拡大する外国人労働者・留学生向け賃貸住宅市場
これから少子高齢化社会を迎え労働力不足が今後、深刻になると予測されており、外国人労働者の受け入れの必要性が指摘されている。
現状でみると日本の外国人の比率は1%台で、先進諸国に比べると低い。90年代の入管法の改定以降、ブラジル人、中国人、フィリピン人が大きく増加しており、03年末で192万人弱となっている。この間、日本の総人口は2%の増加だが外国人の人口は5割近く増加しており、経団連は15年までに500万人の外国人労働者が必要と試算している。この辺の国内事情に強い関心を寄せているのが供給過多による空室拡大に悩む賃貸住宅のオーナーである。外国人相手の賃貸住宅経営で少子高齢化社会を乗り切ろうというわけだ。
また日本にいる留学生の数は全国賃貸住宅新聞では93年に約5万人、01年で約7万人、06年で9万人前後と増え続けており、特に韓国からの留学生が増加している。
「レオパレス21は、外国人に利用しやすいように敷金・礼金・保証人の必要が無い前払い方式の賃貸サービスで留学生向けの賃貸需要を拡大している。02年に韓国ソウルに留学生の申し込み窓口を設けたが、当初の利用者704人が06年には1,198人に急増している。韓国では就職の際、英語に加え第2外国語を身につけていることが強みになり中国語か、日本語を選ぶ人が多い。大学生が1年間休学して日本に語学留学するケースが高まっている。」(日経産業)
同社では中国人留学生の利用はまだ少ないが、経済成長を背景とした富裕層の増加で今後は増えていくと期待しており、現在ある上海店から店舗を増やして行く予定だ。
それでは外国人向けの賃貸住宅の実情を見ていこう(本コラムでは外国人向けの高級賃貸住宅であるサービスアパートメントは対象外とする)。例えば外国人留学生の場合、最初は、日本に不慣れで日本語が解らないので地元の不動産業者を通して住む場所を探すことができないため母国の留学生センター、学校から学生寮など紹介を受けて住むケースが多い。
しかししばらく住むと学生寮では同国人だけのコミュ二ケーションしか成り立たず、わざわざ日本に留学に来た意味がないので、日本人と接する機会が取れる住まいを探すということになるそうだ。しかし不動産業者を回っても家主は「家賃滞納したまま帰国されてはたまらない」と考える人が多いので入居することは厳しい。このような留学生や外国人労働者を受け入れる賃貸住宅としてゲストハウス、ルームシェアリングがある。
■ゲストハウス、ルームシェアリング
●ゲストハウス
1週間や1ヶ月から利用可能な家具、備品付き短期賃貸マンション。敷金・礼金・仲介手数料が不要。保証人も不要。玄関、リビング、キッチン、風呂、トイレなどは共同で使用
●ルームシェアリング
1つの部屋で2人以上の入居者が生活する居住形態。通常は1つのプライベートルームと台所・リビングルームといった共有スペースというかたちで利用されるが、これ以外にも多様な利用形態がある。
ゲストハウスは、「食事の提供がない学生向けの下宿」といったイメージに近い。外国人が単独でアパートやマンションを借りるのは日本では大家が嫌って難しいので外国人向けのゲストハウスを借りることが多い。玄関、リビング、キッチン、風呂、トイレなどは共同で使用するようになっており料金的には、マンスリー・ウィークリーマンションに比べてかなり割安になる。またルームシェアリングは家賃や公共料金を入居者で折半して広い部屋を借りることができるので負担が少ない。
■不動産投資面からの検討
外国人向けのゲストハウス、ルームシェアリングは、現状ではオーナーが敬遠するのが一般的なので、築年数が相当経過したアパート、マンション等で空室が増え、やむなくゲストハウス、ルームシェアリングを採用しているというケースが大半である。外国人労働者や留学生が居住すると以下のような問題やトラブルが発生するといわれている。
- 外国人が居住しているというだけで入居者や近隣住民に警戒され評判を落とす
- 同国の仲間等が集まるため昼夜を問わず騒音がする
- ゴミの分別(燃えるゴミ、燃えないゴミ)が判らず、ゴミの出し方が悪い、自転車の使用方法が解らない
- 言語、文化が異質で特に言葉が解らないため契約のルール徹底が難しい
- 家賃滞納不安がある
一方、外国人労働者等は年々増加しており、国内の賃貸住宅の供給過多でこれらの需要をいか取り込んでいくかがこれからの賃貸住宅を投資として考えた重要な視点となっている。
ゲストハウスは外国人だけでなく、身近に外国人との交流が日常生活レベルで体験できる場として、外国語や外国文化に関心がある日本人の入居者も増えており、さらに企業で国際的感覚を持った人材を養成する教育訓練として一定期間、社員にゲストハウスに体験入居させるところもでてきている。
ルームシェアリングは、人気漫画が映画化された「NANA―ナナ―」で日本の若い女性の間で新しいライフスタイルとして急速に関心を集め、1人暮らしに不安を感じる女性入居者を中心に需要が増加している。このようにこれらの住居形態は外国人だけでなく日本人にも認知度が高まっており、地場の不動産会社などでは低稼働率の収益物件や独身寮をゲストハウスとして再生し、空室を埋める試みが行われ成功例も見られだした。再生といってもリノベーションにそれほど多額の投資を必要とせずに一定の効果が期待できるため、縮小する国内需要に替わり需要が拡大する外国人向け賃貸住宅投資が注目されている。
不動産投資として考えると解決されるべき課題も多い。物件のオーナーが敬遠する外国人入居の際の諸問題であるが、まず異文化、言葉の問題とそこから発生するトラブルについては入居者の中にリーダーを設定し、入居者、家主、管理会社との間のコミュニケーションを改善する工夫がされている。リーダーの報酬は家賃等で考慮しインセンティブが与えられるようだ。不動産業者でも外国人が多いゲストハウス、ルームシェアリングについては数カ国語が話せる通訳などを雇用している業者も見受けられる。また不動産業者向けに外国人対象の契約書、重説を作成支援するサイトも出現している。例えば全国賃貸住宅新聞社によると韓国人向けの物件情報配信を行うリアル・ウェブは同社のサイトから集客した客の契約までサポート。契約に言葉が解るスタッフが同行したり、契約書、重説を作成を行っている。
外国人の場合、保証人は日本人でということになるので、これがネックになっていたが、外国人の入居保証をする会社も誕生した。グローバルネットワークスは外国人向けの家賃滞納保証、入居前の対面審査、語学セミナー、契約時の立会いなどの支援事業を行っている。
外国人と聞くだけで尻込みする賃貸住宅オーナーであるが、以上のような対応を徹底し、誠実に向かい合うと意外にトラブルは少なく大半は偏見に基づくものである。外国人向け賃貸住宅ビジネスは、課題とされたソフトとハード面も徐々にを整備されつつあり、新たな投資チャンスを志向する展開となっていきそうだ。
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