J-REITの買占めで揺らぐ投資安全性

ついに恐れていた事態が発生した。J-REITの買占めで投資家への配当が減少し、J-REIT投資の安全性が揺らいでいる。投資法人の導管性をめぐる問題だ。

FCレジデンシャル投資法人は、第4期末における税法上の導管性要件が満たされない可能性の高いことを確認し、第4期業績予想を修正した。従来予想から4割程度減少し、一口当たり分配金は5,857円と修正した。この結果、投資主への分配金が大幅に減少する可能性が生じた。

米投資ファンド、プロスペクト社による投資口の買占めで上位3投資主が過半数の投資口を保有することになると同族会社とみなされ、投資法人への法人税課税の回避という税制上の優遇措置が適用されず、利益の損金算入ができないので法人税等の租税負担が発生し、その分、投資主への分配金が大幅減少となる。いわゆるJ-REITの投資法人の導管性の問題だ。

FCレジデンシャル投資法人は、10月5日時点の大量保有報告が期末時点の正確な保有状況ではないこと、投資主名簿記載の同族会社の該当性を税務当局へ確認していくとしているが…。

一般にJ-REITは、非課税の法主体と誤解されることが多いが、実際に上場されているJ-REITは投資法人という課税主体であり、租税特別措置法が規定する要件を充たして当該事業年度の配当可能所得の90%を超える配当を投資主にした場合に限り、当該分配金を損金算入できるため、実質的には法人税が課税されない仕組みになっている。

そして要件の中の1つとして当該事業年度の終了時において法人税法第2条第10号で定める同族会社に該当していないという規定があるが、プロスペクト社の買占めにより投資主上位3社の保有割合が50%を超えるためこの規定に抵触する事態に至ったという話なのだ。

FCレジデンシャル投資法人では、前期決算期末の4月末時点にも同じ問題が発生した。この時はプロスペクトに投資口売却を求めたが、逆に33.5%まで買い増されたため、FCレジデンシャル投資法人の親会社でスポンサー企業であるファンドクリエーションに支援を要請し、持分の2.1%を買い受けひとまず危機を回避した。

プロスペクト社は15銘柄のJ-REIT投資口を保有しており、いずれも時価総額が小さく投資口価格も安い反面、利回りは高い。カーティス・フリーズ会長は投資目的を「まず高い利回り。次に経営陣との対話を通じて投資口価格が割安な状況を改善しキャピタルゲインを狙う」と語り、さらにFCレジデンシャル投資法人大量保有の理由について「ファンドクリは06年10月のジャスダック上場以降、業績修正などで株価が急落しREITのスポンサーとしては不適格。100%出資しているファ不動産投信の株を過半数放出し、実力あるスポンサーを見つけるべきだ」と語る。(日本経済新聞)

これに対してファンドクリの田島社長は「REITの1株主が運用会社の親会社の経営に口を出すのは筋違い。REITの価値を高めるべく他のスポンサーを見つけようとしているが、買占めで分配金減少リスクが高まり提携話が破談になった」と話す。(日本経済新聞)

プロスペクト社の思惑がどうであれ被害を被るのは投資家である。FCレジデンシャル投資法人のJ-REITに投資した投資家で買占めによりJ-REITの導管性が揺らぐリスクを想定して投資した者は少ないだろう。まさに寝耳に水、晴天の霹靂ともいうべき事態が起きてしまった訳だ。時価総額が低いJ-REITには、今回のような買占めで投資法人や運用会社が制御できなくなるリスクが内在していることを露呈した。

もともとJ-REITの導管性については会計上の利益と税務上の配当可能所得の概念上の不統一が乖離を招くリスクが指摘されていた。例えば税務調査で修繕費用などの否認が発生したするとJ-REITが会計上の利益を全額配当しても導管性要件を充たせなくなる懸念があった。米国では宥恕規定が存在し、事後的配当で導管性を充たす仕組みになっている。

今後、J-REITが安全な投資として拡大していくためには、投資家保護の観点からこのような仕組みの不安定さを解決することが急務だろう。

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