転じている。なかには売上原価の半分以下で在庫処分を急ぐ業者もいる。この先、収益用不動産価格がさらに急落すると読んでるからだ。
価格が高騰した06年前後に物件仕入れしたファンドは、出口を3年後にセットしているケースが多いが、ソロソロそのタイムリミットが来る。リファイナンスが厳しい現状で、売ろうにも買い手が殆ど消えている。投げ売りで市場へ放出され、さらに価格が下落する。これを悪夢と捉えるか、千載一遇の買いのチャンスと捉えるかは、投資家の財務力次第だが。
投機マネーのグローバル化とデリバティブの普及で、世界中の金融商品価格は、想像を絶してハイレバレッジで膨れ上がり、急速に収縮するようになった。収益用不動産の金融商品化が進み、グローバル化されているので、いままでの不動産価格の変動スピードをはるかに超えてマーケットが動いている。大変な時代になったものだ…この時期に投資で不動産買っているヒトの勝算や狙いはなんだろうか?次回コラムで検証する。
■次回記事
バブル崩壊のこの時期に賃貸住宅を買う思惑とは