企業年金連合会の不動産投資参入

日本経済新聞によると「年金連合会、不動産開発に投資・大手と連携、賃料収入を期待 」という見出しで企業年金連合会の不動産投資への参入を報じている。

国内最大の民間年金基金の企業年金連合会は、08年度から不動産の開発事業への投資を始める。大手の不動産会社と組んで高層のオフィスビルや商業施設を新たに建設し、テナントから得る賃料収入で年金資産を増やす。最大で運用資産13兆円の5%にあたる6,500億円程度を投資に充てる方針。年金マネーの不動産市場への流入が本格化する。企業年金連合会は転職などで勤務先の厚生年金基金を脱退したり、基金が解散した会社員の年金資産を引き取って代わりに運用し、年金を給付する民間機関。転職者の増加で運用資産はこの4年間で2倍強に急増したが、現在の運用先は株式と債券にほぼ限定している。株式運用は株価の上下で運用成績が大きく振れる一方、国内債での運用は年2%以下の利回りしか期待できない

企業年金連合会は、いわゆる機関投資家になるが、国内の年金基金等は、海外の年金基金に比べ株と債券を中心とした運用で、不動産を独立したアセットクラスとして位置づけておらず、不動産の運用に積極的でない。バブル期に不動産投資をして痛い目にあっているからだ。

一方、対照的なのが米国の年金基金である。米国の確定給付企業年金(上位1,000ファンド)の資産配分では、不動産を株や債券などから独立したアセットクラスとして位置づけており全運用資産に占める比率は平均的に3%台である。

特にカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は、不動産の運用に積極的でエクイティ不動産投資の割合は8%である。8%のなかにはリートなどは含まれていない。カルパースの不動産運用のパフォーマンスをモニターするベンチマークインデックスはNCREIFを採用し、運用不動産をリターンとリスクのレベルを基準にしてコアとノンコアに分け、さらに地域分散や用途ごとの運用ガイドラインを設けているほどだ。

海外の年金が不動産投資に積極的な理由としてモダンポートフォリオ理論による分散効果がある。株や債券の値動きと異なった価格変動や総合収益率の変化を示す不動産をアセットアロケーションに組み入れることで、分散効果が発揮され、有効フロンティア曲線が外側に拡大し、リスクとリターンを最適化しながらリターンを高めることが可能となるからである。

最近になって国内の年金基金なども流動性が高いリートをはじめプライベートファンドなど実物投資以外の不動産投資を増やしていく傾向が見られ始めていた。日経の当該記事にある国内の企業年金連合会が不動産投資へ本格的に参入する背景としては、全国の公示地価の動きを見るとまだら模様とはいえ上昇基調になってきた地域が増えておりバブル崩壊後の底なしのデフレ地獄を脱したことと、国内の不動産投資市場が、REITや不動産証券化の拡大で透明性や効率性が高まり、リターンの安定性などの面でかなりリスクヘッジが可能になってきたことなどが考えられる。年金連合会は、大規模な都市再開発事業に計画段階から事業に参入し、10を超える長期投資でインカムリターンを中心とした投資とする予定で、そのための人材確保に動いているそうだ。

不動産投資の理論と実践のレベルで米国に10年遅れていると指摘され続けてきた日本であるが、ここにきて不動産デリバティブの実現に向けた動きが目立つなど、国内の投資インフラの整備が進み始めており、年金連合会の動向は、傘下に50兆円を擁する約1,400の企業年金があるだけに注目される。

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