沸騰するドバイの不動産投資

未曾有の原油高騰に沸くアラブ首長国連邦(UAE)のなかでも世界中の注目を集めるドバイ。面積3,885平方キロメートル、ほぼ埼玉県くらいの面積のこの国は、いまや欧州と中東、アジアを結ぶゲートウェイとなった。そして強力な磁場に吸い寄せられるように世界中からヒト・モノ・カネが集まっている。

ドバイのランドマークとなった300m超世界一の高さで世界唯一の7つ星ホテルのバージュ・アル・アラブ、その奇抜で先進的なデザインと豪華絢爛な内部空間や調度品は、訪れるセレブ達の度肝を抜く。ナスカの地上絵のように宇宙目線で椰子の木をかたどった人工島「パーム・ジュメイラ」には、高級ホテル、ショッピングモール、コンドミニアム、プライベートビーチ付ビラが建ち並ぶ。そしてドバイ最大手デベロッパーエマール社が建設中の160階建800mの世界一高い超高層ビル「バージュ・ドバイ」など、巨額の資金を投入した新奇な施設や大型開発プロジェクトが狭い国土に目白押しで、21世紀型の未来都市形成の実験が進んでいる。

神田うのが新婚旅行でドバイに行ったとか、ベッカムやトムクルーズがパーム・ジュメイラのビラを別荘で買ったとかの芸能ネタがTVのバラエティ番組に登場。加えてNHKで今年5月に放映された「ドバイ 砂漠にわき出た巨大マネー」でオイルマネーが惜しみなく砂漠の未来都市へ降り注ぐ様が、ドバイへの関心を日本国内で一気に高めた。

1、ドバイの繁栄を可能にしたのは

バブルとも言われる沸騰と熱気は自国のオイルマネーの威力と見られがちだが、ドバイはいわゆる産油国ではない。石油以外の産業が経済全体の97%を占めている。湾岸産油国は、原油が枯渇するときに備え、国内産業の多角化が悲願だが、ドバイはいち早く脱石油を達成した中東のモデル都市でもある。

サウジアラビアやクウェートのようにもともと石油が豊富にあったわけではないが、それでもかつては石油収入が半分近くを占めていた。他の湾岸諸国と比べ石油の埋蔵量が少ないハンディが、バネとなってドバイは経済の多角化に邁進する。例えば物流だ。中東はもともと欧州とアジアの中間に位置し、新興国のインドやロシアにも近い。ドバイは地理的優位性を生かし、物流に力を入れた。

空運、海運、陸運を統合した物流機能を充実させて、国際物流のハブとして繁栄を築いた。また金融の拠点作りも強力に推進している。04年9月に営業開始したドバイ国際金融センター(DIFC)では、100%外資可、法人所得税の免税、為替取引・利益配当送金の自由化などのメリットで200社を超える海外の金融機関が進出。さらに07年8月にドバイ証券取引所(DIFX)とドバイ国際金融取引所の持ち株会社ドバイ取引所も営業開始した。

かつての中東の金融の中心バーレンに代わる国際金融センターとしての地位をドバイが着々と固めているのは、大規模プロジェクトを狙いペルシャ湾岸域内を流れる巨額のマネーの自国取り込みの狙いがあるからだ。

経済特区もドバイを繁栄に導いた。政府は、外資100%の会社設立、資本・利益の100%本国送金を可能とし、外国人労働者雇用の制限なしという条件で経済特区である「ジュベル・アリ・フリーゾーン」を1985年に中東で初めて設置した。

2、流入する海外労働者と急速な都市開発

成長するドバイには多様な国籍の人々が居住している。人口約145万人のうちUAE人は約20%に過ぎない。ほかはインド、パキスタン、イラン、アラブ諸国、東南アジア諸国など180の国と地域の人々からなり、ドバイの人口は、1995~2005年の10年間で約1.7倍に膨張している。

ドバイは、市内の中心部に在るクリークと呼ばれる運河の河口から形成された街で、旧市街はパールドバイ地区やディラ地区と呼ばれる。旧市街は昔の面影を残す街並みでいわば完成された既成市街地である。近年の人口膨張などからクリーク河口から海岸線に沿って開発が急速に進み、未来都市を髣髴とさせる新興市街地を形成している。ドバイの都市開発のスピードは凄まじく、世界の建設クレーンの約2割が集まっているといわれている。

交通機関は、鉄道がなくバス・タクシーなど車依存であるため、近年の建設ラッシュで交通渋滞が酷く社会問題化しているが、渋滞解消のためドバイ・メトロ・プロジェクトと呼ばれる全自動無人運転鉄道を建設中である。日本の大手ゼネコン、設計事務所もさまざまな形で関わっている。「例えば、ドバイのメトロと呼ぶ鉄道のプロジェクトでは、大林、鹿島、ヤピメルカジJVが設計・施工を手がけ、ドバイ国際空港から経済特区のジュベルアリ地区を結ぶ約52.1kmの路線を手がけている。大成建設は、人工島のパーム・ジュメイラ内の海底トンネルのプロジェクトや地上68階建超高層ビル「アルマスタワー」、ドバイで最大の大きさのラウンドアバウトの立体交差化工事などを施工中だ(日経アーキテクチュア、日経コンストラクション記事引用)」。不動産投資の視点で見ると、当該鉄道沿線、特に駅近くは有望視されているようだ。

3、ドバイの不動産投資事情

建設ラッシュは、人口増加に比べ住宅やホテル、商業施設が足りないから引き起こされているのだが、当然ながら不動産価格や家賃の高騰を招く。

UAE地元紙ガルフニュース社の記事では、金融機関からのデータに基づく報告書として「07年第4四半期から08年第1四半期にかけての不動産売買価格が42%も上昇したと発表。」また同記事によると「同報告書ではドバイの家賃は07年1年間で50%も上昇したと発表した。」

