金融商品取引法施行でAMはどう変わる?
金融商品取引法の施行で不動産ファンドビジネスは大きく変容することになった。特にSPCの投資運用を行ってきたアセットマネジメント(AM)会社は、不動産信託受益権が有価証券となったことで金融商品取引業の登録を受けることが必要となり、投資助言業か投資運用業を選択することを迫られている。
AMビジネスはいままで法律の規制はなく、お手軽、小規模の1層構造ファンドから本格的なポートフォリオ管理を主眼とする2層構造親子ファンドまで、大手不動産系や中小不動産業者などのAM参入でファンドもAM業者も乱立し、物件取得競争の過熱で不動産投資物件の価格高騰の一因ともなってきた。
しかし今回の金融商品取引法施行は、金融庁が、AMに金融商品取引業者として規模、組織、人的構成のハードルを設け、不動産証券化商品の透明性や信頼性を向上することに注力したようだ。皮肉な言い方をするとAM業界をはじめ不動産証券化業界に資力、組織、人材の峻別線を引き、求められる体制を整えることができない業者には早々にお引取りを願うという淘汰を進めることで、受け皿のフイルターを強化し、バブルの鎮静化を図ったともいえる。
投資助言業と投資運用業の違いを簡単に書くと、信託受益権の対象不動産は、有価証券に化体しているが、この有価証券の価値等に対する助言、当該価値の分析に基づく投資判断を助言する業務は助言業の範疇となる。さらにSPCが投資判断の全部または一部をAMにお任せ状態(投資一任契約)として投資判断に必要な権限をAMに委任すると投資運用業の業域に踏み入る。つまりAMのベースは助言業で、投資判断がAMに一任されると運用業の登録までが必要になる。
ところでAMの顧客であるSPCは、匿名組合出資者から募った資金を不動産信託受益権に投資して運用するが、法施行後、不動産信託受益権は有価証券と見なされるので、出資、拠出された金銭は有価証券に対する投資として運用されていると解されるためSPCは投資運用業の登録が必要となる。しかしSPCは、仕組み上、投資運用業を行える実態を持っていない。SPCが業登録を回避するには、SPCが自己運用を行うという建付けにして投資家に適格機関投資家を入れ特例業務届出者になるか、投資運用業者と投資一任契約をして運用権限を委任するという選択になる。つまりSPCが金商法で求められる投資運用業登録を回避するには、AMの業態が重要なポイントになるのである。
さてAM会社にとって投資助言業、投資運用業のいずれを選択するかは、AM会社が自社の業容に付加するバリュー、収益機会拡大などの経営戦略と、そのために負担する体制組成や維持管理コストとの絡みで決定することだが、単なる助言業にさらに投資判断が一任される運用業では、業登録要件(最低資本金や人的構成等)で助言業より難易度が高くなる。
仮にAM会社が、難易度から投資助言業を選択するとしてSPCを包含するファンドの仕組みから考えるとAMが助言業のみの業登録ではたして金商法の要件クリアは大丈夫?という疑問が浮上する。つまりSPCは、単なる投資のビークル、ペーパーカンパニーに過ぎないのであって投資判断を行える組織になっていないため、投資判断を誰がしているの?となる。換言するとこのケースでAMが助言業だけやっていると、実態はSPCから一任を受けてAMが投資判断をやっているのでは?という推論が導かれてしまう。
牛島総合法律事務所の田村幸太郎弁護士は、「SPCの背後の匿名組合出資をしている投資家の意向を無視して、AMが投資判断を一任でやっているという実態はあり得ないし、特に信託受益権等の売却時には投資家の意向を確認するのが通常であるとし、法律論では商法上の匿名組合性から営業者であるSPCが意思決定権や体外的業務執行権などを持つので、背後にいる匿名組合出資者が投資判断をしているという見解は問題もあるが、匿名組合員の営業監視権や内部関係における特約による業務参加権などの権能から説明できるのでは…。そこで匿名組合員をメンバーとする投資判断のための評議会などを設置して、AMが単独で一任業務を遂行していないと担保される仕組みを作る必要がある。」といった趣旨(筆者の理解)のことをARESのWEB研修教材に書いておられる。
金融庁のパブリックコメントへの回答では、AMの業務が投資一任、助言のいずれの業務に該当するかは、個別事例ごとに実態に即して判断するとしているが、この辺の問題は、今後、業界内で混乱や誤解を招かないスタンダードモデルが醸成されていくことで解決されると思われる。
いずれにせよ、法施行で助言業、運用業のいずれかをAM会社が選択するか迫られている。すでにこの法律施行の際に存在する未登録の既存AM会社は、経過措置があるのだが、この点は後日の機会に当コラムで紹介する。
金融商品取引法施行により、AM業界は一部解体し、AM会社を含め金商法適応のための体制整備や管理コストに耐えられない企業は、金融庁の監督外の証券化周辺業態や証券化の枠外で不動産開発や不動産再生ビジネスなどへ特化する動きも出てくると思われる。また業界内部の格差拡大で再編統合も進むのではないだろうか。
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