J-REITの新たな不動産投資対象 / データセンター
三菱商事とUBSがスポンサーのJ-REITでインフラ施設、物流施設を投資対象に特化した産業ファンド投資法人が08年8月にインターネットデータセンター(IDC)を15,198百万円で取得する予定という。テナントとしてソフトバンクテレコム株式会社が入る。
- 所在地:東京都江東区新砂三丁目4番12
- 土地面積:8,041.93㎡
- 延床面積:20,503.98㎡
- 構造と階数:鉄骨造6階建
- 建築時期:平成20年8月(予定)
- 賃借人名:ソフトバンクテレコム株式会社
- 出典:産業ファンド投資法人のWebサイト
IDCとは、インターネット・ビジネスを展開するユーザーのハードウェア、ソフトウェアを事業者が預かり、バックボーンネットワークへの接続やサーバーの運用管理などを代行するサービスである。
IDCは、これから成長が期待される分野だ。人口減少社会を迎え、賃貸住宅の入居者やオフィスのオフィスワーカーが減少、マーケットの縮小を常に懸念しなければならない国内の不動産投資環境にあって、右肩上がりで増え続けているのがデータ量である。米IDCの予想では、08年の世界のデータ量は41万ベタ(ベタは1,000兆)バイトと記録媒体の保存量33万ベタバイトをすでに上回る。つまり計算上ではデータをすべては保存できない時代を迎えている。
また国内のITアウトソーシング市場は年率5%強の成長が続き、09年度には3兆円を超えるといわれているが市場を牽引しているのがIDCの運用委託サービスである。IDC市場は07年度が1兆1千605億円と前年度比7.3%増。12年度には1兆6千340億円に達すると見られている。
企業にとって地震など災害時の事業継続のためのデータバックアップや内部統制対応のためのデータ蓄積・保管の必要性は、急速に高まっており、企業が自前でこれらのITインフラを全て整備するには多額の初期投資、固定費や運用経費がかかるため、IDCへ委託するという需要が増えている訳だ。
IDCは、首都圏、特に東京の大手町に集中している。大手町一帯は、国内トップクラスのネットワーク技術者、サポート技術者など人的資源が集積し、利用顧客企業の拠点が距離的に近いので何かのときに緊密な連携が取れるなどの理由でニーズが高いエリアとなっている。最近になって過去78年間で震度5弱以上の地震が起きていない沖縄へ事業継続の観点からIDCを移す企業も増えている。
IDCのビジネスモデルは、顧客のサーバーを稼動させる場所を貸すという「不動産型産業」といえるし、オーナーがITに疎くてもIDC運用業者が施設やITインフラのオペレーションを担い、オーナーは施設・建物を単に貸すに過ぎないという側面では、ホテルなどに特化したオペレーション型J-REITと類似した不動産投資モデルでもある。
IDCの事業モデルを簡単に見てみると、まずIDCの提供するサービスは2つに分類される。
- ハウジング
企業がIDC施設内の場所を借りてそこに自分のサーバを持ち込み設置稼動するサービスの提供
- ホスティング
サービス提供業者が、電源、サーバー、ネットワーク機器などインフラを用意し、IDCが貸し出したサーバを設置稼動するサービスの提供
企業の生命線ともいえる企業内外業務データやネットワークインフラを預かるIDCに求められるハードのスペックは相当高いものになる。例えば産業ファンド投資法人が取得予定のIIF新砂データセンターであるが、特別高圧受電、UPS(無停電電源装置)容量2,000~2,400kVA(各階)、床荷重1,000kg/㎡(機器室)、2,500kg/㎡(電気室)等最新のスペックを備える。
IDCは、物理的被害に対しては免震耐震構造で耐火性も高めた建築構造を採用し、サーバスペースの床は収容機器が相当の重量になるため耐荷重を高めている。セキュリティも厳重だ。入退室だが、通常、サーバスペースの入口にはICカードや指紋を使った認証機器、内部には警備員や監視カメラなどを設置。不正侵入などのセキュリティ対策は回線に流れる膨大なパケットを常時監視し、不審な兆候を過去の不正侵入事例解析で得たパターンデータと照合し未然に発見。ネットワーク管理者の迅速な対応を可能にしているなどがある。
以上のように建物は堅牢でIDCならではのハイスペックな装備が必要なため、通常のオフィスビルの建設費を上回る。RMJ「高まるインターネットデータセンターの需要」から引用すると、
Tire3が標準スペックで、より高い性能を求める傾向にある外資金融機関等のシステムの運用に耐えられる
Tire4で総建築コストは一般オフィスビルに比べ3~4割増といわれている。
運営コストでは、消費電力の負担が、最近の原油高騰に伴う電力料金高騰で大きい。IT機器の消費電力よりも電源装置や空調設備など周辺インフラ電力消費が大きいといわれている。これら光熱費などコスト負担が莫大なため、サーバーを収容するラックの稼働率など施設の利用率が低下すると途端に収益が悪化してしまう。このため不動産投資対象としてIDCを考えるとき、大口顧客に依存するだけでなく中小業者向けサービスを充実して稼働率リスクを減らす工夫をしたり、オフィスなどへの転用や兼用の柔軟性を高めるなど施設運用者の投資家としての力量が求められる。
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