このような不動産ブームを当て込んだ不動産投資が海外の機関投資家、個人富裕層を中心に盛んだ。いまでは、ショッピングモールに不動産業者のブースが設けられ、販売物件の模型やカタログで完成物件を見ないでも買えるように外国人の不動産投資が日常化しているが、02年に法律が改正されるまでは外国人による不動産投資はできなかった。その後6年間で不動産取引関連の法整備が進み、「ランド・デパートメント」と呼ばれる役所で登記することも可能になった。しかしドバイでは外国人が購入して所有できる物件やエリアは「フリーフォールド・プロパティ」と呼ばれる一部の地域や物件に限られる。

ドバイの物件購入の特徴は、販売時に完成している物件は殆どないので、建設前か建設中の物件を実物を見ずに購入することだ。販売から完成時まで転売が繰り返され価格が吊り上る。物件価格が販売時から完成までの時間経過のなかで市況の好調さを反映して価格上昇しているとはいえ、買主にとってはリスクが高い購入形態ではある。中古物件は、不動産投資の歴史が浅いため築浅物件しか存在しない。例えば、築2~4年で既に完成している物件は、実物が存在する分、図面だけで購入する新築物件よりリスクが低いため、競争率が非常に高く価格も高い。

4、ドバイは不動産バブルなのか

都市開発のスピードの急速さや不動産価格のあまりの高騰で、ドバイの不動産投資はバブルではないのか?成長伝説は、いつまで続くのか?という指摘がここにきて増えている。日本国内の不動産価格でもその動向を予測するのが難しいのに、中東のドバイのバブルを検証できる術はないのだが、ドバイの不動産バブルを巡るいくつかの見解を紹介し、整理してみよう。

○ポジティブな見解の根拠

  • 人口増加率が高い
  • 住宅やホテル・商業施設の絶対数がもともと少ない
  • 海外からの対内投資が増加している
  • 海外からの労働者(出稼ぎ労働者)の流入が多い
  • テロなどのリスクが低く、国内の治安が安定している
  • 中東周辺諸国がオイルマネーを投資しやすいインフラ整備が進んでおり、物流・金融・観光の拠点としての地位が確立している

○ネガティブな見解の根拠

  • 原油価格の下落による周辺国オイルマネーへの影響
  • インフレが進んでいる
  • 家賃、建築資材、人件費の高騰と工事労働者の就労環境問題
  • 過酷な気候条件(特に夏季の高温)、慢性的な交通渋滞

人口増加と海外からの出稼ぎ労働者の比率の高さは、日本と比較すると極めて対照的な国内事情である。人口増加という前輪駆動エンジンに経済の多角化が加わると近代都市が成長・発展していく要件はほとんど備わる。最近では、短期での転売利益のサヤ抜きを目的とした投機的不動産投資から富裕層が居住を目的とした長期投資へ徐々にシフトしているという見方もある。

しかし、ドバイの建設ラッシュが物凄い速度で進んでおり、街の風景が短期間で目まぐるしく変わるという途方もない膨張が、現状の不動産のストックや需要量と比べて妥当な供給水準になっているかや、地域的な変動状況など細かい検証は必要だ。UAE地元紙ガルフ・ニュース社の記事によると大半の地域で家賃は大幅に上昇しているものの、一部地域では、07年第4四半期から08年第1四半期を比べ、一時的な供給過多による若干の値下げ現象が見られる」と報じている。

マクロ的要因である原油価格の今後の動向とインフレが不動産投資にもたらす影響を考えると、まず原油価格であるが、ドバイはもともと石油埋蔵量が他の中東諸国と比べて少なく、その危機感からいち早く、脱石油、経済の多角化に成功したことを冒頭で書いた。「この先、原油価格が下落しても影響は軽微なのでは」と楽感的に考えがちだが、ドバイの繁栄を支えているのは周辺国のオイルマネーであるという側面があることを見逃せない。

次にインフレだが、中東湾岸諸国に共通してインフレは昂進しているが、UAEのインフレ率は特に高い。サブプライムローン問題で米国経済の信用不安の高まりからドルが売られ、ドル価値が下落しているが、UAEなど湾岸協力会議(GCC)諸国は自国の通貨をドルに連動させているドルペック制を取っているので自国の通貨もドル以外の通貨に対して下落する。その結果、ドル以外の通貨建てで輸入する際の輸入物価が上昇して国内に高インフレが発生している。

高インフレの進行で、ドバイ国内での建設労働者をはじめ賃金値上げ圧力が高まっており、建設コストの上昇に拍車をかけている。さらに出稼ぎの海外労働者が多いのがドバイの特徴だが、インフレで生活費が上昇し、本国への送金が減り、このままでは本国へ帰らざるを得なくなっているのだ。特に住居費の高騰が生活を圧迫している。

不動産投資の視点でみると、割引率の算定上、高インフレ率をリスクフリーレートに加える分、要求投資利回りも高くなるのだが、家賃上昇に対する抑制政策の今後の動向などにも注意が必要となるだろう。

最後にドバイなどイスラム諸国の不動産バブル論で注目すべき見解を紹介すると、米サブプライムローン問題のような住宅バブルの破裂と金融破綻の連鎖は、イスラム金融がムスリムの行動規範であるシャリアに拘束されるという側面からないだろうという見解がある。つまりイスラム教徒は、イスラム教の経典コーランなどに基づくシャリアと呼ばれる行動規範に日常生活が規制される。シャリアのなかで投機的行為を禁止しているため、イスラム金融では、実業と呼ばれる事業活動に対してのみ金融が機能する仕組みに原則としてなっているので、行き過ぎた投機的な投資行動の制御装置として働くという見方である。

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