データで見る福岡市内のアパート、マンション

今回のコラムでは、ネット上で誰でも容易に入手できる公開情報を使って直近の福岡市内の賃貸住宅市場の傾向を探る。

昨夏のサブプライムローン問題の顕在化で、08年に入り投資環境悪化が加速する不動産投資市場であるが、現時における福岡市内の単身者向けのアパート・賃貸マンションのマーケット状況はどうであろうか。

福岡市内で08年に入ってから、特に1棟もの賃貸マンションで成約事例が少ないので、08年10月時点において、ネット上で公開されている市内の単身者向け賃貸住宅の売り登録物件(アパート、区分所有除く賃貸マンション)の属性データをエクセルの統計解析機能を使って分析し、現時における福岡市内のマーケットの傾向を探る。

「単身者向け」という基準で1戸当り賃貸面積30㎡以下の賃貸住宅155物件を売り登録の中から抽出し、階数が2階までの物件を「非堅固建物」、3階以上のものを「堅固建物」に分類した。一般にアパートと呼ばれているものが、非堅固建物で、賃貸マンションが堅固建物に該当するケースが多い。

また取引利回りについては、公開情報から空室や総費用を知ることが困難なので分子を満室想定での年収で統一。分母となる物件価格は売希望価格なので成約時には値交渉などで減額することが多いため、実際の取引利回りは、計算された利回りより若干高めになることに留意しなければならない。

1、福岡市内の賃貸住宅売り物件の平均像は…

■堅固建物(3階以上)

現時点で福岡市内で売りに出ている堅固構造の賃貸住宅(RCやS造の賃貸マンションが該当するケースが多い)の売りデータの平均値から浮かび上がった平均像は、築後、約16年で売希望価格1億2千万円、利回り約9.5%。敷地面積は304㎡程度で延床面積534㎡、容積消化率(延床面積/[土地面積×基準容積率])は87.4%となった。なお容積消化率は、採用データの平均値であって敷地面積、延床面積の各平均値から計算したものではない。

▼賃貸住宅(堅固構造)の平均値

販売価格:120,664,000円
築後経過年数:15.9年
満室想定時の表面利回り:9.5%
敷地面積:304㎡
延床面積:534㎡
容積消化率:87.4%

さらに中央値、最大値、最小値を求めると下表の結果となった。

また築年による取引利回りは、下表の通りで、築後5年未満の築浅は7%で築後20年を超えると10%超となることが解る。

▼堅固構造の表面利回り(平均)

5年未満:7.1%
5-10年未満:8.5%
10-15年未満:9.1%
15-20年未満:9.8%
20-25年未満:10.5%
25年以上:10.6%

■非堅固建物(2階以下)

福岡市内における非堅固建物の賃貸住宅の平均像は、築後約15年で売希望価格約4千万円、利回り約10.7%。敷地面積は209㎡程度で延床面積199㎡、容積消化率66.6%(抽出データの平均値で敷地面積、延床面積の各平均値から計算したものではない)となった。非堅固をアパート、堅固をマンションと置き換えると、土地の利用効率の目安となる容積消化率でアパートはマンションに比べ約20%程度少ない。

▼賃貸住宅(非堅固構造)の平均値

販売価格:39,996,000円
築後経過年数:14.8年
満室想定時の表面利回り:10.7%
敷地面積:209㎡
延床面積:199㎡
容積消化率:66.6%

さらに中央値、最大値、最小値を求めると下表の結果となった。

また築年による満室想定時の表面取引利回りは、下表の通りで、築後5年未満の築浅は8%程度で築後20年を超えると13%超となる。堅固構造に比べると築後10年までは非堅固構造が1%程度高く、築後15年を超えると2%強高くなることが解る。つまりRC造やS造などは、W、LS造に比べ経年による価額の低下が少ないといえる。

▼非堅固構造表面利回り(平均)

5年未満:8.1%
5-10年未満:9.6%
10-15年未満:10.5%
15-20年未満:12.1%
20-25年未満:13.1%

▼利回り比較

2、福岡市内の賃貸住宅利回り予測モデル

売登録物件について、取引利回り(満室時の年額家賃(駐車場含む)÷売り希望価格)と当該賃貸住宅の属性データからなるデータテーブルを作成し、目的変数を利回り、説明変数を築後経過年数、構造(堅固、非堅固)とする重回帰分析を実行し、利回り予測モデル式を求める(重回帰分析実行後、標準化残差の大きいものはデータから除外して再実行した)。

以下の各説明変数の偏回帰係数の値から回帰式が求められた。

利回り=0.0836+-0.0116×建物構造+0.0014×経年

■利回り予測シミュレーション

回帰式の各説明変数のデータを変え予測利回りをシミュレーションを行う。

■重回帰分析結果

説明変数

目的変数である利回りに影響度が高いと思われる説明変数を経年と構造で決定。

実行結果

●相関行列

●重回帰式 目的変数 利回り

●分散分析表

■精度

被説明変数と重回帰式から得られる推定値との相関係数である重相関係数R=0.7103、重相関係数Rの2乗である決定係数R2(寄与率)=0.5046、自由度修正済み決定係数R2’=0.4934とこの回帰モデルは十分ではないものの、ある程度の説明力はあると思われる。

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