賢い大家さんの原状回復工事のコストダウン
今回は、大家受難の時代の原状回復工事とそのコストダウンについて書きます。借主は、賃貸借契約終了後に建物を明け渡し原状回復する義務があり、オーナーは、預かった敷金から原状回復に要した費用を精算します。「原状回復における通常使用による損耗は、貸主の負担となる」という判例の集積をベースとして作成された国交省の原状回復ガイドラインそのものには法的拘束力はないものの賃貸借契約において当事者間に強い影響力を持ち得ます。
例外として賃借人の居住・使用により発生した建物価値の減少で、賃借人に故意・過失、善管注意義務違反が認められたり、通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損は、賃借人の負担となります。例えば、賃借人が物を運んだときに柱や壁につけた傷や、賃借人に非があって生じた建物価値の減少ではないが、その後の賃借人の管理が悪かったため損耗が拡大したようなケースで、クーラーからの水漏れを放置し壁が腐食したなどの場合です。
ガイドラインを基に東京ルールが制定され、「原状回復はオーナー負担」という流れのなかで、大家さんが敷金のなかから原状回復部分の費用を回収することが事実上難しくなってきており、大家の経営環境が厳しい折、原状回復にかかる工事費を少しでも削減しなければいけませんが、この手法として、
- 原状回復費用がかからない建材の使用
- 原状回復工事費用のコストダウン
が挙げられます。
国民生活センターなどにおける敷金精算をめぐる苦情、相談の分析によれば、修繕費用請求部位別割合については、
▼修繕費用請求部位別割合
クロス:72%
クリーニング:60%
畳:39%
襖・障子:28%
カーペット等床材:24%
鍵交換:8%
エアコン(清掃):4%
になっています。
クロスの貼り替が圧倒的に多く、ハウスクリーニングがこれに続きます。この辺の原状回復工事の削減やコストダウンをいかにやるかがオーナーの知恵の絞りどころになっているようです。
1、原状回復費用がかからない建材の使用
原状回復で多いのは壁クロスの貼り替えです。特に洗濯機や冷蔵庫、テレビの裏は静電気焼けなどでクロスが黒ずんでしまいますが、国交省ガイドラインでは通常使用損耗となり大家の負担になります。クロスの汚れる箇所は決まっているので、例えば冷蔵庫の裏など汚れやすい箇所に取り替えが容易で安価な発砲スチロール板などを貼り付けておく方法があります。
最近、クロスの表面をフィルムラミネートした「洗えるクロス」も出てきています。10年間の品質保証がついており、保証書を発行の上、汚れが落ちない場合は、落ちない部分の貼り替えを無料で行ってくれるそうです。これだとクロスの貼り替えがないので工事削減に効果的です。
また床材について原状回復ガイドラインではキャスター付椅子による床の損傷は、原則として入居者費用負担になりますが、ベッドやタンスなど通常の生活家具を置くことにより凹みは通常損耗になります。床材はクロスに比べ工事費が高くなるのでこの部位も工夫の価値があります。
簡単な補修ならオーナーがやるとコスト削減になります。例えばフローリングの場合、表面的な傷ならウッドパテを埋め込み、パテが乾いたら補修用の塗料で色を合わせて塗ります。陥没や凹みは床材と同系色の市販(ホームセンターで販売)の補修用クレヨンを塗り込み、余分な補習用クレヨンをきれいな布で拭き取ります。
オーナー自らで修理できない傷や陥没で床材の貼り替えが必要となるとその部分だけというのは難しく、1ロット単位の貼り替えか、その品番が欠番となって在庫が無いときは全面貼り替えになってしまい工事費が嵩みます。
最近、部分貼り替えできるフローリング材などが商品化されており、家具による凹みを生じにくく部分貼り替えができるウッドタイルを使用する手もあります。ぺット可対応物件が増えていますが、ペット可物件は床・壁に汚れや傷がつきにくい建材を使用しており、一般物件にもこのような建材を積極的に取り入れて原状回復工事を削減する方法もあります。
2、原状回復工事費用のコストダウン
原状回復工事を発注する時、オーナーが管理会社を通して施工業者に頼む場合と、直接施工業者に工事依頼をするケースがあります。管理物件が多い管理会社経由の場合、原状回復工事の発注量が多いので施工業者の値引きが大きいという見方もありますが、一般的には施工業者に直接工事発注するほうがコストダウンできます。管理会社を通すとその部分の中間マージンが発生するからです。
▼内装材コスト相場
上記の価格はあくまでも目安であり、施工会社や管理会社、または使用される内装材、施工環境等によって大きく異なる場合があるので注意をいただきたい(資料引用:全国賃貸住宅新聞社)。
ただ管理会社を通すメリットは退去時の立会い、見積もり、敷金の精算まで管理会社がやってくれることです。施工業者によってはこのような一連の業務までやってくれる業者もいるので確認が必要です。しかしながら管理会社に継続してテナント付けなどをお願いしているオーナーとしてはこの手法は使いづらい面があります。
コストダウン効果を突き詰めていくと施工業者が協力業者に各工事を手配する工務店方式よりも各工種(塗装、畳、建具、大工など)の専門業者毎にオーナーが必要に応じて分離発注する方式が中間マージンを削減しベストですが、この手法は複数の工事業者が入る場合、業者の選定から各工事業者間のスケジュール調整などの工程管理を全てオーナーがやらなければならないので大変です。「多能工」といって複数の工事を一人でやれる業者に依頼する方法もあります。ひとりの多能工がすべての工事を手掛ければ、工事費も安く短時間でできます。
いずれにせよ施工業者に直接発注する場合、施工業者の数社から相見積もりを取ることが重要です。まず候補業者のなかからここならと思う1社に現場を見せ、できれば工事数量が正確に把握しやすいように竣工時の図面を渡して見積もりを取ります。工事種別ごとに商品の品番や数量、単価を記載させて工事内容を明確化させた見積書にすることが大切です。その後、他の業者に最初の業者から提示された見積書(工事種別と商品品番のみコピーして単価、金額は見えないようにしておきます)を渡して同一条件で見積もりを取ります。単価を抜いておくのは、業者が金額を合わせたり、安くしたりしてくるからです。要はその業者が通常、いくらで工事を請けているかを見るためです。
数業者からの見積もりが出揃った時点で、工事金額の交渉をします。工事種別、建材品番、数量を同一条件にしているので具体的に金額を比較し交渉ができます。このとき1番安い業者がベストというわけではありません。その単価になった根拠、さらにはほかの工法やどの建材を使うほうがいいのかなどプロとしての意見やアドバイスを聞いて信頼ができる、技術力や提案力があるなどを総合的に判断して業者を決定します。
■関連記事
資産除去債務計上とは